新しい仲間たち
「お母様までこんなことしなくても――」
「リズが頑張っているのに、手伝だわないでどうするの」
「と言っても」
「私結構こういうこと好きなのよ」
お母様は微笑み掛けてくれた。
半月前に収穫されたジャガイモを、
私とお母様も領民に混じって選別している。
「リズのお陰でね、食卓にこれが並んでお母様嬉しいのよ」
「やっぱりパンだけじゃ⋯⋯」
「ううん、私が言うのもおかしいけどね、なんか変わりだしたって感じるの」
嬉しそうに語るお母様の横で、
何故か胸の奥がこそばゆくなった。
「リズ様!」
「どうしたの?」
母親と作業に参加した子供が私に駆け寄ってくる。
「見てみて、こんな大きなジャガイモがあったの」
キャベツ大のジャガイモを両手に抱えて見せてくれた。
「今日一番の大きさね、売り物には出来ないから持って帰って良いわよ」
子供の目が大きく見開いて輝いた。
「リズ様、ありがとうございます」
小さすぎては毒の危険があり、大きすぎては商品として売り出せない。
この選別はバラつきをなくすためのものだ。
「お嬢様、そろそろバンズ様との約束の時間です」
「もうそんな時間なの?お母様ごめんなさい」
「大丈夫よ、早くいってらっしゃい」
他の作業している人たちにも伝えて、
急ぎ足でパン屋へと向かった。
「遅れてはないわね」
息を切らし工房に入るやいなや、遅刻してないか確認する。
「丁度良いところに来たな」
工房にはバンズの他に、若い男女が2人居た。
「「リズ様、こんにちは」」
「こんにちは」
2人の挨拶をどうにか返せたけど、
喉が渇いていた。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
当然のように水を差し出すアシュ。
あぁ~本当にあなたはなんて完璧なの。
渡された水を一気飲みして、乾いた喉を潤し一呼吸置いて、
「あなた達が、ジャガイモ部隊ね」
「「はい」」
彼らは、パン屋でジャガイモを茹でるために雇った従業員だ。
「先に名前を聞いてもいいかしら」
「アレンです」
「私はマリーです」
「アレンとマリーね」
バンズに頼んで見つけた2人に業務内容を説明する。
「午前中はジャガイモを茹でて、
パンが焼き終わった後に、ヴェルデンイモを作ってもらうわ」
「「はい」」
竹のようにまっすぐ立って返事をする2人だけど、
相当緊張しているようね。
「お!とうとう名前が決まったのか」
「領地の名を付けただけだけどね」
「いいじゃねか、名前だけでうちのもんだってわかる」
先々代までの帳簿や資料を読んだけど、
この領地から作物以外が売り出された記録はなかった。
この領地初の商品、だから領地の名を付ける意味は大きい。
「そんな緊張すんなって」
微動だにしない2人を見て、バンズが青年の背中を軽く叩いた。
「そうよ、あなた達は私の従業員だから、リラックス、リラックス」
とはいっても、そう簡単には無理なのは理解している。
元の世界で、毎年入っていた新入社員がそうだったから。
「とりあえず、作業を説明するわね」
芽や変色部分の除去の仕方、木の串で茹で加減の確認。
これらを実際に見せてから、2人にやってもらう。
「OJTなんて久しぶりだわ」
「オーヂェテー?」
「なっ!?なんでもないわ」
無意識に口にしたせいで、無駄な冷や汗をかいてしまった。
2人の作業姿を眺めていると、
「それで⋯⋯」
「なにかしら」
なにか言い淀むバンズ。
「酵母の方は⋯⋯」
「あぁー、完全に忘れていたわ」
「!?、まじかよ」
力が抜けて膝をついた。
「あれ以来、毎日あのパンはいつ売るんだってせっつかれて」
悲痛な声で訴えるせいで、いじわるした罪悪感が痛い。
「冗談よ、樽1個分が明後日には出来上がるわよ」
「そうだよな、嬢ちゃんが忘れるわけないよな」
なに、この変わりようは!!!
「小さい樽で作ってるから、持って5日分ね」
「嬢ちゃんの見立てだと何個必要だ?」
「安全を見て3樽、欲を言えば4樽はほしいわね」
「道のりは遠いな」
本当は2樽仕込んでいるけど、1つは別で使う予定がある。
「ヴェルデンイモが売れれば、3樽なんてすぐよ」
「期待しているぜ」
2人が茹でたジャガイモが問題ないことを確認して、
パン屋で40イェンで売りはじめた。
本当は50イェンで売りたかったけど、
お父様と話し合って40イェンにした。
2人を雇っても利益は出せるラインだ。
「じゃ次は、ヴェルデンイモの作り方ね」
「「はい」」
「でわバンズ先生お願いします」
「俺に振るのか?」
「あなたしか窯を扱えないでしょ」
「そりゃそっか」
頭を掻きながら作り方を教え始める。
「さっき茹でたイモをお椀で潰して、1個ずつ油をかける」
3日前にはじめて作ったのに、作業が手慣れている。
「後は、プレートに20個並べて窯にぶち込む、
あとはこれが2回落ちきったら焼き上がりだ」
そう言って、砂時計を手渡す。
「あの⋯⋯」
マリーが恐る恐る手を挙げる。
「どうした?」
「薪を入れたりとかも私たちの作業でしょうか?」
「そうだが」
「火加減ってどのくらいかってありますか?」
女の子らしい質問だ。
多分家でも料理を手伝っているんだろう。
「このくらいだ!」
自信アリ気に窯の下の火を指差すバンズの後頭部をひっぱたいた。
「いてぇな!」
「あのね、それじゃわからないでしょ」
「と言っても、他に伝えようがないだろうよ」
それはそうだ、屋敷内を探し回ったけど温度計なんて見つからなかった。
「とりあえず、火の大きさとかを覚えながら出来上がったものを確認して」
「「はい」」
砂時計で時間は決められても、窯の温度がイコールでないと、
同じものを作り続けることはできない。
まぁ、茹でてあるから中が半生っていう問題は起きない。
「こう考えると、毎日同じパンを作れるあなたってすごいのね」
バンズの方を見て語りかけるが、
何も言わず、鼻先を指で掻きながら照れる。
この世界の職人の偉大さを痛感した。
「出来ました」
2人がはじめて作ったヴェルデンイモ。
焼き加減も申し分なさそうだ。
「試食してみましょう」
「「はい」」
5人で、この領地初の商品を商品を試食する。
「うんうん、しっかり焼かれていて問題ないわね」
黙々と食べている2人に問いかける。
「美味しい?」
「美味しいです」
「焼いたおかげで、食感が増えていいですね」
アレンは率直な感想に対して、
マリーは食感を気に入ったようだ。
「ただ食べるだけじゃなくて、味や食感に焼き色などをしっかり覚えてね」
「「はい」」
「明日は、昼前に来てもらって一通り作業して」
「「はい」」
「それで問題なければ、明後日からヴェルデンイモを他領で売るわよ」
「「はい!」」
「うん?誰が売りに行くんだ?」
「私とマリーよ!」
「えぇーー!?」
マリーが叫ぶ。
「そう言えば言ってなかったわね」
「⋯⋯はい」
「まぁ、今日はもう遅いし詳しいことは明日説明するわ」
「はい⋯⋯」
不安そうなマリーの肩に手をやって伝える。
「最初は私も付いているし、あなたならやれるわ」
「はい!頑張ります」
弱々しかった返事に力がこもった。
「うんじゃ、余ったヴェルデンイモは食べるか持って帰っていいわよ」
「「ありがとうございます」」
工房を出て店舗に居るリリィに、茹でジャガイモの売れ行きを確認する。
「半分以上の人がパンと一緒に買っていかれてますね」
「結構売れているのね」
「昼前から売ったらもっと売れるかもしれません」
「明日の量を考え直す必要があるわね」
お父様が食べてみせたとはいえ、初動は鈍いと思っていたけど違ったようだ。
「ありがとうね」
リリィに礼をしてパン屋を後にする。
帰り道、私はアシュに語りかける。
「ねぇ、アシュ」
「なんでしょうか」
「問題はまだいっぱいあるけど、ワクワクするね」
「はい、明後日が楽しみです」
「うん!」
屋敷に戻る足取りがいつもよりも軽かった。
読んでいただき、ありがとうございました!
感想一言でも大歓迎です。ブクマ・評価・応援待ってます!




