第一章:再招集
雨の降る夜だった。
都市東区、閉鎖された鉄道ターミナル。かつて通勤客でにぎわっていた場所は、今や無人の廃墟となり、落書きと風と野犬だけが行き交っている。
そのホームの一角に、軍用コートを羽織った男が立っていた。
右目には傷跡。瞳孔のない義眼が、静かに雨粒を受けていた。
スコール──元・特殊部隊の隊長。冷徹で的確な指揮官。だが、今日は作戦図も部下もいない。ただ一人、懐かしい名を呼ぶためにここに立っている。
そのとき、風とともにホームの向こうから足音が現れた。
フードを深くかぶったファントムが、鉄骨の影から現れる。
「……本当に来るとはな」
「そっちも老けたな、スコール」
「笑えないな。あれから10年、だ」
二人の視線が交差し、そして同時に口を閉じた。余計な言葉はいらない。
そこへ、風のような気配がホームの後方から滑り込む。
「お前ら、まだ生きてたのか。つまらんな」
男は黒のロングコートに身を包み、両腰に巨大なリボルバーを携えている。
テンペスト・スレッド。
伝説のガンマン。0.3秒未満で10人を撃ち抜く、狂気と紙一重の“速さ”の持ち主。
「……揃ったな」
スコールが口を開く。
「目標は《セントラル・ノード》。AI“E.C.H.O”の制御中枢だ」
「レイナがそこに?」とテンペスト。
「ああ。そして、あのとき俺たちが壊し損ねた“扉”もな」
廃墟に響く雷鳴が、3人の歩みを後押しする。
再び彼らが並び立つとき、それは“最後の作戦”の始まりを告げる。
世界は、また止まろうとしていた。