小中学生時代の友人の話②
中学生になると、僕は、下手だったのと、元々そこまで熱心なわけではなかったので、野球をやめてしまったのだけれども、杉森くんは、僕と一緒の学校に通って、そこの野球部に籍を置いた。うちの中学は普通の公立校で、生徒は周辺に住んでいる人がほとんどだから、彼はリトルリーグのチームのとき同様に、一番上手くて、打順は四番で、キャプテンを任された。
みんなからチヤホヤされる立場でありながら偉ぶったりしない人柄も変わることはなく、自分が野球をやらなくなったので少し距離ができたものの、僕にとって杉森くんは尊敬しているというくらいの大きな存在のままである。彼の活躍を願って、応援に力を入れている。
そういうわけで大会の試合を観戦に行ったときに、出場してプレーする杉森くんを見た、僕の近くにいたけっこうな年齢に達しているだろう二人の男性が、こんな会話をする声が耳に届いた。
「あの坊主、気迫があるし、それでいて華麗さもあって、いいねえ」
「ああ。目立つよな」
「ミスターを彷彿とさせるよ」
「右バッターで三塁手だしな。しかし、ミスターを彷彿とはちょっと言い過ぎじゃないか?」
「でもセンスはあるだろう?」
「まあな。これから急激に伸びればプロもなくはない。だけど、減ってるとはいっても野球人口は多いし、野球は日本で一番人気のあるスポーツだ。もっと力があるのは全国探せばごろごろいる。そんなに甘かないよ」
「それでも、ああいうコにプロで活躍してもらいたいよな。ただ上手いだけの選手なんて面白くないよ。最近は個性的なのが少なくなって、なかなか名前を覚えられないし、つまらないったらありゃしない」
「長所を伸ばさないで、短所を直す指導ばかり受けてるんだろうな、それも幼い頃から。ホームランか三振かよりも三拍子揃ったのがいいみたいな評価もそう。人間性も目につくのはマスコミや、今はネットで一般人からも叩かれるし、お行儀よくで、おとなしくなっちまうんだ。ほんと、ああいう坊主がこのまま変わることなくプロでプレーする姿、俺も拝みたいねえ」
その話のすべてに納得はできなかったが、杉森くんが褒められたから悪い気はしなかった。
男性たちが口にしていた通り、杉森くんのプレーには華がある。ヘルメットが外れて落ちるほどのフルスイングをしたり、倒れながらのスローイングなど、派手な動きで観る人を魅了するのだ。それは意識的にやっているのか、それとも無意識なのか問われた彼は、こう答えたという。
「観ている人に楽しんでもらいたいから意識的にやるときもある、けど懸命にやってるだけの無意識のときもある、かな」
つまり、どうやっても目立ってしまう、スター選手なのだ。
杉森くんがもっと多くの人から評価されるようになるに違いない、英雄への階段を上っていく姿を、僕はしっかり目に焼きつけるつもりである。