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魔術師の憂鬱  作者: 卓麻呂


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確信

GC.119.1.16 12:00

研究室


研究室の空気は薄く、静かだった。

艦内のどこかで警報が鳴っているはずなのに、この空間だけは別の時間を流れているように感じる。


カイは無意識のうちに息を潜め、机の上の黒い石を見つめた。

微細な光の粒がその内部を走る。光でも熱でもない、もっと曖昧な「変化」。

それを目で追いながら、彼は装置の電源を入れた。


測定器の表示がゆっくりと立ち上がり、ノイズが収束していく。

数秒後、モニターに波形が現れた。


「……出たな。」


ピーク値、安定。波形の形状、完全に電気エネルギーのそれだ。

間違いない。反応は電気的だった。


カイはしばらく黙り、額に指を当てて考え込む。

――いや、待て。おかしい。

これはおかしい。


電気エネルギーというのは、電子の流れによって生じる現象だ。

つまり、導体があり、電位差があり、電場が発生して初めて成り立つ。

だが、この石には金属成分も、結晶構造も、電荷の偏りすら見られない。

少なくとも、既存の物理法則では“電気”を生む要素がどこにもない。


「……どういうことだ。」


理論的にあり得ない。

物質のどこからも電子が放出されないのに、どうして電気エネルギーが観測される?

装置の誤作動か? いや、それも違う。

測定系はさっき自分で確認したばかりだ。

数値の偏りもなく、キャリブレーションも正常。


「……待てよ。じゃあ、これは……俺が測定したから、出た?」


言葉にした瞬間、背筋に冷たいものが走った。

まるで、考えること自体が観測に影響しているような――そんな不気味な錯覚。


そんな馬鹿な。

彼は頭を振る。

測定者の意志で結果が変わるなんて、そんな現象、物理学のどこにも存在しない。


「観測行為が結果を決める……いや、量子レベルならまだしも……違うだろ」


小さく呟く。

自分の声が異様に大きく聞こえる。


モニターの数値は、まるで彼の思考に呼応するかのように揺れた。

増減のリズムは不規則だが、どこか“呼吸”のようでもある。


「……まさか、俺の認識に反応している?」


そんなことはあり得ない。

しかし、否定しようとするたびに、数値は揺れ、微かに波形が脈打つ。


心臓の鼓動と同調しているようにすら見えた。


「……嘘だろ。」


科学的常識では説明できない。

むしろ、“科学的であること”そのものを嘲笑うような現象。


カイは深く息を吸い、石に視線を戻した。

石の内部で光が瞬く。

その光は、彼を見返しているようにも感じられた。


「……これは電気じゃない。

 俺が“電気として観測した結果”、電気になっただけだ。」


そう口にした瞬間、背筋を冷たい電流が走った。

言葉にしただけで、理解が形を持ち始める。

まるで“気づかれること”を望んでいたかのように。


石が、静かに、微かに脈動した。


カイはデータを睨みながら、指先で机をとんとんと叩いた。

波形は不安定に上下を繰り返し、まるで彼の思考の迷いをなぞるように揺れている。


「……どうしてだ。」

声に出した瞬間、数値がわずかに反応した。

まるでこちらの独り言を聞いているようだった。


偶然だと切り捨てるには、もう何度も同じことが起きている。

測定器の設定を変えても、装置を交換しても、結果は同じだった。

この石は、観測する“俺”に反応している。


「もしこいつが生物だったら、話は早い。

 刺激を与えれば反応し、学習する――そういうモデルで説明できる。」


しかし、顕微観察ではただの鉱物。

内部には構造も分子運動もなく、生物的特徴を示すデータもない。


「なのに、応答は生き物じみている……」


カイは椅子の背にもたれ、天井を見上げた。

脳裏に一つの仮説が浮かぶ。

――こいつは、生きているわけじゃない。

だが“俺”を反映して、あたかも生物的に振る舞っているのではないか?


「俺の意識が、波形に影響を与えている?」

ありえない。だが、今の現象を説明するなら、それしかない。


「つまり、俺が“観測している”という行為自体が、こいつを動かしている……?」


そう考えると、これまでの奇妙な反応がなんとなく筋が通る気がする。

測定しようと強く意識したときだけ数値が現れ、何も考えずに眺めていると沈黙する。

無秩序に見えた応答は、観測者の“意思”を媒介にした反射だったのだ。


「信じられないが……そういうことか。」

カイはゆっくりと頷き、石を見つめた。


「お前が生物的なのは、俺の意識が反映されているから。

 ――生きているように見えるのは、そういうことなのかもしれない。」


石は無言のまま、淡く光った。

それが肯定とも、ただの偶然ともつかない。

けれどその光を見て、カイは確信した。


「この反応――やっぱり、“俺とリンクしてる”。」


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