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スーパースターな男  作者: 柿井優嬉


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敵チームのエースピッチャーの話②

 プロ野球の世界に身を置き、ポジションは投手である、俺が目指すのは勝利のみだ。楽しかったからよかっただとか、精一杯やったから満足だなどということがないのはもちろん、防御率や奪三振といった個人成績がいくら良かったとしても、チームが負けたならば何の意味もない。

 野球を始めてからずっとそのスタンスで、試合を観ている人間には遊びの部分があまりになくて面白みがないと言われたことも、それこそ頑張ったんだから負けてもしょうがないじゃないかと抜かしたりする生ぬるいチームメイトとは溝ができてしまうこともあったが、勝敗に影響が及ばないのであれば、非難だろうが陰口だろうがいくらされたって構いやしない。

 高校ラストの年に背番号一を背負って甲子園での全国優勝を果たし、大阪が本拠地のベアーズにドラフト一巡目で指名され入団して今季で四年目。目標は日本一しかないこの強豪チームに、三球団による抽選でくじを引き当てられ、やはり自分はそういう星のもとに生まれたのだと感じながらも、去年までの三年間は日本一どころかリーグ優勝もできなかった。

 ただ、その間の俺は、一軍の先発ピッチャーのローテーション枠を勝ち取りつつも、まだ格下の存在だった。去年チームで最も多い、そしてリーグの最多勝と一つ差の、十四勝をあげ、誰もがエースと認めるようになった今年達成するのでちょうどよかったのだと今は思う。

 そしてシーズンの三分の二を過ぎた現在、ベアーズは開幕直後から一度もその座を奪われることなく首位に立っている。

 しかし、北信越ロケッツが近づいてきやがった。

 リーグの下位三チームにあたるBクラスが定位置となっていたロケッツは、序盤は例年通りの取るに足らないチームだったのだけれども、別の球団でだが前回の監督時に二年連続でリーグ優勝を成し遂げた仁科氏が勘を取り戻したのか、途中から絶妙な采配を振るい始め、彼に乗せられたように選手たちも、開幕直後から出来が良かった者も幾人かいたものの、皆がまとまって生き生きとプレーしだして、まったく気を抜けない相手へと様変わりした。

 特にオールスター後のシーズン後半戦になってからは、接戦の試合はほとんどというくらいにものにしたりと破竹の勢いで、一時十ゲーム以上離していた俺たちの背中が見える位置まで迫ってきたのである。

 チームがそれだけ良ければ、キィリアハイの成績をあげるなど活躍している選手は当然何人もいるが、なかでも目立つのは新人の杉森圭吾だ。

 最初は育成の立場だったというのに、早い時期から一軍に上がってスタメン入りし、一度は控えに回されるも、代打で結果を残して、再びサードのレギュラーを自分のものとした。

 杉森の現在の打順は一番や七番といったところで、主力という地位までには到達していない。とはいえ、高卒のルーキーでポジションをつかんだのだから十分過ぎるのに加え、ロケッツが元気になったのは監督以上にこの男の影響ではないかとも言われているほどのエネルギッシュなプレーで、ロケッツファンのみならず注目度は高い。新人王の有力候補だ。

 俺には勝利しかないのだから、誰にも打たれるわけにはいかないが、そのなかでもこいつは絶対に抑える。四球などで塁に出すのも許さない——。

 個人どころかチームですら、特定の相手を意識して、こんな感情を抱いたのは初めてのことだ。もしプロ野球に関して少しでも知識がある誰かが知ったならば、俺と杉森では格が違う、普通に投げればほとんどアウトにできるのだし、わざわざそんなふうに思う必要はないと考えるだろう。

 では、なぜ俺はあいつをそれほど意識するのか。

 それは、ある発言を耳にしたからだ。


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