第5話:パーティメンバーを募ったら、勇者側と魔王側で二重編成された件
「――というわけで、俺の旅路に同行する“仲間”を募集します」
神殿の会議室。
俺は勇者陣営と魔王陣営、両方の代表を前に、そう宣言した。
街に出るにも尾行がつき、ベッドの両側に忠誠陣営が詰め、
パンを買いに行くだけで宗教戦争が起こるこの状況を打開するには、
信頼できる少数精鋭の同行者が必要だと判断したからだ。
問題はただひとつ。
「えー……では確認なのですが、どちらの陣営から選ばれますか?」
「うむ。我が軍からなら、千の戦士の中から選りすぐりの六名を――」
いやいやいやいや。
「片方じゃない。両方から選ぶ」
静まり返る会議室。
俺は続けた。
「それぞれから、“一名ずつ”。二人一組での二重パーティを作る。言うなれば、ダブルチーム制だ」
その提案に、最初は戸惑いの色が浮かんだ。
が――
「な、なるほど! 人間と魔族、それぞれの代表を持って中立を維持するための措置か!」
「さすがは我が魔王様……同時に人心を掌握し、覇道と救済を両立なされるとは……!」
都合よく解釈された結果、両陣営が拍手していた。
……俺としては、ただ気まずくならないようバランスを取っただけなんだけどな。
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聖教会から提示されたのは、以下の三名。
◉ 1. エリシア・ラディーナ(聖女)
年齢:17歳
職業:聖女(高位回復魔法/浄化/祝福)
特徴:いつでも笑顔、でも忠誠心が重すぎる
「勇者様のおそばにいられるなら、私はどこへでも!」
→第一候補。だが距離が近すぎるのが若干怖い。
◉ 2. アレク・バルグレン(聖騎士団長)
年齢:35歳
職業:聖騎士(物理タンク+対魔族特化スキル)
特徴:勇者信仰がすさまじい。隙あらば忠義の詩を詠む
「我が剣は、勇者殿の影となり、盾となる」
→心強いけど、パーティに“空気感”がなくなりそう。
◉ 3. シエル・ミストリア(学者)
年齢:22歳
職業:魔導学者(分析/バフ/デバフ)
特徴:落ち着いた眼鏡女子。勇者崇拝というより“観察対象”
「あなたが本当に勇者であるなら、きっと面白いデータが取れるでしょう」
→ある意味、最もニュートラル。気は合いそう。
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一方、魔王軍四天王が提示したのはこちら。
◉ 1. リリス・ノクターン(四天王・闇属性)
年齢:不詳(見た目20代前半)
職業:闇の巫女(呪術/結界/影移動)
特徴:ずっとついてきてる。もう常駐NPCみたいな存在
「魔王様の近くにいられるなら、他の者など不要では……?」
→既成事実化が早すぎる。怖い。
◉ 2. ガロム・ザ・クラッシャー(四天王・筋肉担当)
年齢:???(体型から年齢不詳)
職業:脳筋(殴打/踏み潰し/雄叫び)
特徴:力こそパワー。言葉が通じるかは不明
「オレ、おマエ、守ル。ヤワイ。ダカラ、マモル」
→たぶん悪い奴じゃない。でもコミュニケーションに難がある。
◉ 3. フィーネ・メイルシュトロム(魔族・風系暗殺者)
年齢:16歳(魔族換算)
職業:アサシン(高速移動/透明化/短剣)
特徴:無口系ツンデレ。視線が冷たい。でもずっと見てくる
「……監視、任されたから。勝手な行動、しないで」
→ちょっと怖いが、実力はピカイチ。
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いろいろ悩んだ末、俺は以下の2人を第一陣パーティとして選んだ。
【勇者側】シエル・ミストリア(魔導学者)
→感情より理性で動く観察者タイプ。中立バランス良し。
【魔王側】フィーネ・メイルシュトロム(暗殺者)
→任務に忠実な職人肌。干渉も少なそうで助かる。
「では、これより“混成探索隊”を結成いたします」
「異議なし。さすがは我が勇者殿」
「当然。魔王様のご判断に、我らが口を挟む理由などない」
表面上は、両陣営とも満足そうに頷いている。
……が、
隣で剣を研いでるエリシアと、
影の中で呪符を展開してるリリスの様子を見るに、納得してない側も相当いるっぽい。
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こうして、俺を中心とした“二重パーティ”が結成された。
聖なる知性派・シエル
魔族の冷酷暗殺者・フィーネ
そして、勇者兼魔王のバグキャラ・俺
このチームで、俺はまず【表向き:勇者としての冒険】を始めることにする。
だが裏では――
「魔王としての指令」がすでに魔族サイドから出されていた。
【魔王指令:人間の勢力を監視・分断せよ】
(これって、絶対どっかで破綻するやつじゃん……)
俺の胃がキリキリし始める音が、静かに響いていた。