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第2話:宿屋で寝ようとしたら、両陣営が隣の部屋に陣取ってた件

この世界に転生して、二日目。


俺はいま、勇者として召喚され、魔王として迎えられ、全力で板挟みにされている。



「……まずは、寝たい」



その一心で、俺は神殿から最寄りの宿屋へと逃げ込んだ。

聖騎士団や魔王軍の奴らから逃げるように、

ひとまず「中立地帯」とされた【エルミナ宿】を押さえてもらった。


老舗の木造宿。温かみのある照明と柔らかいベッド。

ようやく、一息つける……と思ったのだが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「勇者様! 私、聖女エリシアはすぐ隣の部屋におりますので、何かあればいつでも――」



扉を閉めようとした俺の腕を、にこにこしたままエリシアが掴んだ。



「いえ、ほんとに何かあればなんて思ってないので、大丈夫です」



「ですが、魔族どもは卑劣です! 何をするかわかりません! 勇者様の安全確保のため、私はここに!」



その言い分だけ聞けば、護衛的な意味に思える。

でも問題は、“扉の向こうで寝袋を広げてる”ってことだ。ガチで張り込むつもりかお前。


しかも聖騎士アレクがその背後で剣を構えている。



「私は廊下にて常時待機しております! 不審な物音があればすぐ突撃を!」



「いや、廊下に寝るなよ!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「魔王様ァァァ……」



今度は、窓から入ってきた。


リリスだった。



「お部屋の結界が薄いので、念のためこちらに“闇の帳”を設置しておきました」



「部屋に勝手に結界張るな!!」



「ですが、我々魔王軍としても、魔王様のご安全が最優先です。

なお、私もこの隣室に控えておりますので、なにかあればすぐ飛び込めます」



言いながら、暗黒スライムのようなものを扉の下に流し込んでいくリリス。


なんかヌルヌルしてるんですけど!?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺の部屋:中立(という名のサンドイッチ)

東の隣室:人間陣営(聖女+聖騎士)

西の隣室:魔族陣営(四天王+闇スライム)


音が聞こえるたびに両サイドが警戒モードに入り、壁越しに怒鳴り合いが起こる。

挙句の果てに、夜中の1時にはこんなやり取りが発生した。



「貴様ら、今の“うめき声”は何だ!? 勇者様に何かしたのかッ!!」



「“眠りが浅い”というだけで騒ぐとは、人間どもは脆いのですねぇ」



「お前が窓から覗いたからだろ!? いやもう俺が悪いの!?」



心身ともにボロボロだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ベッドで横になっても、両耳から聞こえる怒鳴り声と忠誠の声で寝られやしない。


仕方なく俺は、心の中で念じた。



(ステータス……なんか使えそうなスキルないかな)



ピロン。


二重存在デュアルクラス

説明:神と魔の属性を両立する特異体質。自動で中立領域を生成できる。



(えっ、そんな機能あったの!?)



ダメ元でスキルを発動すると、部屋の中にふわりと青白い光が広がった。



中立結界領域ノーサイド・ゾーンを生成しました】



周囲の音が、一瞬で遮断される。

聖女の祈りも、魔族の囁きも、壁越しの喧騒も、すべて消えた。



「……あ。めっちゃ静か」



ようやく、静寂とともにベッドへ沈む。

世界の両端から引っ張られ続けた一日が、ようやく終わりを迎えた。



(……明日こそ、ゆっくり考えよう。俺の立ち位置ってやつを)



そう思った矢先、スキルの注意文が目に入った。



【※注意:中立結界は8時間で自動解除されます】



「朝、地獄じゃん……」



俺のバグまみれ異世界生活、明日も修羅場確定である。

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