敵チームのエースピッチャーの話①
「さあ、トーキョースタジアムでの、大阪ベアーズと東京アローズによる三連戦の三戦目も佳境を迎えました。一、二戦ともにアローズが二桁得点を取り、失点は二試合合計でわずか一点というワンサイドゲームで、三タテは間違いないといった雰囲気でしたが、本日の試合は、マウンド上、ベアーズのエースの六車が立ちはだかり、ここまで二対一でベアーズが一点リード。しかしベアーズ、九回裏ツーアウトまでこぎつけながら、ランナーを三塁と二塁に背負い、サヨナラのピンチです。ここまで一人で投げ抜いてきた六車、踏ん張れるか」
「この状況でも六車くんは表情一つ変わりませんからね。チームメイト、何より監督が、非常に頼もしく感じていると思います。とはいえ、負けては元も子もありません。おそらく最後はフォークでくると思いますが、果たして良いところに落とすことができるかどうか」
「六車、一ボール二ストライクと追い込んでの第四球、投げました! 空振り三振ー! やはり投じられた、決め球のフォークボールが綺麗にバッターの手前で落ち、奥村のバットにかすることもなく、キャッチャーのミットに収まりました。雄叫びをあげ、派手なガッツポーズを見せた六車、完投で、ハーラー単独トップに立つ十二勝目。そして、またしてもチームの連敗を止めました。まさにエースの肩書にふさわしい、今シーズンの活躍です」
「いやー、お見事でしたね。捕手の金子くんもよくキャッチしました。それにしても六車くん、この時期で、十二という勝ちの数はもちろん、負けがたったの一つしかないのがすごい」
「ベアーズは開幕当初から首位を快走していましたが、疲れが出てきたのか、最近の勝率は五割ラインを行ったり来たりと、ここにきて苦しい戦いが続いています。特に、安定していたリリーフたちの不調が目立ちますけれども、六車が頑張って、投手陣を支えていますよね?」
「はい。まだ四年目、エースと呼ばれるのは今年からとは、考えられません。それも、エースはエースでもベアーズのナンバーワンピッチャーということですので、プレッシャーがないはずはないと思うのですが、まったく感じませんね。本当に素晴らしい働きぶりです」
「防御率もこれで二位に上がりましたけれども、彼は、目標は優勝で、タイトルには興味がないと公言しています」
「そうなんです。去年、実際に、最多勝と最多奪三振のタイトルを獲れそうで両方とも逃したというのに、悔しい様子はありませんでした。やんちゃそうで、自分さえ良ければいいと思っているタイプにも見えますが、チームのためという気持ちがどの選手よりもあるんです。立派ですよ」




