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女社長、転生したら貧乏令嬢!?貧乏領地を立て直します 〜現代知識で異世界経営戦略〜  作者: 冬馬


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7/15

届けられた執念のパン

工房から戻ってからも少ない知識を総動員して、

何が足りなかったのかを模索した。


夕食に食べたパンよりも確かに柔らかった。

ただ、食感は今の方が数段上なのを再認識した。


求めているのはふわふわできめ細やかな白いパン。


「白い?」


今になって違和感に気付いた。


部屋に残していた去年の帳簿を開く。

作物の項目――麦、りんご、ジャガイモ。


どこにも小麦なんて書いていない。


硬さばかりに目が行って見落としていた。

夕食の灰色のパンが浮かんだ。


部屋を飛び出してアシュを探した。


「この時間はどこに居るだろう」


玄関ホールにたどり着くと丁度セバスと鉢合った。


「リズ様、お急ぎのようですがどういたしましたか?」


物腰の柔らかい口調で問いかけてきた。


「丁度良かったわ。ねぇセバス、帳簿には麦としか書かれていなかったんだけど

詳細な種類って分かるかしら?」

「当領地で栽培しております麦は、ライ麦という種類でございます」


やっぱり⋯⋯


なんでこんな大切なことを見落としていたんだろう。


ありがとうとお礼を言って離れようとしたときに、

玄関の扉が勢いよく開いた。


すぐさまセバスが、私の前に駆け寄り守ろうとした。


「リズ様はいますか?」


この声は?


ドアからなだれ込むように入ってきた人物に、


「バンズさん?」

「あぁ~、そこに居たか」


息を切らしながら2階の踊り場に居る私を見つけ、


「これ見てくれよ!」


そう言って差し出された手にはバスケットが握られていた。


セバスに、彼は怪しい人じゃないと説明し、

彼のもとに駆け寄った。


「こんな時間にどうしたんですか?」

「いいからこれを見ろって」


深く息を吸い、吐き出した息はどこか自信に満ち溢れていた。


バスケットの中には、昼間にたくさん見たパンが入っていた。


「これがどうしました?」

「食べてみてくれ」


半ば強引に口にねじ込んできたパンは、

昼間の柔らかさに、夕食に食べた食感が合わさったものだった。


「どうしたのこれ?」


問いかけながらもう一度口に運んで確かめる。


ふわふわではない、でもスカスカでもモソモソでも食感に、

気づけば食べきってしまっていた。


「嬢ちゃんが帰った後に、俺でもなにか出来ないかってやったらよ、

はじめは店舗に置いていたんだけど、リリィが掃除するからって生地を工房に移動させて

焼き時間とか変えてやってる間に、置いてた生地がもっと膨らんだんだよ」


明日なんて言っていたバンズが、あの後も1人でやっていたなんて。


「それで焼いてみたら、食感はそのままに柔らかくなったから嬉しくて来ちまった」

「あなたって人は⋯⋯」


昼間に堪えたものがとうとう抑えられなく溢れ出してしまった。


元の世界でも、成果を出すために残業している社員は居た。

彼らは、賃金の対価としての労務だからだ。


でもバンズは違う、別に私に付き合わなくたっていい、

いままで通りに仕事をしていても、誰も怒らない。


なのに、今ここにこのパンを持ってきてくれたことが、

こんなにも嬉しい。



「リズ様、大丈夫でございますか?」

「セバス⋯⋯これ食べてみて」


鼻をすすりながら、バンズの執念のパンを手渡す。


「それでは、失礼いたします」


口に入れ、歯を立てた瞬間にセバスの眉が一瞬跳ねる。

この1ヶ月近くで、セバスが驚いたところなんて見たことがなかった。


「私、こんなに柔らかいパンを食べたのははじめてでございます」


パンを食べ終わった後に、軽く口をハンカチで拭いた後、

深々とバンズに対してお辞儀をしてみせた。


ホールでの騒ぎに気付いたお父様たちが、

いつの間にか2階の踊り場に集まっていた。


事情を説明して、お父様たちにも試食してもらった。


「お姉様、なんて食べやすいんですかこのパンは」

「本当ね、ふやかさなくてもそのまま食べれるわ」


シルクとお母様の反応は上々であった。

ふとお父様の方を見る。


「⋯⋯」


何も言わない、でも確かめるように食べている。


勝手なことをするなと思われたかな?

急に不安になってしまった。


「リズ、バンズ――」

「「はい!?」」


急な呼びかけに二人して声が上ずった。


「よくやってくれた」


これまで悲壮感や諦めの顔つきだったお父様に、

少しだけど生命力が宿ったように見えた。


「お父様、このパンを領民にも試食してもらって、

喜んでもらえたら売ってもいいですか?」


そう、作るのが目的じゃない。

領民に食べてもらってはじめて意味を持つ。


「好きにやってみなさい」


そう言って、2階へと戻っていった。


「バンズさん!明日からもっと忙しくなりますよ」

「おう、楽しくなってきたな」


利益も大切だ、でもせっかく食べるなら美味しいものがいい。

きっとこれで知ってもらえるはず。


読んでいただき、ありがとうございました!

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