最強の切り札
今日もカウンターの横に茹でたてを置いて、
『試食自由』とだけ貼った。
「なぁ嬢ちゃん、昨日言ってた切り札ってなんだ?」
「言ったら切り札にならないでしょ」
別に隠す理由はないが、最悪を考えて教えられなかった。
「メイドさんは知っているのか?」
アシュは黙って首を振る。
一応はプランBを考えてはいるが、出来れば使いたくない。
最悪なシナリオを辿り続けると、領地の信用問題にまで発展してしまう。
悩んでいてもしょうがない、先のことを考えよう。
「ねぇバンズさん、朝にパンを焼き終わったらパン釜は空いているってこと?」
「そうだな」
午前中の4時間しか稼働しないなんて、
なんて稼働率の低い設備なんだろう。
「じゃ、薪代さえ出せば午後は使っていいってことね」
「なにを考えている?」
ジャガイモの有効活用をずっと考えていた。
はじめは、フライドポテトが浮かんだけど、
油を大量に使うのは採算が取れない。
いももちも、でんぷんから片栗粉を作るのは難儀で却下。
だから、SNSで少し話題になっていたスマッシュドポテトが閃いた。
茹でて、潰して軽く油を掛けてパン釜で焼けばすぐに作れる。
「もっと美味しいジャガイモの料理食べたくない?」
「なんだって!?」
すぐに指示を出して調理に取り掛かった。
「あんな作り方でうまいのか?」
「バンズさんなら1週間は食べ続けるかもね」
「まじかよ⋯⋯ゴクリ」
焼き加減を確認しながら、出来上がりを待つ。
「やっと焼き上がったぜ」
「良さそうな焼き加減ね」
15分の砂時計が2回落ちきったタイミングと、メモに記入する。
「アチチチ、素手は無理だな」
「当然でしょ」
と、アシュと笑いながら少し冷めるのを待った。
「このくらいなら食べれるな」
バンズが行けると言ったわりには、熱さに苦戦しながらかぶりついた。
「やばぇぞこれ」
「食べたいけどまだ熱いわよ」
「焼いたおかげで、外はカリッカリッだけど、
中はホカホカっていう絶妙さだ」
それを聞いてもう我慢できなくなって、私も手に取った。
「熱いけど⋯⋯カリッカリッのふっくらね」
「油のおかげでしょうか、茹でたときより甘みを感じますね」
マヨネーズを付けたり、粉チーズをまぶして焼いたり、
アレンジすればもっと美味しくなる。
まぁ、それすらないんだけど。
「牛って高い――」
聞こうとしたとき、店舗のほうが騒がしいことに気付いた。
ジャガイモのせいで、揉めてるんじゃないかと不安になり急いで確認しに行った。
店舗を覗いた先、お父様とお母様が客に囲まれて居た。
「来てくれたんですね」
「あぁ、あの後色々考えた。母さんにも相談した」
「それで⋯⋯」
お父様は来てくれた、わざわざお母様を引き連れて。
でも、それが食べてくれると同義ではない可能性もある。
「これがジャガイモか」
カウンターにゆっくりと近づき、試食であるジャガイモを見つめる。
そっと手に取る。
「領主様、それには毒があります。食べるのはおやめになったほうが――」
そう言って、お父様を気遣った1人の客をお母様が制止した。
「これが、この領地を救う”食料”と言うのか」
そう言い終わると口に運んで食べた。
一口目を食べ終えるまで異常な沈黙に包まれる。
「うまい」
一言だけ呟くと、続けて食べすすめてあっという間に完食してしまった。
「じゃ、私もいただくわ」
続けてお母様も試食をする。
「ジャガイモってこんな味だったのね、なんて甘いのかしら」
2人が食べたのを見た客たちは無意識につばを飲み込んだ。
私やアシュ、バンズが食べていたときとは違う客たちの目。
「お父様、お母様ちょっと待っててください」
今が絶好のタイミングだと、急いで工房へ向かった。
さっき焼き上がったスマッシュドポテトを持って店舗に戻る。
「これ、ジャガイモで作った新商品です」
「あら、ちょっとぶきっちょな見た目ね」
見た目は確かに悪いけど、味には自信がある。
差し出されたスマッシュドポテトを手に取って、
2人は同時に口にした。
「これは焼いているな」
「はい、茹でた後に軽く油を振って焼きました」
「中と外の食感が違うのは絶妙ね」
これはおいしいと、お母様はお父様の方を見て微笑んでいた。
食事でお母様が美味しそうに食べているのをはじめて見た。
右手を小さく握ってやってよかったと思えた。
「パン釜は午前中しか使われていません、
なので午後はこれを作るために使いたいと思います」
「ふむ、いくらだ?」
「50イェンで十分採算が取れます」
「腹持ちもしそうだが、高いな」
確かに高い、パンは100イェンで3食を賄える。
「今の生産量だとです」
「どういうことだ?」
「今は年に2回しか作付けをしていません」
「そうだな」
「それを、1回増やせば計算上では30イェンまで下げれます」
私の計画はこれで終わりではない。
「これを他領で売り出します」
「!?」
「この領地は食料問題を抱えていましたが、それ以外に内需に依存し過ぎでもあります」
「お嬢様!」
外に居たセバスが遮ろうとしたのを、
「かまわない、リズ続けなさい」
「はい、我が領地は国に税を納めるだけの歯車でしかありません」
客の中には下を向き始めるものが出てきた。
「税のために麦を作り、あまった麦をパンにして暮らしてきた」
「それでも、前の領主よりはマシよ」
感情のまま口に出でたのに気づき、口に手をやる客。
「そうね、でも私はただの歯車で居たくありません」
これは本心だ。
「お父様がしてきたことを否定するつもりはありません。
でも、私はお父様もお母様もそして弟のシルク、アシュにセバス⋯⋯
そして、この領地に暮らすみんなを豊かにしたいのです」
私の決意に店舗内がざわめきだし、
領主が来ているということで店の外にも人が集まっていた。
「だからこのジャガイモは、外貨を得るためのはじめの一歩なんです」
「とはいっても、50イェンで売るもので得られる物はたかが知れているだろ」
お父様は意見してくれた。
これは、対等に接してくれている証拠だ。
「私は言いました!はじめの一歩だと」
「勝算はあるということだな?」
「えぇ、9割のあると思っています」
「そうか⋯⋯」
お父様は黙ってしまい、お母様がお父様の顔を覗く。
「私は⋯⋯兄の搾取によって苦しめてしまった領民に、
どうにか償いをしたいと思っていた」
突然のお父様の吐露。
「兄が貯めていた税を使ってここを作り、
できる限り税を取らないようにしてきたつもりだ」
お母様はお父様の手をそっと握りしめる。
「それでも私には、皆を豊かにする能力はなかった」
「そんなことはありません、今生きていられるのは領主様のおかげです」
同意のような声が多く聞こえる。
「リズ、助けてくれるかい?」
そっと私の肩に添えられたお父様の手。
無意識に奥歯を強く噛み締めて肩を震わした。
私は添えられた手に手を重ねて、
「任せてください!お父様たちも領民も豊かにしてみせます」
一斉に歓声が上がった。
レンガで出来たパン屋が大きく揺れる。
お母様が駆け寄って抱きしめてくれた。
「苦労かけてごめんね」
その言葉を聞いて、つぶった瞳から涙がこぼれた。
「リズ様、これ食べて良い?」
聞いてきたのは、初日に食べたいと言っていた子だった。
涙を指で拭って笑顔で答える。
「美味しいからいっぱい食べて」
子供の母親がハラハラしながら見守っている。
それでも、子供は躊躇うことなく食べる
「甘くて美味しいね」
それを皮切りに、たくさんの領民がジャガイモを食べたいと言い出した。
あまりの人数に、慌ててアシュとバンズが新しく茹始める。
食べた領民から、先日の謝罪や美味しいといった声が、
たくさん聞こえてきた。
今日は、毒芋で豚の餌だったジャガイモが、食糧に変わった大切な日だ。
読んでいただき、ありがとうございました!
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