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高校時代の友人の話①

 俺は、圭吾とは、我が田湖高校野球部でともに汗を流し、三年生ではクラスメイトにもなった。

 休み時間に教室で、俺は尋ねた。

「お前、どうして甲子園に何回も出場しているような、野球の強い学校に行かなかったんだ?」

 圭吾は、なんてことないうちの野球部にはもったいない選手だ。現在は不動の四番だし、一年のときからクリーンアップを担っている。

 立場は良いけれど、物足りなくないのか? この学校だからレギュラーを張れているが下手だと言われたら反論はできない俺に、同じくらいの力があったら、おそらく強豪校を選ぶと思う。

「だって、そういうところって厳しそうじゃん。練習がきついのはしょうがないとしても、上下関係とかさ」

 その回答で合点がいった。

「確かにな。お前の場合、ただでさえプレーが学生らしくないって批判されがちだし、絶対にいじめてくるタチの悪い先輩がいたよ。主力で辞められたら困るのに、うちでもいたもんな」

 学生がやる野球はひたむきに一生懸命というのが定番で、清々しいと大人たちから好まれるものだろうが、圭吾はプロ、もっと言うと大リーガーのように、派手な動きで観ている人を楽しませる。それに対して、「けしからん」などと眉をひそめる観客や「ふざけるなよ」と腹を立てる上級生がいるというわけだ。別に圭吾もふざけてなんかなく精一杯プレーしていて、魅せる部分がプラスアルファの要素であるのは、真面目な本人の性格を知らなくても、ちゃんと見ていればわかると思うのだけれど、とにかく不愉快な感情を抱く人はいるものなのだ。

「それに、勝つためにガチガチの管理野球みたいなのをやらされたら、いくら甲子園に行けるとしても、面白くないもん」

「そっか」

 その意見もわからなくはない。

「でも、プロを目指すんだったら、野球の名門校のほうが、注目されやすいから有利だろ?」

「中学時代は、四番を打ったりしたけど、将来はプロなんて口にできるレベルじゃなかったからね。まあ、まったく頭になかったわけじゃないけれど、本当に実力があればどうにか情報は届くものだと思ったんだ。うちの高校からでもなれないようじゃ、プロの器じゃないんだよ」

 圭吾はこの三年間で入学時点から秀でていた能力をさらに伸ばし、プレースタイルが目立つこともあって、周辺地域では有名な存在で、今やプロのスカウトが観にくるほどである。だから今口にした考えはかなり現実になったのだ。といっても、視察にやってくるのは一球団だけみたいだし、ドラフトで指名されるところまでたどりつくのはもっと大変に違いないが。

 もしドラフト会議で名前を呼ばれることになったら、もちろん喜ぶだろう。しかし一方でこいつには、是が非でもプロにというまでの気持ちはないようだ。「たとえ甲子園に行けてもガチガチの管理野球だったら嫌だ」と言っていたように、楽しく野球をやるのが一番と考えているらしくて、それは自分だけにとどまらない。うちは監督が素人に近く、さすがに出場するメンバーや選手交代は決めるものの、作戦面ではキャプテンの圭吾がどうするか判断するケース多いのだが、チャンスで打順が回ってきて打ちたいと思っているチームメイトに対して送りバントを要求することなどないし、野球部のなかでも硬式球を使うようになる高校ともなると、いくらうちの学校のような平凡なところでも、部員は経験者がほとんどじゃないだろうか、まして運動が不得意であれば、いくら野球が好きでも選手での入部は普通しないものだと思うけれど、そういう生徒がいると耳にすると、「やりたいなら遠慮はいらないから入りなよ」と何の躊躇もなく招き入れ、親切に技術を教えてあげたりしたのである。

 そんな態度で、力のある別の部員たちに「遊びじゃないんだぞ」といった冷ややかな反応をされなかったのは、彼らにも同じく熱心に練習に付き合ってやったりアドバイスをしたりと、圭吾がキャプテンで中心選手という野球に関する部分のみならず、人間的にも評価されているからだ。自分が四番ですごく打てるのを誰にも一切鼻にかけなどしない、本当に善い奴なのだ。

 ゆえに、最後となる夏の大会で、俺たち他のメンバーは、チームとしてという当然の目標に加え、圭吾がプロになれるようスカウトたちにより注目させるために、一つでも多く勝とうと誓い合ったのだった。

「そんな、いいよ、俺のためだなんて」

 圭吾はそう言ったが、みんな、こう口を揃えた。

「それで俺たちのモチベーションがもっと上がるんだから」

 気を遣ったのではなく、本当の気持ちだ。

 そうしたやりとりを続けるうちに、圭吾もその気になってくれたのだろう。性格的に、重荷になって、そのプレッシャーに押しつぶされてしまうタイプじゃないことは、ずっと一緒にやってきて、部員は全員わかっていたけれど、普段からしっかり取り組んでいる練習にさらに熱が入り、「まだまだ上手くなるな。こりゃ大会本番が楽しみだ」と、見慣れていて、自分たちもやる側の、チームメイトなのに思ってしまうくらいのプレーぶりだった。

 そして一回戦、しかもランナーが出たことで一回表に訪れた第一打席という、一尽くしの緊張する状況で、いきなりホームランを放つのだから、やっぱり圭吾はスターなのだ。投じられた相手ピッチャーのボールも悪くはまったくなかった。プロに入団するのなんてちょろいとすらみんな感じたと思う。

 ところが——三回の守備のとき、野手の間に飛んだとはいえ、サードの圭吾が捕るのは明白なフライを、ショートの古賀が深追いして、衝突した。それにより、圭吾は足首の靱帯を損傷してしまったのである。

 一回戦にうちは勝ったが、ケガを負った一回戦の途中からと二回戦のすべてで圭吾は欠場し、二回戦で俺たちの夏は終わりを迎えた。


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