第一章 起きれぬ闇の美女2
肺が握られるような鈍痛と喉を通る血のような味。
斧を握る手は1回振り下ろす事に感覚が遠のいていく。
カラン、カララン。
硬い地面に木片がころがっていく。
ビリビリと手のひらを覆う痛みに、手を開いたり閉じたりする。
腰に手を当てて大きく息を吐く。
額の汗を拭ってもう少しだと気を入れ直す。
ここまで来て集中量を切らすと斧は握れなくなる事は過去から学んだことだ。
「アルク!おい、アルク!」
時刻は夕方。
と言っても茜さす空は産まれてから1度も見た事は無い。
朝も昼も夜も。
全部一緒の黒があるだけだ。
俺、アルクは今年から王国軍の騎士として入隊することに決まっていた。
長い事待ちわびた瞬間で、今か今かと毎晩眠れないほどだ。
まあ、だから。騎士になるまでは家の手伝いをすることになってる。
不服ではないんだけど、やりたいことじゃない。
太陽ってヤツが見えなくなってから世界は寒くなったらしい。
だから、常に薪をくべないと凍えてしまう。
家はパン屋だけど、副業として薪割りをしてる。
今まさに丸太に少し太い薪を置いて斧を振り下ろしての繰り返しをしていたんだけど、親父に呼び出されてしまった。
親父はおっかないからな。どんな理由があってもなるべく早く呼ばれたら親父の所へ行くようにしていた。
小さいけれど、俺にとっては暖かい家。
その家に向かって歩き出す。
『行かないで』
ピンッと紐で引っ張られたような感覚。
俺は今。誰かに呼ばれたのか?




