第7話:王都に呼ばれたら、勇者の“偽物”が現れてた件
混成パーティでの初任務から数日後。
俺のもとに、聖教会本部から【至急招集】の書簡が届いた。
差出人は、《アルセリア王国枢機卿》。
つまり、王都の人間代表の中でも超重要な立場にいる人物だ。
シエルが静かに告げる。
「……“王都からの招集”は、いわば《勇者認定の正式儀式》ですね。
貴方の存在が、この国の“公式な英雄”となる節目です」
「ふーん……そういうの、もうちょっと早くやってほしかったな」
「おそらく、何か“裏”があります」
(……だろうな)
なんとなく胸騒ぎを覚えつつ、俺たちは王都へと向かうことになった。
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王都は、さすがに首都だけあってスケールが違った。
街全体が白い石畳で統一されていて、衛兵の装備も豪華、商人の服すら高そう。
門を通るだけで、「あ、俺場違い」ってなるレベル。
しかも、街の中心――大聖堂の前で、なぜか人だかりができていた。
「本当に現れたのか……」
「ついに、勇者様が……」
「いや、あれは……なんかイメージと違う……?」
「……ん?」
気になって俺が群衆を掻き分けると、そこには――
「我こそが選ばれし勇者! 世界を救う唯一の存在、レイ・グランフィードだ!」
そう高らかに名乗りを上げる、金髪の美少年がいた。
周囲の神官たちは感動して泣いており、衛兵も膝をついて礼を捧げている。
「……いや、え、誰?」
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その場にいた枢機卿が、当然のように説明を始めた。
「この者こそ、先日“神託”により召喚された新たなる勇者にございます。
アルセリアの希望であり、神の声が選んだ正統な救世主――」
「ちょっと待って。俺、すでに勇者ってことでこの世界に転生してるんだけど?」
「……?」
枢機卿の眉がピクリと動く。
「あなたは……何者ですかな?」
「いや、だから勇者だって。神様から直接“勇者に任命された”んだよ、転生時に」
「……妙ですね。“神託の記録”には、あなたの名はない」
(――え?)
困惑する俺をよそに、“偽・勇者レイ”が俺を睨むように見てくる。
「フン……神を騙る不届き者め。貴様など、この俺の“引き立て役”にもならんな」
うわあ、すごいテンプレ悪役ムーブ。
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その夜、俺は宿で“システムウィンドウ”を開いていた。
ステータス画面には、新しい表示が追加されていた。
【勇者ロール競合:バックアップデータから再登録された別個体が存在します】
対象:レイ・グランフィード
状態:正式登録(表向きのみ)
あなたのステータス:勇者(裏記録)/魔王(管理者)
(つまり……)
バグった俺が“勇者と魔王”の両方を抱えたせいで、
システム側が「表向きの勇者枠」を別の誰かに割り振ってしまったってことらしい。
つまり、“見せかけの勇者”としてレイが登場し、
本来の勇者(俺)は“影武者”みたいな扱いになってるわけだ。
俺の勇者役職、システム的に裏勇者になってんじゃん。
なんだそれ、ダークヒーローかよ。
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宿の窓の外から、いつものようにリリスの声が響いた。
「……お察しの通り、あの偽勇者は“王国側の意図的な召喚”です。
勇者としてのあなたが“不安定”と判断されたため、彼らは“都合のいい勇者”を作り上げた」
(うわ、思った以上に黒い)
「ですが、魔王様。世界の構造上、勇者と魔王の魂は“拮抗関係”を保たなければ均衡が崩れます。
――その“偽者”は、貴方の代わりにはなれません」
そう言い残して、彼女は闇に消えた。
……つまり、あいつがいくら“勇者っぽく”ても、
本物の力は俺の中にあるままってことだ。
でも――
(つまり、俺は今、“公式には勇者じゃない勇者”で、“本物の魔王”ってわけか)
ややこしすぎるだろこの立場!!
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翌朝。大聖堂前。
突然、王都の空に巨大な魔法陣が出現した。
咆哮とともに現れたのは、魔族の中でも最上位とされる存在――《獣魔アルダイン》。
それを前にして、偽勇者レイが剣を抜く。
「俺がこの国の真の勇者として、貴様を討つ!」
だが、次の瞬間――
アルダインの一撃を受け、レイは壁にめり込んだ。
「う、うわあああああああ!!?」
(……あれ、ヤバくない?)
周囲の神官たちが混乱し始める。
「勇者様が……!」
「なんでこんな強敵が……!?」
「く、国が……王都が……!」
そのとき、
誰よりも早く、前へ出たのは俺だった。
「フィーネ、シエル、準備」
「……了解」
「はい。もう止めませんよ」
俺は、腰の両側にある二本の剣――聖剣セレスティアと黒剣ヴォイドイーターを抜いた。
「仕方ねぇ……裏勇者、出陣だ」