熱烈なファンの話④
「七番、サード、杉森」
そのコールで、大歓声が起こった。
三回裏、六車に二イニングを一人の打者も塁に出さず完璧に抑えられたが、いよいよ圭吾くんの打席が回ってきたのだ。さすがチーム一の人気選手、チャンスの場面でもないのに、みんな何かやってくれると期待しているからだ。
けれども六車は、今年十六もの勝利数を記録しているので、どの相手にも良いピッチングをしているとはいえ、ロケッツ、とりわけ圭吾くんに対しては、異常と言えるくらいの素晴らしい投球をする。後半どんどん迫ってきたロケッツ、なかでも圭吾くんはムードメーカー的なところもあるから、打たれまいとするのはわからなくもないが、まるで親の仇とでもいうほどの気迫なのだ。結果、圭吾くんのみならずロケッツの野手陣はほとんど打つことができず、今年あいつから一勝もあげられていない。
く~、腹が立つ。顔はハンサムだけれど、目つきが鋭く、二十代前半なのに堂々とし過ぎ!
あ。
そんな説明をしている間に、六車はたったの四球で圭吾くんを三振に仕留めた。
この優勝を決する、尋常ではないプレッシャーがのしかかる試合でも、怯むことなく闘志むき出しで、それでいて、すごいスピードのストレートも、決め球のフォークボールも、きちんとコントロールされているようで、空回りする様子もない。
やばーい。
でも、まだまだチャンスはあるから、頑張れ圭吾くん! それに、他のロケッツの面々!
あー。
ロケッツの先発の野本も立ち上がりは良くて、最初の三回を三者凡退で退けた。いつも、たとえ序盤に三、四点取られたなんてときも、変わらず淡々と投げ続けるのだが、その姿が象徴するように大崩れはまずしない、安定感抜群のピッチャーだ。防御率はリーグの五位につけている。この試合も、六車に負けず、浮き足立つ感じは微塵もない。さすが優勝がかかった一戦を託されただけはある。
ところが、たった今終わった四回表の先頭バッターにホームランを打たれて、一点を取られてしまったのだ。向こうの投手が六車であることを考慮すると、たった一点でも重いよな。
あーあ。
イニングは七回を迎え、スコアは〇対一のままだった。
最初から飛ばしていたためだろうか、フォアボールはけっこう出していたから球数が増えてきてもいたけれど、ホームランによる一安打しか打たれていなかった野本が六回を投げ終えたタイミングでマウンドを降りた。
そして、二番手で、いつもはロケッツリードのとき登板する、左の中継ぎ投手の宮下が、二人は無難に打ち取ったが、次のバッターに、チームとしてまたしてもとなる、ソロホームランを放たれたのだ。
シーズン中ずっと冴えを見せてきた仁科監督の選手起用が、この試合では失敗した格好だ。でも、ホームランに関してはベンチは防ぎようがないというのを聞いたことがあるし、違うピッチャーでも、それももっと、打たれた可能性はあるから、しょうがないのかもしれない。
何にせよ、ロケッツは土俵際まで追い込まれたと言っても言い過ぎではないだろう。ロケッツの応援席は沈んだ雰囲気で静まり返り、反対にベアーズ側の観客は大盛り上がりだ。きっとベアーズファンはもう勝ったと思っているのであろう。
チクショー!




