はじめての外販
昼時前、私とマリーはアシュが操る荷馬車に乗って、
他領の隣町でヴェルデンイモを売りに行く道中だ。
「緊張しますね」
「大丈夫よ、昨日いっぱい練習したじゃない」
「売れると良いですけど⋯⋯」
「そこは任せて、ちゃんと調べてあるから」
領地から馬車で30分ほどの範囲に3つの町がある。
その中で、流通の要になっている街をチョイスした。
「ほら見えてきた」
私が指さした先には、立派な壁と門があった。
「すごいですね、石であんな高い壁を作れるなんて」
目を輝かせるマリーを横目に、
自領との差を突きつけられた気がして胸が痛んだ。
門の前には長蛇の列。
「街に入るだけど時間が掛かりそうですね」
「この規模の街だと、誰彼入れられないからね、気長に待とう」
40分ほどで私たちの順番になり、
目的と荷物を確認するだけで、すんなり通れた。
「これが人と物が集まるわけね」
「どういうことですか?」
「このくらいの街だと、普通は入るだけでお金を取られるの」
「えっ!?なんでですか?」
「人と物が集まる場所ってそれだけで商品なのよ」
「それなのにタダなのは?」
「たぶん、人が多く来ることで店が繁盛して税で稼いでいる」
街に入って、人の多さは想像以上だった。
「お嬢様、あちらです」
アシュが伸ばした手の先に『自由市場』と書かれた看板があった。
「ここが今日の私たちの戦場よ」
アシュとマリーを急かして市場に向かった。
運よく、商品を売り切ったことで、
店じまいをする人に場所を譲ってもらい、
市場の真ん中に店を構えられた。
3人で台に茹でイモとヴェルデンイモを並べている最中に、
「今日は運が良かったけど、やっぱ場所取りが重要ね」
「奥の方はほとんど人が行っていないですからね」
とはいっても、現状だとこの時間に来るほかない。
「まぁ、今日は売って売って売りまくりましょう」
アシュとマリーの前に拳を突き出して意気込む。
「マリーは試食の準備して、アシュは店の前で呼び込みね」
茹でイモ100個にヴェルデンイモ150個、
売り切れば、5000イェンの利益が出る見込みだ。
準備が完了して、いざ開店!
はじめは、アシュを見て足を止める人はいたけど、
買ってくれるところまではいかない。
見慣れないものはダメかと、
次の手を考えていると、
「これはなんだい?」
「ヴェルデン領でしか取れないイモで作ったものです」
「へぇ~⋯⋯」
うーんと悩む客。
「よかったら試食しますか?」
「出来るのかい?」
「はい!」
そう言って、マリーは一切れずつ手渡す。
「結構甘いんだな」
「甘みもありますし、腹持ちもいいですよ」
来るときには緊張するって言っていたのに、
普通に接客出来ているじゃない。
「じゃ、茹でイモ1つ」
「はい、50イェンになります」
買った客を見送ったあと、
「「いぇーい」」
3人でハイタッチをした。
「マリー普通に接客出来ていたわよ」
「でも見て下さい」
マリーが自分の足に視線を落とすと、
しっかりと震えていた。
「はじめはそんなもんよ、慣れればなくなるわ」
はいと言って、両手を握るマリー。
「待っていてもしょうがないから、
積極的に試食をさせるわ」
私は、茹でイモを大きめにアシュに切ってもらい、
店の前で試食させまくった。
「リズ様のおかげで、一気に売れだしましたね」
「そりゃ、買いそうな人を選んだから」
「わかるのですか?」
「考えなさい」
「何をですか?」
客の対応をしながらマリーに説明する。
「今まで20人くらい買っていったけど気づかない?」
「ごめんなさい⋯⋯」
「今は昼時を過ぎてしまった。だから、今これを欲しい人は?」
「うーん⋯⋯街を出る人ですね!」
「そういうこと、私が声かけたのは旅人といった人よ」
「年が変わらないのに、リズ様って本当に頭がいいのですね」
マリーに驚嘆されるけど、
中身は3◯歳なんです。
「そうやって、時間帯とか売るもので客を選ぶのが大切」
「精進します」
「じゃ、これ持っていってらっしゃい」
マリーに試食がのった皿を手渡し店の外に出す。
「あたふたしてるのかわいい」
なんて、マリーを観察しているだけど、
横からのすっごい視線を感じている。
「はぁ⋯⋯」
本当は関わったらだめなんだろう。
それでも、ほっとけない性格が声を掛けてしまう。
「あなた達はなにかしら?」
そこには10歳ほどの子供が3人立っていた。
身なりを見るに、物乞いかその類だろう。
「これたべてもいいのか?」
見込み客に対して試食をさせるのであって、
見るからに買えなさそうな客に試食させてもな⋯⋯
理屈ではわかってはいるけど、
「一切れずつよ」
そう言って、切った茹でイモを渡す。
子供たちは、なにも言わず受け取って、
すぐに食べ終えてしまった。
食べ終えた3人の目は、まだくれと語っている。
どうあしらうか考えていると、
「坊主どもさっさと離れな!」
隣で雑貨を売っていたおばさんが、棒を振って子供達を追い払った。
「あんた達はじめてかい?」
「そうです」
「ならしょうがないけど、あいつらを相手にしたらいけないよ」
「孤児かなんかですか?」
「そうよ、ここのすぐ近くに住み着いててね」
「ありがとうございます」
軽く会釈をして、客の対応に戻る。
孤児に物乞い、どの世界でもやっぱりいるのね。
あんまり暗い部分は見たくなかった。
荷馬車の元へ戻る道中。
「ぶっちゃけ、全部売れるとは思っていなかったわ」
「そうだったんですか!?」
「売れても半分かなって、だからマリーのおかげよ」
「リズ様!」
叫びながら抱きついてくるマリー。
「アシュもありがとうね」
「お嬢様のためですから」
試食を多く出したため、利益は少し減ったけど、
このペースで売れれば樽を買うのも夢じゃない。
「明日もあるから早く戻りましょう」
2人に声を掛けたとき、路地裏から叫び声が聞こえた。
「またお前らか!」
路地裏の方を見ると、子供達が逃げ、
ほうきを持った男性が追っていた。
「さっきの子供だ」
私は小さく呟いた。
マリーが何かを思い口を開く。
「今は、領主様のおかげで住む場所も食事もあるけど⋯⋯」
私の手を取りギュッと握る。
「心配しなくても、大丈夫よ」
ほんと、私ってお節介が好きみたいね。
「アシュ!子供達を捕まえて」
「かしこまりました」
アシュは、こちらに走ってくる子供達を難なく捕まえる。
「ハァハァ、ありがとうよ。そいつら売り物を盗みやがって」
「おいくらかしら?」
「あ?」
「盗んだ代金はおいくらかと聞いています」
「300イェンだが」
私は小袋から硬貨を3枚出して男性に手渡した。
「じゃ、これで問題ありませんね」
奪うように硬貨を取って路地裏に戻っていく男性。
「で、あなた達はさっきの子供ね」
アシュの腕の中で暴れる子供達に私は告げる。
「あなた達は私に300イェンの貸しが出来たの」
「誰も助けてくれなんて言ってない」
「それはそうね!」
わざと驚いた様に見せる。
「じゃ、取引をしましょう」
「取引?」
帰りに食べるつもりだったパンを取り出し、
3人の見せて話を聞かせる。
「明日から市場の一番いい場所を取りなさい、
そしたら、300イェンはチャラでこのパンもあげるわ」
3人は暴れるのをやめて顔を見合わせる。
「本当か?」
「それに、毎日パンとさっき食べたイモも付けてあげる」
「「「やる!!!」」」
「放していいわ」
アシュから解放されると、
飛びつく勢いでパンにかぶりついた。
「帰りのパン、ごめんね」
マリーに謝ったけど、大きく首を振ってくれた。
「いい!一番いい場所よ!それ以外は認めないわよ」
「任せて」
子供達はパンを咥えて走っていった。
「リズ様はリズ様ですね」
「どういうこと?」
「ただ施すだけじゃなくて、場所取りさせるなんて」
「対価は必要だからね」
300イェンは痛い出費だけど、
必要経費だと思えば目をつぶれる。
「早く帰りましょう!」
2人の手を取って、帰路についた。
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