第6話:魔物退治に行ったら、討伐対象が魔王軍のペットだった件
混成パーティ結成から、2日後。
俺たちの元に、ついに最初のクエストが届いた。
【任務内容】
西方の森に現れた“Bランク魔物”《深緑の獣》を討伐せよ。
周辺の農村が被害を受けており、早急な対応が求められる。
聖教会からの依頼で、れっきとした“勇者の初仕事”。
さすがにこれは、魔王側も黙認せざるを得ないらしく、リリスからは簡単な言葉だけ届いていた。
「お気をつけて、魔王様。……ご無事を、心から」
(何も言ってないのに、もう“魔王モードで行く”と決めつけてるの怖い)
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俺(バグ主人公)
シエル(冷静系魔導学者/人間)
フィーネ(暗殺者/魔族)
この奇妙な三人パーティにも、少しずつ空気が出来てきた。
「魔素の濃度が微妙に変化しています。近くに“知性持ち”の個体が潜んでいるかも」
「……殺るなら、一撃で。あとは後始末、任せて」
なんだこの会話。
バトル系のマンガだったら背景が黒くなってるやつだ。
でも、頼もしいのは事実。
俺が喋るスキを与えられないほどには、こいつら有能。
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森の奥で、気配を感じた。
茂みをかき分け、俺たちが目にしたのは――
「もふっ?」
……え?
そこにいたのは、
全身が深緑の葉で覆われた、丸っこいフォルムの生き物だった。
サイズは中型犬ぐらい。丸い目でこちらを見て、首をかしげている。
名前:深緑の獣
レベル:???
敵対性:なし
(……こいつが、討伐対象?)
見た目は完全に“森のゆるキャラ”。
が。
「これは……違和感がある」
シエルが目を細める。
「確かにこの魔物は“見た目”は弱そうですが、魔力コアが明らかに規格外。封印されているような……」
「……動き、速い。攻撃予備動作なし。即死級もある。油断しないで」
フィーネも警告する。
やばい。こいつ、ただの見た目詐欺だ。
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「もふっ」
再び、魔物が首をかしげる。
その瞬間、空間が一瞬だけ歪んだ。
俺の《二重存在》スキルが、自動的に発動する。
【警告:対象は“魔王軍登録個体”です】
【管理者権限によりアクセス承認】
【命令プロトコル:開放】
(……え?)
さらに画面には、こう表示された。
【この個体は魔王軍資産です。ペット登録名:モッフル】
管理者:魔王(つまり、俺)
「えっ。……えぇぇぇぇえ!?」
まさかの、魔王軍のペットだった。
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どうやらこの“モッフル”、魔王軍がかつて森の魔力調整のために配置した半自律型バイオ魔物らしい。
可愛い見た目は擬態であり、暴走時には数百メートル級に巨大化も可能。
でも、俺(魔王)には忠実。
「もふっ」
そう言って、足元にすり寄ってくるモッフル。
まさかのスキル「なつく」が発動して、足に巻き付いてきた。
「……これ、殺せるわけないよな」
「勇者様、それは……さすがに人道的にも危険的にも無理です」
「……任務、破棄する? それとも、嘘の報告?」
シエルとフィーネ、両方から「それはやめたほうがいいです」オーラが出ている。
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俺は考えた。いや、脳みそちぎれるぐらい考えた。
そして出した結論は――
1. 「深緑の獣」は討伐済と報告(名前を偽装)
2. 魔王軍の資産として保護し、俺の個人使役魔物に登録
3. 危険区域には転送結界を張り、村に近づけないようにする
さらに、
・モッフルは今後、“戦闘時のサポート”として活用。
・その間、勇者任務はシエル&俺でこなす。
・フィーネには魔王軍の監視&報告役を継続させる。
「我ながら天才かよ……」
「……バグってるのに器用ですね、あなた」
「器用というか、全部なすりつけて回避してない?」
パーティメンバーの反応が冷たい。
でも俺、精一杯なんです。
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街に戻った俺たちは、「深緑の獣は討伐済」と報告しつつ、
密かにモッフルを俺の専用使い魔として登録した。
もちろん名前はそのまま「モッフル」。
モッフルは今も、俺の肩にのって「もふっ」と鳴いている。
うん、なんか……ラスボス感が急速に失われた気がする。