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水螢  作者: タケウマ
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第二話

大粒の雨が降り注ぐ中

雨谷 未央(アマガイ ミオ)は喫茶店の入り口で途方に暮れていた。

「最悪。やっぱり幸運の後には、それに見合った不幸が降りかかってくるものね」

口の中にはまだケーキの余韻が残っていた。先ほどまでの幸せな気持ちに比べたら、こんな雨程度マイナスにもならなかった。

未央はスマホで時間を確認する。現在は2時、それほど急いで帰る必要もないと思い雨が弱くまで喫茶店で待つことにした。

「マスター、雨弱くなるまでいさせてもらうけどいいわよね?」

すると、裏で皿を洗っていたマスターが顔を出した。

「おう、いいぞ。どうせこの雨じゃ誰も来ないだろうしな」

「ありがとう、助かるわ」

そうしてスマホで時間を潰しながら雨が弱くなるまで待つことになった。

1時間ほど経った頃、澪音からメッセージが届いた。

未央はケーキを羨ましがるメッセージかと思ったが違った。


澪音〈ねぇ、未央の名前を呼ぶ声が聞こえたんだけど〉

未央〈なにそれ?〉

澪音〈帰ってる途中から聞こえ始めて、今は聞こえないんだけど、でも、お風呂に入ったときにはっきり聞いたの〉

未央〈なにいってるの?いくらアルティメット苺ショートケーキが羨ましかったからって、そんな話じゃビビらないよ〉

澪音〈ほんとなんだって〉

未央〈ほんとに、はっきりそう聞こえたの?〉

澪音〈聞こえたよ。なんか子供の声で楽しそうで〉

未央〈えぇ~幻聴じゃないの?〉

澪音〈わかんないけど、なんだかいやな予感がするの〉

未央<ちょっと待って>

未央〈雨がちょっと弱くなってきた気がするから〉

未央〈走って帰る〉

未央〈また家に帰ったらゆっくり聞いてあげるから〉


未央はスマホをスリープ状態にしてポケットに入れた。

「それにしても、澪音が予感なんて言うなんて珍しかったわね。いつもははっきりとしたことしか言わないのに」

そう思いつつも、また後で詳しくけばいいとも思い未央は店を出た。

雨はまだ降っていたが、この程度なら家も近いので大丈夫と思い、一気に駆け出した。


だが、家まで残り50mといったところでそれは起きた。

突然足を冷たい何かに掴まれ未央は転んでしまった。

「いった。なに?」

足を見てみるとそれは水だった。

まるで水が手のように未央の右の足首をつかんでいたのだ。そしてその手は未央をどこかに引きずり込もうと引っ張ってくる。

未央は負けじと足を進め、家に向かった。

しかし、水の腕は一本ではなかった。家に近づくほどその腕は増えていった。左手、左足、右手と掴まれる個所が増えていった。

それでも、未央は引っ張られることなく、ついに家のドアノブに触れられるところまで来た。

だが、新たな腕が、未央の顔を覆った。

そして水は鼻から未央の体内に入って行った。気管にも入り咳が反射で出そうになったことで、未央は口を開けてしまった。するとそこに大量の水が入り込んでいった。

苦しさで踏ん張ることもできず、やがて少しずつ、引きずられていく、なんとこ踏みとどまろうと手を地面に押し付けるが、それは手のひらに擦り傷をつくるだけだった。

『澪音、たすけ、て。お かあ さ ん』

そこで未央は意識を失った。

抵抗を失った体はそのまま水の腕に引っ張られていき、やがて川へと引きずり込まれた。



その日の夜

澪音は母親と夕食をとっていた。

澪音は未央からの連絡がないことに不安を感じていたが、すっぽかしているだけと思い、また明日学校で話そうと思っていた。

すると、母親のスマホに着信が入った。

「あら?未央ちゃんのお母さんからだわ。はい、もしもし志水です。どうされ、えっ?未央ちゃんが!はい、すぐ代わります。澪音、未央ちゃんが帰ってこないらしいの」

そう言いながら母親がスマホを澪音に渡した。

受け取ろうとした澪音の手は震えていた。頭の中には昼間感じていた、いやな予感が鮮明に蘇っていた。


数時間前

走って帰る澪音の頬に大粒の雨粒が触れた。

その時

「あ・・・・お」

何かが聞こえた気がした。とても小さい音だったが、子供の声のような気がした。

澪音は立ち止まりあたりを見渡してみたが、辺りに人や動物の気配はなかった。

澪音は空を見上げた。木々の隙間から分厚い雲がみえた。

いまにも土砂降りになりそうな空に、澪音は気のせいだと思い再び走り出した。

しかし、雨粒に触れるたびに繰り返し聞こえて来る。

「・ま・い・お」

「あま・・み・」

その声は弾んでいて、とても楽しそうだった。

だが、周囲は暗く雨音と足元で泥水が跳ねる音だけが異様に響いていた。

声は雨粒が肌に触れるたびに聞こえて来る。

それも、雨脚が強まるたびに、大きくはっきりとしていく。

澪音は両手で耳をふさぎながら足を速め、家に駆けこんだ。

すると今まで聞こえてきた声はぴたりとやんだ。

澪音はほっと胸をなでおろした。

「澪音?」

「ひゃっ。なに」

澪音は驚いて顔を上げたが、そこにいたのは母だった。

「どうしたの?そんなに驚いて、ってあんたびしょ濡れじゃない。はやくお風呂入ってきなさい」

「えっ、あっあ、うん」

澪音は頭の整理がつかなっかたが、それでも確かに雨に濡れて体が冷えていっている。

ここはリフレッシュもかねて母の言うことに従うことにした。


服を脱いでシャワーの蛇口をひねり、あたたかなお湯を浴びたときそれは起こった。

「あまがいみお。あまがいみお」

先ほどまでの小さく、とぎれとぎれな声ではない。

今度ははっきりと未央の名前を呼んでいる。

その声は喜びの感情に満ちていた。

なぜ未央の名前を呼んでいるのか、なぜ自分にそんな声が聞こえるのか、そんな疑問は恐怖に塗りつぶされた。

澪音はぎゅっと目をつむり、急いで蛇口を閉め風呂場から飛び出た。

風呂場から飛び出たとき、それはピタリとやんだ。

澪音は上がった息を整えた。

そしてこのことを未央に伝えなければと思い、髪を乾かすのもほどほどに、自室に駆け込んだ。


澪音〈ねぇ、未央の名前を呼ぶ声が聞こえたんだけど〉

お読みいただきありがとうございます。

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