熱烈なファンの話①
私が生まれて、今も変わらず住んでいる地域は、娯楽といったら野球しかないような田舎である。
ゆえに男のコは、よほど運動が苦手でなければ、リトルリーグのチームや学校の野球部に所属するのが当たり前で、他のスポーツをやるなら野球との掛け持ちが普通、もし野球以外の競技だけやったとしたならば、みんなから驚かれて、事情を訊かれるといった具合だ。
一方で、子どもは野球を好きになるのを拒否するようなところがある。その唯一と言って差しつかえない娯楽にまんまと乗っかるのってどうなの? 情けなくない? もっと言うと、ダサくない? という感覚なのだ。やるぶんには構わないし、上手なコは本気で評価されるのだけれど、観て楽しむのは、男子はそうでもないのかもしれないが、少なくとも女子はおおっぴらに野球を好む態度を見せるのはあり得ないというふうになっているのである。
ただ、それは学校の校則に対する一般的な生徒の反抗的なスタンスに似て、陰では忌み嫌っていても、大人たちに向かって堂々と表しはしない。だから、大人たちはその子どもの暗黙のルールを知らない。私は運動が得意でスポーツ全般関心があるし、仲の良い兄が野球を熱心にやっていた影響もあって、野球が嫌いではまったくないが、学校で主に女子たちのそういった常識に自分も合わせざるを得ないことを家で口にした際に、うちは一家みんな良く言えば素直な性格で、「なに、それ?」「意味がわからない」という反応をされた。
という環境ゆえ、私は、家の中では誰のプレーがどうだとか家族と語り合ったりなど思いきり野球を楽しみ、一歩外に出たら野球なんて興味がなくてよくわかりませんという顔をするというのを、ずっと続けてきた。面倒くさいのは面倒くさいけれど、慣れてしまえばどうということもないものだ。
この地域では、野球のなかでも高校野球の注目度合いが断トツで、地元の県の学校が甲子園の全国大会で試合をするときが一番盛り上がる。もし近所の高校がそこに出場できることになったら、祭りどころの騒ぎではない状態になるのは確実で、いったいどこまでいってしまうのだろうと怖くなるくらいだ。
かたやプロ野球チームのロケッツは、私たちの地域が含まれるとはいえ「北信越」というファンをたくさん獲得したいがためなのが見え見えな広範囲の球団名が愛着の気持ちを抱きづらくしているし、もう何年もの間リーグの上位三チームにあたるAクラスに入ることすらできないし、人気はいまひとつだ。にしても、やはり野球しかないようなここらのエリアの男性たちには、応援している人が少なくない。私もライトなファンという感じだった。
それが——去年行われたドラフト会議で指名されて入団し、ロケッツには珍しく新人で一軍昇格を果たした杉森圭吾に、私はズキューンときた。




