プロ野球マニア(オタク)の話③
「ふーん」
自宅の自分の部屋で、パソコンで杉森圭吾を調べて、出場している試合を動画で観もした。
こいつが活躍できるかどうかは、この部分に関しては勝間に言った通りで、プロのスカウトが、それも何年も追いかけたりしても、判断を誤ることがあるくらいだから、わかりゃしない。
しかし、おそらく駄目だろう。学生の頃から、こんな派手な動きの、人の眼をがんがん意識しているようなプレーをする奴は。野球にとことん向き合っている選手の態度じゃない。
それに僕は、黙々と必要な仕事だけをやる、まさに野球しか眼中にない、職人といった感じの選手が好きなのだ。ロケッツで挙げるんだったら、今年チームで最年長になった、石黒だな。
ケッ、杉森め。育成から支配下登録されるのだって甘かねえぞ。
すぐにクビになっちまえ、お前なんか。
「え?」
この前、最後にちょっと杉森を褒めたっぽい言葉を発したけれど、中身のあることは全然言わなかったから、もう近寄ってこないと思っていた勝間が、また僕のもとにやってきた。
しかもだ。
「一緒に杉森を観にいく? きみと僕の二人で?」
「うん」
……。
「なんで?」
「今度さ、ロケッツの二軍が、ソリューションスタジアムに試合をしにくるんだよね。でも、お姉ちゃんはだいたいこういうとき付き合ってくれるんだけど、その日は都合が悪いし、野球に興味ないとかで、他にもついてきてくれる相手が見つからなくて。一人で観にいってもつまんないじゃん」
「……だからって、なにも二人でなんて……」
よく知りもしない相手、それも男子と二人きりだぞ。こいつ、やっぱりちょっとおかしいんじゃないか?
「話、聞いてないの? 他の人はみんな駄目なんだってば。どうなの? 行ってくれるの? 無理なの?」
……。
「ねえ」
「わ、わかったよ。し、仕方がないなあ、もー」
「迷惑ならいいんだよ……」
勝間はいじけた様子で下を向いた。
「い、行くよ、行く! 喜んで行くさ。なんたって僕は大のプロ野球ファンなんだから。きみとこの前初めて言葉を交わしたのに、そんな誘いを受けるなんてってびっくりしただけで、その日までに行けなくなる予定が入るかもなんてことも絶対にないから、大丈夫。だから、そんな落ち込んだ顔をするなよ」
「ほんと?」
勝間は顔をほころばせた。
「よかった。じゃあ、よろしく。あ、そんなに二人だけが嫌なら、あなたが誰か連れてきてもいいけど?」
……。
「いや、僕も一緒に野球を観にいってくれる相手はいないから、この際、二人でも全然構わないよ」
「そう。とにかく行ってくれるならいいや。今度またそのことについて話しにくるからね。バイバーイ」
そう言い残して、誰に見られても平気なようで、堂々と僕に手を振って、彼女は自身のクラスのほうへ去っていった。
「……マジかよ」
これって、ほとんどデー……いやいや。
こりゃあ、野球の神様が僕に「試合を間近で観て、もっと野球を勉強せい」と言っているんだろう。
よーし、だったらしっかりと、試合を、プレーする選手の一挙手一投足を、目に焼きつけようではないか!




