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女社長、転生したら貧乏令嬢!?貧乏領地を立て直します 〜現代知識で異世界経営戦略〜  作者: 冬馬


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現場の暴走

「パンを4つください」

「はい」


店舗ではいつもと変わらないやり取りが行われていた。


「パン4つと、これはお試しのパン2つおつけしますね」

「お試しですか?」

「リズ様とバンズの力作です」


『新商品です』と出して売れるほど、

この領地に余裕はない。


だから、購入者にサービスで新商品を体験してもらうしかなかった。


店舗はリリィ任せて、バンズの執念が生んだパンを偶然で終わらせないため、

再現テストを実施して、商品に出来るかを検討した。



「なるほど、店舗では止まった発酵が、

工房に運んだら更に膨らんだってことは⋯⋯」

「たぶん、温度だな」

「そうですね、前回は生地が乾いてしまったけど今回は濡れ布で防止できているから

純粋に発酵だけが進んでいるってことですね」


生地を乾かしていた温度が、今は発酵に必要なんて驚きね。


本当は温度計があれば、定量的に判断できるけど、

とりあえず今は、店舗で1段階目の発酵させて、

工房で2段階目の発酵をさせるって感じが良さそうだ。


「でも、ひとつ不安が残りますね」

「なにがだ?」

「今はまだ夏前ですけど、冬になったときに再現出来るかです」

「ここですら、冬には1枚羽織って作業するしな」


それでも、店舗で1時間、工房で1時間寝かせれば、

あのパンを再現出来ることを証明できたことは大きい。


「今日試しに配ってますから、明日の反応が楽しみですね」

「昨日の嬢ちゃんと領主様の反応を見たら成功間違いなしだ」


懸念点が本当はもう1つある。


「バンズさん、もし新しいパンが受け入れられたときにですね。

発酵時間を確保するために、作業時間を1時間前倒す必要が出てきます」


いくら頭の中で標準作業票を組み上げても、

開店時間を変えない限り不可能だった。


「別に1時間だろう!そのかわりに1時間早く帰れるだろ?」


すごい!全体の作業時間は変わらないことをわかってる。


「1時間早く起きるよりも、変わった今のほうが嬉しいぜ」


そう言って、粉だらけの手で私の頭をクチャクチャにしてきた。

この人は一応私が領主の娘と理解しているのだろうか。



夕飯には、新商品のパンが並べられていた。


シルクは喜びながらスープを付けずに、お父様とお母様も顎が疲れないなんて言いながら、

そのまま食べている。


そんな光景を目にしてやったかいを実感はした。

それでも、お父様たちの前にパン以外を並べられていない。


パン屋の利益を増やしたところで、根本的解決にはなっていない。

あくまでも、私が動けるようにするための実績作りでしかない。



食事を終えて自室の椅子に座りながら帳簿を眺める。


「麦にりんごにジャガイモ⋯⋯」


麦はパンに、りんごはそのまま食べている。

じゃ、ジャガイモは?


普通に考えれば、麦よりもジャガイモが主食になっていておかしくない。

ましてや、この領地では麦7りんご2ジャガイモ1という、

いびつな生産配分になっている。


数字にしか目が行っていなかったせいで、ライ麦のことを見落としていた。

同じ轍は踏まないように、1から帳簿を読み返して新たな気づきを得たのが、

ジャガイモとこの領地の構造的問題だ。


「明日新パンの反応を確認してから、ジャガイモのことを調べよう」



パン屋に通いすぎて、ピークタイムは完璧に把握済み。

顧客の声を聞くために、その時間を狙ってパン屋へと向かう。


「なんか揉めてる?」


ピークタイムとはいっても、客がなぜか捌けていない。

店舗の外にまで、客が溢れている状況だ。


客にあいさつをしながらどうにかリリィのところまでたどり着いた。


「この状況は?」

「それが⋯⋯」


リリィが客の方に目線を逸らすやいなや。


「リズ様なんですか?昨日のパンを作ったのは?」

「???」


私がパンを作った?

意味を理解する前に、奥からバンズが声を掛けてきた。


「嬢ちゃんおせぇぞ!ちょっとこっち来てくれ」


何がなんやらと、とりあえず言われるままに工房に退散した。


「どういうことですか?」

「みんな昨日試しで渡したパンを売ってくれって言うんで、

さっきから生地の発酵待ちなんだ。」

「うそでしょ?」


気がつけば、工房内に発酵待ちの生地が置かれていた。


それなりに反響はあると思っていたがここまでとは予想していなかった。


「あのパンなら、歯がないばあさんでも食べれたとか、

子供が残さなかったとかで、売ってくれって言うんで急いで作ってるってわけよ」

「でも、今日の反応を見て売るか決める予定だったし、

販売価格だってまだ決まっていないわよ?」


りんごの酵母を使っているわけだから、今までのパンと同じ値段とはいかない。

最低でもりんごの仕入れ値は入れないと、改善した利益が無駄になってしまう。


「あれが食いたいって客を無下には出来なかったんだ。

頼む!いくらで売ればいい?」


急に振られても!とバンズを睨みながら、

フル回転させて頭で電卓を弾く。


従来のパンの売値が100イェン。

30イェンのりんご1個で、酵母が大体400cc作れて砂糖も少し入れているから⋯⋯


酵母を作る工数はまだ調べてないんだけど!!


「120イェン!!!」


厳密に計算しきれてないけど言い放った。


「多分原価は100イェンちょいのはず、だから利益率10%で120イェンで売って」

「リリィに伝えてくる」


帳簿を読み返しておいてよかった。

りんごと砂糖の20年間の仕入れ値の推移を把握できていなければ無理だった。


どっと疲れて椅子に座り込むと、

横でアシュがパチパチと小さく手を叩いてくれていた。


「これをしに来たんじゃないんだけどね」


なんて、毒づいてみながら戻ってきたバンズに質問した。


「ねぇ、なんでジャガイモは食べていないの?」

「うん?メイドに聞いてないのか?」

「アシュにもセバスにも聞いたわ」


パン屋に来る前に、念の為2人には聞いていたが、

実際に食品に携わっている人間の話も聞きたかった。


「そりゃ、あれを食うと腹を壊すからな」


バンズから返ってきた答えは2人と一緒だった。


「あれはやばいぞ、10年ちょい前に作り始めたんだけどよ。

はじめは良かったんだ。だけど、ちょっとしてから腹が痛くなるやつが出はじめて、

終いには、吐くやつまで出て来て、最後には子どもとじじばばが数人⋯⋯」


言い切るまえに、バンズは視線を逸らした。


「それからは、発育はいいから豚の餌用に取るだけになったな」


この領地は、ジャガイモの”毒”を体験して来たんだ。


だから、食物ではなく飼料でしか使ってないから、

あのいびつな生産配分になるわけだ。


「ジャガイモってどこに行けば手に入るの?」

「街の外れの豚小屋に行けば、山になってはずだぜ」


いつから落ちていたかわからない砂時計が落ちきると、


「発酵2段階目が終わったからこれから焼き始めるぜ」


作業の邪魔になりそうだから工房を出ようとしたときに、

りんごの身だけが入っている瓶が目に入った。


ふとあることに気づいてしまった。


「バンズさん!」

「なんだ?」

「明日以降の酵母ないわよ」

「へ!?」


私が事前に作っていたのは約2L分の瓶5本だけ、

それが全部殻ってことは、明日の分はない。


「おい!どうするんだよ!?」

「知らないわよ、そういうのも準備するためにすぐに売り出さなかったの!」


とりあえず、今日は売るけど次は来週以降になるとリリィに伝えてもらうようにして、

私は、工房を若干不安な気持ちで出ることになった。



読んでいただき、ありがとうございました!

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