第8話:裏勇者が正体バレせずに魔王級魔物を討伐する方法
王都上空に現れた巨大な魔法陣。
そこから召喚されたのは、魔王軍最上位存在のひとつ――獣魔アルダイン。
身体は巨象ほどの大きさ。四肢は溶岩のように熱を帯び、翼は雷雲の如き黒煙をまとっている。
王都の城壁を軽く乗り越えるほどの跳躍力と、吠えるだけで建物が揺れる咆哮。
その第一撃で、「表向きの勇者」ことレイ・グランフィードが盛大に吹き飛ばされたのは前話の通り。
「ゆ、勇者様が……!?」
「ど、どうすれば……神にすがるしか……!」
神官も民も、完全にパニック。
フィーネが冷静に言った。
「……あれ、討てない。普通の勇者じゃ無理」
「たぶん“神託で召喚された”ってだけの器なんだろうな、あいつ」
シエルも冷静だった。
俺は、手にした聖剣セレスティアと黒剣ヴォイドイーターを見下ろす。
(やるしかねぇか……
でも、“勇者でも魔王でもある”俺が出張ったら、身バレどころか世界のバランスぶっ壊れる)
そこで――俺は、考えた。
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【作戦名】:中立の剣士(仮)プラン
・ステータスを《一般戦士(非勇者)》に偽装
・魔王スキル使用時は《契約型魔装》扱いにする
・セレスティア(勇者武器)を“借り物”ということにしておく
・マントとフードで顔を半分以上隠す
・偽名使用:「アッシュ」と名乗る
「バレなきゃOK精神」でいく。
これはもう、異世界ヒーローあるある戦法で乗り切るしかない。
「よし。行ってくる」
「……わかった。援護、必要なら言って」
「わたしはデータを記録しながら支援魔法を展開します。“裏で”やってください」
さすが俺の混成パーティ。理解が早い。
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「我が名は、アッシュ。通りすがりの剣士だ」
マントを翻し、俺はアルダインの前に立った。
「こ、この者は……!?」
「何者だ!? あれは勇者の剣を持っているぞ!」
群衆はざわつくが、俺は余計な説明をしない。
アルダインが再び咆哮し、地を割る衝撃を放つ。
――その一撃を、セレスティアの防壁で弾く。
さらに、左手の黒剣ヴォイドイーターを反転させ、
アルダインの巨体を“空間ごと削る”斬撃で切り裂いた。
「……っ!!?」
半分に割れた空間の狭間で、アルダインが呻く。
そこへ、シエルの分析魔法と、フィーネの影潜行からの連撃が重なり、
ついにアルダインの身体が崩れ落ちた。
【討伐成功】
沈黙。
王都中が――俺を見ている。
いや、俺というか、“アッシュ”を。
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俺は剣を納め、黙って立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ!」
吹き飛ばされたレイが、泥まみれで追ってきた。
「お前……何者だ!? なぜ、俺に代わって“あれ”を討てた……!?
神の加護を持たぬ者に、それができるはずが――」
俺は振り返らず、ひと言だけを残す。
「……俺は、どこにも属さないただの剣士さ。
光も闇も、“人を救うため”にあるんだってだけの話だよ」
それっぽく言ってみたが、内心ヒヤヒヤである。
(バレてない、よな……?)
とりあえず、レイが歯を食いしばって涙目になっていたので、
精神的には一発KOできた気がする。
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討伐から数時間後。宿に戻った俺のもとには、既に新たな噂が届いていた。
・“黒と白の剣を操る謎の剣士”が、王都を救った
・公式勇者より強い“影の勇者”が現れた
・彼こそ“真の神の代理人”なのでは?
俺の正体バレは防がれたが、別の伝説が誕生してしまった模様。
フィーネがぼそっとつぶやく。
「……神も魔も、あなたには収まらないってこと」
「……光栄なんだか、面倒なんだか」
シエルはメモを取りながら、つぶやく。
「“表の勇者”と“裏の勇者”――今後、神聖側の分裂を招く可能性がありますね」
うわあ、それは本当にやめて。
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その夜。
「アッシュ様……! 今宵だけでも、そなたの正体を……!」
マジで部屋の前に**エリシア(聖女)**が跪いてたので、
急いで《中立結界スキル》を張って、壁を厚くした。
ほんと、もう休ませて?