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女社長、転生したら貧乏令嬢!?貧乏領地を立て直します 〜現代知識で異世界経営戦略〜  作者: 冬馬


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9/15

豚の餌か毒か

パン屋から歩いて10分ほど。

豚小屋の裏に、無造作に山積みにされ、

屋根もなく芽が伸び放題のジャガイモがあった。


「これじゃ豚の餌ね」


山から1つ手に取って丹念に観察をした。


大きさも色も芽の形も知っているものだった。

10数年前にこの領地を苦しめたものが、

今から領地を救う食料に変わる。


「これならやれるわ」


勝ち戦だとこのときは思っていた。



「なぁ、嬢ちゃんよ、そろそろ酵母の作り方を教えてくれても⋯⋯」


昨日の一件で肝を冷やしたのか、バンズの姿勢が何故か低い。


「なんのことかしら、予定よりも早く売ったせいで酵母はなくなるわ、

なぜか、昨日はいつものパンがほとんど売れ残ったようね」

「面目ない」

「フフッ」


大きい身体を小さくして、許しと教えを請おうとするバンズを見て

アシュが小さく笑った。


「まぁテスト販売出来たから見えた問題点があるから、

今回は許してあげるけど!本当に次はないですからね」


15歳の子供に本気で怒られる30歳越えの大人の構図はきっと違和感があるだろう。


「とりあえず、酵母を大量生産する段取りを考えないといけないわね」


昨日の売れ行きを考えると、結構大掛かりな設備投資をしないと、

毎日りんごの酵母を準備することが出来ない。


ある意味では、みんな食に飢えている裏返しでもある。


「やっぱ樽が必要か」

「そうね、それと樽でも酵母を作れるかやってみないといけないしね」


柔らかいパンもまだまだクリアしないといけない問題が山積みだ。


「それよりも今はこれよ!」


カバンから昨日持ち帰ったジャガイモをバンズに見せる。


「うん?豚の餌がどうした?」


あ~そうなのね、ここでは完全に豚の餌って認識なのね。


「これをね、食べようと思うの」

「嬢ちゃん、死にたいのか?」

「ジャガイモってね、ちゃんと調理すれば立派な食材なのよ」


そう言ってみせても、バンズは疑いの目を向け、

あのアシュさえも、どことなく暗い顔をしている。


「ライ麦だって、粉にしてこねてパンにしているでしょ?」

「そうだけどよ⋯⋯」


体験に勝るものはないとよく言うけど、

いい面ばかりじゃない。


「もういいわ!バンズさんとりあえず鍋にお湯を沸かして!

アシュは私の手伝いをして」


2人に指示を出して、平行線になりかけた場を動かす。


「小さいやつはダメよ、このなんか生えているものを身ごと大きくえぐって、

あと、緑色になっているところも大きく切り取って」


指示をすぐに理解して手際よく処理をするアシュ。


「嬢ちゃんはやらないのか?」

「!?」


なんでそこをツッコんでくるの。


「⋯⋯やれないのよ」

「なんだって?」


「だ・か・ら!包丁が使えないの!!!」


「あっ!わりぃ」


全く悪びれた様子を感じない。


「だがよ、本当に食べるのか?」

「食べれるものを食べるのは普通のことでしょ」


アシュが処理したジャガイモを沸騰した鍋に入れ、

時折木の棒で突っつきながら茹で上がるのを待った。



「出来たわ!」


ホッカホカに湯で上がったジャガイモを半分に割ると、

中から湯気と食欲を誘う匂いが鼻を刺激してきた。


「うまそうではあるな」


そう言った後に、バンズの喉が鳴ったのが聞こえた。


熱々のジャガイモを手に取った時、ふと一つの疑問が口に運ぶのを止めた。


りんごから酵母は出来た。

ライ麦では白くてフカフカのパンは作れない。

聞く限りでのジャガイモの症状は元の世界と一緒。


それでも、本当に原因は同じだろうか?


元の世界では、芽と緑色に変色した部分に毒素が含まれている。

それが、この世界でも通用するのか?


あぁーもう、このくらいの量なら毒があったってお腹を壊すだけ。


覚悟を決めて口に近づけたときに、

2人の手がそれ以上動くことを妨げた。


「嬢ちゃんが食うのは違うぞ」

「毒見は私の仕事です」


一瞬の躊躇いが2人を心配させてしまった。


「違うの、怖いから躊躇ったわけじゃないの」

「躊躇いのせいではありません、危険だとわかっているものをお嬢様が口にするのは、

私が許しません。ですから、私が先に毒見いたします」

「メイドが言うように、万が一があったら困るから嬢ちゃんは最後だ」


2人はジャガイモを手に取り、躊躇なくかぶり付いた。


一口目を食べ終わった短い沈黙を破るように、


「うめぇなこれ」

「ホカホカで、美味しいです」


感想を聞いて涎がこぼれかけるのを堪えて、

私ももう一度ジャガイモを食べようとすると、


「とりあえず、1時間は待つべきだ」

「そうですね」


え!?


2人して美味しそうに食べ続けているのを見せつけられて、

おあずけを喰らわないといけないの?


そんなことを考えている間もなく、アシュは1個を食べ終わり、

バンズに関しては、2個目を食べ始めている。



4回目の砂時計が落ちきって1時間が過ぎた。

2人にはまったく症状が現れていない。


過去の中毒騒動のときは、食べてから1時間前後で症状が出たようだ。


バンズ自身も中毒を体験しているから、食べ終わった後に少し不安そうだったが、


「ここまで経ちゃ、問題ないってことだな」

「大丈夫?本当に無理はしていない?」

「えぇ、本当に問題ありません」


やっぱり、中毒騒動は元の世界と一緒で芽と変色部分を除去すれば、

回避できるってことね。


「それなら私も食べないと」


おわずけをくらった分、期待が膨らみ続けていたのに、

手に取ったジャガイモは完全に冷めきっていた。


「ホッカホカが⋯⋯」

「今から茹でるからちょっと待て」


急いで鍋にジャガイモを入れて茹で始めてくれた。



結局私が食べれたのは1時間半以上経ってからだ。


「これよこれ。ホッカホカのほろほろ」


あぁ~マヨネーズかバターがあれば言うことないのに。


「ねぇ、バターって珍しいの?」

「バターは貴族とかしか食べられないな」


アシュの方を振り返ると、首を何度か横に振ってきた。


そうね、貴族といってもうちは貧乏貴族ですから。


「しかし、これで本当に食べれるなら事件だな」


中毒騒動を体験してきたバンズがそういうんだから、

本当に大事なんだろう。


「だけど、もしジャガイモが主食に変わると、

パンが売れなくなるかもしれません⋯⋯」

「そんなのどうってことないだろ、腹減らしているガキを見るよりはマシだ」


パン屋はお父様が出資しているから潰れることはないだろうけど、

売れないないものを準備するのが苦痛にならないか心配。


「とりあえず、今日1日体調に気をつけて、

ジャガイモと酵母に関しては明日考えましょう」


「あのよ⋯⋯余ったこれは、リリィに食べさせてもいいか?」


ちょっと赤くなって聞いてきたことに、私とアシュは笑ってしまった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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