最も仲の良いチームメイトの話②
圭吾は日本シリーズでも大活躍で、僕らロケッツはチーム史上初の優勝を、リーグ制覇だけでは終わらず、日本一で締めくくることができた。
あいつは、もう完全に解禁ということだろう、左での打席に専念して、全試合でヒットを放ち、ホームランも三本記録するなど、対戦したチームもしたリーグ優勝の立役者である一流のピッチャーたちを相手に、打ちに打ちまくって、シリーズのMVPを獲得したのだ。
ただ、あまりにもすご過ぎて、ロケッツが日本一になったことよりも、自分の活躍ばかりフィーチャーされるのが、お気に召さないようだ。リーグ優勝のときの歓喜をファンや地元の北信越、弱い立場の人々などにまた味わってもらいたい一心で頑張ったのに、というわけだ。「大丈夫、喜んでもらえてるって」と言っておいたけれど、やっぱりこいつは性格がいい。嫉妬してるわけじゃないが、そりゃモテるわ。
それにしても、末恐ろしい男である。入団からたったの一年で誰もが認めるスーパースターになったけれども、来年から打撃のタイトルを獲りまくるであろうことを考えれば、これはまだ序章に過ぎないのかもしれない。前人未到の記録も、一つや二つどころでは収まらないくらいやってしまう可能性だってあるし、この先いったいどんな領域まで足を踏み入れることができるのか、間近でその過程を見られるだけでもワクワクするというものだ。
しかし——
どうしても一つ気になることがあり、僕は圭吾に訊いた。
「なあ、優勝に大貢献してくれたし、左で打てるのはもちろんいいんだけれど、『まだ残っている』と気持ちに余裕をくれるものがなくなっちゃったわけだろ? 場面が場面だっただけに、使うことにしたのはしょうがないにしても、これから先はどうするんだ? 大丈夫なのか?」
日本シリーズのとき、右打ちの頃と精神面で変わったようには感じなかったが、リーグ優勝からの流れで集中していたためだったかもしれない。オフになってリセットしたら果たして、と心配になったのだ。
すると圭吾は、これまでで一番びっくりする発言をしたのだった。
「はい、ご心配には及びません。実を言うと、他にもあるんです」
「ほか? ん? どういうことだ?」
「ああいった事態になるのを想定して、使っていなかったのは、というか他のは今も使っていないわけですけれど、左打ちだけじゃないんです」
「え?」
嘘だろ……。
「ですから大丈夫なんです。まだ残っていると安心感を与えてくれるもので、表に出したのは、まだ一つだけなので」




