第三章:E.C.H.O
セントラル・ノード──それはもはや建物ではなく、機械生命のように脈動する地下施設だった。
壁面には無数のコードと生体ケーブルが這い、低く鳴る駆動音が空間を支配している。人工知能“E.C.H.O”の中枢は、この奥深くに存在していた。
だがそこへ至る前に、彼らの前に立ち塞がったのは──“クロノ部隊”。
全身を高機能装甲に覆われた人型兵器。
中枢AIによって強化された予測戦闘アルゴリズムにより、彼らの一手一手に対し、最適なカウンターを繰り出す。
「動きが……読まれてる?」ファントムが小声で唸る。
「いや、予測されてる。AIに“俺たちの戦い方”が記録されてるんだ」
スコールが瞬時に状況を読み解く。
銃撃、接近、迂回、すべてが“先に”読まれている。
「無駄だ。動く前に動かれてる」テンペストが言う。
だが、その時だった。
──時が、歪んだ。
いや、彼だけがそう感じたのかもしれない。
テンペスト・スレッド。
彼にとってこの瞬間、敵の動きはあまりにも遅すぎた。
「……なら、俺だけ時を飛び越える」
彼は両腰から大口径リボルバーを抜き、 全弾、正確に、狂気の速さで撃ち抜いた。
クロノ部隊のAIが一瞬、処理落ちを起こしたかのように遅れる。
そこへ、ファントムが奇襲。至近距離からの散弾が関節部を砕き、スコールの4点バーストが残党を制圧する。
「行け!」
三人は奥へと走った。
中枢ルーム。
そこには、レイナがいた。
──AIの中核ケーブルと接続され、機械と同化されつつある彼女の姿。
「解除コードは……もう、自分じゃ止められないの……」
「なら、俺が撃ち抜く」テンペストが銃を構える。
「やめろ!撃てばレイナが──!」
スコールが叫ぶ。しかしテンペストは静かに、左手のリボルバーを構えた。
「俺には、見える。中枢だけを、貫くルートが」
そのとき、世界が止まった。
彼だけの時間。
──銃声は、一度だけ。
ケーブルが断たれ、E.C.H.Oのシステムは停止。レイナは気を失い、その場に崩れ落ちた。
しかし同時に、施設の自爆プログラムが作動する。
「……時間がない。2人を連れて脱出しろ」テンペストが言う。
「待て、お前も──」
「俺が残る。あのとき失ったもの、ここで取り戻す」
スコールとファントムがレイナを抱え、駆け出す。
その背に、静かに構えるテンペストの姿。
「……止まった時間の中で、最後の一発をやろう」
爆風が施設を呑み込む直前、彼のリボルバーが火を噴いた。