第4話:勇者の武器が“聖剣”で、魔王の武器が“世界を喰う剣”だった件
街でのスカウト合戦騒動から一夜。
宿に戻った俺は、疲れ果ててベッドに倒れ込んだ。
もちろん、両隣からの忠誠ボイス付きである。
※この日も《中立結界スキル》を発動した。便利すぎる。
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翌朝。
俺は、ある“儀式”に参加することになった。
「勇者様に、神聖武具を授ける儀式を!」
「魔王様に、破滅の遺産を捧げる召喚を!」
……うん、まぁ予想はしてたけど。
両陣営、まったく同時に“装備授与イベント”を予定してたらしい。
ちなみに、
人間側:聖教会地下にある“封印の間”
魔族側:死者の谷にある“地の底の祭壇”
で開催予定。
「どっちか選べ」と言われたが、
女神様のミスで両方の役職が登録されたのは運営側のバグなので、
俺にはそのまま両方の出席が許された。
なんなのこの世界、柔軟すぎない?
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封印の間は、まばゆい光に満ちた神殿の奥。
中央の台座には、一振りの剣が突き刺さっていた。
美しい銀と蒼の刀身。柄には純白の宝石。まさに“ザ・聖剣”って感じだ。
「この剣は、聖なる存在にのみ引き抜くことを許されます」
神官たちがざわつく中、俺は剣に手をかけた。
──すっ……
スムーズすぎて逆に拍子抜けした。
周囲の神官が全員目を剥いている。
「おおお……本当に、勇者様が引き抜かれた……!」
いや、俺も驚いてるよ。
《武器スキル解放:聖剣セレスティア》
【効果:回復範囲拡張/浄化光波/自己再生/悪属性耐性100%】
なんかすごい安心感。
エフェクトもキラキラしてるし、BGMが流れそうな勢い。
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次に訪れたのは、魔族の“地の底”。
闇の底から吹き上がる瘴気の中、台座には、
黒く、淀み、蠢くような剣が鎖で繋がれていた。
「この剣は、魔王にしか触れることすらできません。過去の候補者は全員、喰われました」
言い方怖すぎだろ。
でもなぜか俺は、この剣が“俺の中の何か”と共鳴するのを感じた。
ズルリ──
鎖が自動的にほどけ、黒剣が勝手に俺の手に収まる。
《武器スキル解放:黒剣ヴォイドイーター》
【効果:存在侵食/時間断裂/世界喰らい/“拒絶”のオーラ】
「……お、おぉぉ……! 真の魔王……!」
魔族たちが土下座の勢いでひれ伏す中、
俺はふたつの剣を見比べることになる。
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右手に【聖剣セレスティア】
左手に【黒剣ヴォイドイーター】
――どういう構図? 二刀流? 属性反発しないの?
試しに両方を構えてみる。
その瞬間、世界がほんの少しだけ“ぐにゃ”っと歪んだ。
【警告:属性バランス崩壊の可能性あり。一定時間で自動調整されます】
(おい……この世界の物理法則までバグってるんじゃねぇのか)
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俺がふたつの剣を腰に下げて帰ると、街がざわめいた。
「え!? あれ……あの剣、勇者様が持つはずの“セレスティア”じゃ……!?」
「ちょっと待て、左に持ってるの、魔王の……!?」
「おい、どっちだ!? どっちなんだあいつはッ!?」
うん、俺も知りたいよ。
でも、現実はこうだ。
俺は「勇者専用聖剣」と「魔王専用黒剣」の“両方”を持ってしまった人間である。
しかも、どっちも自然に装備できる。
そして、どっちの陣営からも崇められてる。
……これって、最強じゃね?