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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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「酒の飲めない無能はいらん」と騎士団を追放されましたが、実は私が臨床実験者でした。~三年間溜め込んだ『シラフの地獄』を存分にお楽しみください~

作者: なぎ
掲載日:2026/02/10

「お前、明日から来なくていいぞ。酒の飲めない奴は、この騎士団には必要ない。」


 赤ら顔の騎士団長・ドランカーが、酒臭い息を吐きながら私のデスクを叩いた。

 手には、高価な魔導ワイン。足元はおぼつかない。周りの団員たちも、「そうだそうだ!」「シラフの女がいると酒がまずい!」と野次を飛ばしている。


 私は、手元の水晶板に表示された数値を静かに確認した。


【被験者:ドランカー/蓄積アルコール濃度:極限/浄化成功率:100%】


「・・・そうですか。ちょうど今、私の仕事も終わったところです。」

「あぁ? 仕事だぁ? 水を配るだけの無能が、何を偉そうに!」


 ドランカーは鼻で笑ったが、彼は本当に記憶力がないらしい。彼が三年前、ただの荒くれ兵士から、伝説の名将へと祭り上げられたのは、すべて私が裏で糸を引いていたからだということに。

 

 酔ったドランカーが放つ無礼な毒舌は、その場で私が、熱烈な友情へと記憶を書き換えた。酒に呑まれた彼が下す支離滅裂な軍令も、一晩あれば十分だ。翌朝には、敵を欺く天才的な作戦として、何食わぬ顔で前線へ回してあげたのだ。


 私が、このどうしようもない連中と付き合い、ここまで浄化と毒に執着するのには、理由がある。

 私は、幼い頃、母を亡くした。病死ではない。母が煎じて飲んでいた薬草茶に、ほんのわずかな毒物が混入していたのだ。当時の私には、それが何であるかを見抜く知識も、中和する魔法もなかった。苦しみながら冷たくなっていく母の指先を握りしめることしかできなかったあの日の無力感が、今の私を突き動かしている。


 ーーあの日誓ったのだ。この世のあらゆる毒を解き明かし、完璧な解毒を完成させると。


 魔法薬物学の研究者として、この騎士団での臨床実験は、その最終段階だった。

 ちなみに、私がこの騎士団を研究室ラボに選んだのには、明確な理由がある。


 まずは、何と言っても、この毒素のサンプル数だ。ここの連中が浴びるように飲んでいる魔導酒は、普通なら数回で廃人になる代物。私の浄化魔法がどこまで通用するか、その限界値を試すには、これ以上ないほど使い勝手のいい被験体だった。


 次に、記憶力の欠如。これは本当に助かった。朝から晩まで泥酔者の巣窟だ。私が何を混ぜようが、どんな魔法を試そうが、翌朝には綺麗さっぱり忘れてくれる。これほど、証拠隠滅が楽な現場なんて、他にない。


 そして最後は……そう、自業自得という免罪符。酒の勢いで部下を殴り、公金をくすね、市民を威圧する。そんな彼らなら、実験の副作用で多少のガタが来たところで、私の心はこれっぽっちも痛まない。


 ここは、世界で唯一の合法的な人体実験場だった。


「クビ、承知いたしました。では、三年間お世話になったお礼です。」


私は、ポットに残っていた最後の一滴――完成したばかりの、究極の覚醒水を、彼らが回し飲みしている大樽に注いだ。


「さようなら、団長。あなたが、本当の自分と再会する瞬間を、遠くから楽しみにしています。」


「……何だと?」

 聞き返すドランカーを無視して、私は荷物をまとめ、騎士団を後にした。


******


数時間後。


 王宮の演習場。そこには、国王が視察に来るというのに、相変わらず、酒の樽を囲んで騒ぐ騎士団の姿があった。


「がはは!見ていてください!俺のこの一撃で魔獣の首を、うっ・・・!」


 ドランカーが剣を振り上げた瞬間、私の仕掛けた魔法が発動した。体内のアルコールが一瞬で霧散し、五感が強制的に正常へと引き戻される。


「あ・・・が、は・・・っ!?」


 ドランカーを襲ったのは、これまで酒で誤魔化してきた三年分の凄まじい疲労と蓄積した内臓の悲鳴の濁流だった。

 さらに、シラフになった頭脳が、過去の自分の醜態をハイビジョン画質で再生し始める。


 酔った時に放った毒舌。

 運営費をすべて酒代に着服し、騎士団の金庫が空っぽであること。

 自分に才能などなく、ただの無能な酔っ払いでしかなかったという事実。


「あああああ!あああああ!俺は、俺は何てことを!!」


 罪悪感と羞恥心、そして死の恐怖。

 最強の猛将と謳われた男は、一瞬でガタガタと震えるだけの男に戻り、その場に跪いて泣きじゃくった。他の団員たちも同様だ。酔いが冷めた彼らは、ただの、だらしない大人達でしかなかった。


「ライラを、ライラを呼べぇ!あいつがいれば、この現実をまた、夢に変えてくれるんだぁぁ!」


 悲痛な叫びを上げたところで、激怒した国王が放った憲兵たちに、彼らは一網打尽にされた。


**

 「もう、夢は見せてあげませんよ。現実は、自分自身で何とかするものです。」


 私は、湖畔の小さな宿で、自分だけのために淹れた最高のお茶を飲んでいた。

 三年間、アルコール漬けの男たちを観察してわかったのは、酒を飲んで本音が出るのではない。ただ、知性という名のブレーキが壊れただけだ、ということ。


 「ふぅ……。やっぱり、お茶はシラフで飲むのが一番美味しい。」


 窓の外には、澄み渡るような星空が広がっている。騒がしい宴に、知性を売らなければ人生を楽しめないなんて、かわいそうな人たち。


 私は完成した研究成果を胸に、静かな森へ旅立つ事とした。

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