タリアン・クロウ&ユナ・セリオン
火星に帰還してから、二人の関係が動き出すまで、さほど時間はかからなかった。
正確に言えば、動かしたのはユナだった。
タリアンは相変わらずだった。
戦場ではあれほど人の心の機微を読み取る男が、自分に向けられる好意となると、驚くほど鈍感だった。
最初は食事だった。
次は勤務後の短い散歩。
それでも彼は「部下を気遣っているだけ」くらいにしか考えていなかったらしい。
業を煮やしたユナが、ある日きっぱりと言った。
――艦長、私、あなたのことが好きです。
その瞬間のタリアンの反応は、後年まで語り草になる。
数秒の沈黙。
理解が追いつかない顔。
そして、妙に真剣な表情での一言。
――そうか。……それは、ちゃんと考えないとな。
逃げなかっただけ、上出来だったとユナは後に笑っている。
交際が始まると、意外なほど話は早かった。
お互いに駆け引きが得意な性格ではない。
価値観も生活リズムも、軍人同士ということもあり、無理がなかった。
程なく結婚が決まり、式は火星で挙げられた。
規模は大きくないが、出席者は多かった。
アストラルのクルーは、ほぼ全員が顔を揃えた。
英雄艦長の結婚式、というより、
「皆で死にかけた船の艦長が、ようやく身を固めた祝いの場」
そんな空気だった。
ユナは白いドレスで、少し照れくさそうに笑っていた。
タリアンは軍服姿で、相変わらず表情は硬かったが、
誓いの言葉だけは誰よりも真っ直ぐだった。
結婚後も、二人はすぐに“家庭的”になったわけではない。
タリアンは艦長として着実にキャリアを積み、
やがて外宇宙艦隊の司令官という地位にまで昇りつめる。
ユナも軍務を続けた。
ただ、年月とともにその重心は少しずつ家庭へと移っていく。
それは後退ではなく、選択だった。
子どもが生まれ、生活が変わり、
彼女は「守る側」と「待つ側」を自然に引き受けていった。
その頃、ユナは妙に張り切っていた時期がある。
研究に没頭し続けるカイに、女性を紹介しようと奔走したのだ。
「博士、この人どうかしら?」
「博士、今度お茶でも」
善意だった。
純粋な善意だった。
だが、そのたびにタリアンは肩をすくめてこう言った。
――カイはああいうヤツだからな。
――下手に関わると、女性が可哀想だ。
冷たい言い方だったが、的確だった。
二人の息子は、なぜかそのカイに懐いた。
研究室に入り浸り、難しい話をせがみ、
時に理解できないままでも、隣に座っているだけで満足そうだった。
やがてその息子が成長し、
カイの膨大で未整理な研究を引き継ぎ、まとめ上げ、
世界に向けて「マナ理論」として発表することになる。




