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熱烈なファンの話⑤

 七回裏の攻撃、打順は七番の圭吾くんからだ。「ダブルラッキーセブンじゃん、行けー!」 と思う反面、散々六車にはやられてきたし、もしここであっけなくアウトになったりしたら、一気に試合が終わってしまう、そんな悪い予感がするのは私だけではないのではなかろうか。

「ぶっ!」

 私はそう声を漏らしてしまった。

 圭吾くんが打ち取られたからではない。なんと、両手を合わせて彼の好結果を祈るポーズをしている自分の姿が、それもどアップで、球場のでかいスクリーンに映しだされたのだ。

 や、やばい。今日は超満員だし、把握していないがこの試合は中継しているのにほぼ間違いないし、これを、私が野球に興味のない振る舞いを見せていた誰かに、どこかで目にされたら……。

 ええい! そんなん気にするのはやめにしたんだろうが! こうなりゃ、とことんやったるわい!

「行けー! 杉森ー! かっ飛ばせー!」

 開き直った私は思いきり叫んだ。

 近くにいるロケッツ側の応援の人たちは、びっくりした感じになったが、すぐに拍手するなど私に好意的な態度をとってくれた。

「いいぞ、ネエちゃん!」

 そんな声援をかけられもした。

 それより、だ。

 今日のここまでの打席でも、圭吾くんは六車からヒットもフォアボールも得られていない。どう攻略すれば……。

「え!」

 思考を巡らせたせいで一瞬目を逸らして、元あったグラウンドのほうへ戻したら、そのわずかな間に驚くことが起きていた。なんと、右打者の圭吾くんが、左のバッターボックスに入ったのだ。

 六車はサウスポーだ。もし右投げのピッチャーなら、今まで通りだとまたアウトで終わる確率が高いのだし、一般的に有利と言われる左打席のほうが何かが生まれるかもというので、まだわかる。けれど、左対左は通常バッターが不利だ。まして急ごしらえで打てるはずがない。

 どういうこと???

 六車は怒りを覚えたんじゃないだろうか。だからかはわからないが、普通は様子を見るので外角にボール球を投げたりしそうなところを、これまでよりも力を入れた感じのストレートを真ん中辺りに放った。

 すると、圭吾くんはその初球をバントした。完全に意表をついたし、三塁線への勢いを殺した打球で、転がした位置もいい。

 三塁手に任せず、突進してきた六車が捕ってすぐに送球したけれども、焦ったのだろう、ボールは低く、一塁手の手前で大きくバウンドしたために捕球されずに、ファウルゾーンへ行ってしまった。

 それを見て、圭吾くんはセカンドへ素早く進み、ヘッドスライディングでベースに到達して、ノーアウトランナー二塁というチャンスになった。

 やったー!

 ロケッツファンが元気を取り戻して大歓声となるなか、続く八番バッターはキャッチャーの竜田だ。

 代打も考えられる場面だが、そのまま打席に入った彼は、そんなに打てる選手じゃないし、相手のピッチャーが六車だからだろう、残りイニングが少なく、二点差という状況を考えれば、普通は打たせるところだと思うけれども、確実に一点は取ろうということに違いない、送りバントの構えを見せた。

 それを阻止すべく、投げてすぐに六車が猛然と前進してきたので、バットに当てずに見送った竜田は、ベンチと何かやりとりをした後で、次のボールをバントからヒッティングに切り替えた。

 ただし、安打を狙ったのではなく、バントするのと一緒で圭吾くんを三塁に進める目的だったらしく、極端過ぎるほどの右打ちであり、セカンドゴロでアウトながら思惑通りランナーの進塁には成功した。

 ナイス!

 そして、九番のピッチャーに代わって送りだされた土居が、この試合でロケッツのバッターたちが揃ってやっているのと同様に、六車の厳しい攻めに対して、ファウルで何球も粘って、最後は外野までの飛球を打ち、犠牲フライで圭吾くんが生還して一点差に詰め寄った。

 よっしゃー!

 ……え?

 なんか鼻水が垂れてきたと思って、軽く鼻の下を指で触れたら、鼻水ではなくて鼻血だった。

 ど、どういうこと? 鼻血なんて、生涯通じても、出したことがあったか定かでないくらいなのに。今日の試合のことで何日も前からドキドキしていたからか? まあ、量はたいしたことないから、大丈夫だろうけれども。

 何にしろ、鼻血って。おっさんかよ。つーか、小学生の男の子、中高生の男子に続いて、わしゃ完全に男かい!


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