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所属チームの選手会長の話③

「すげえぞ、杉森」

「よくやった!」

 この試合の主役となった杉森を、そばにいる何人かが改めて褒め称えるなかで、一人が言った。

「マジでよく打ったよな。お前、ストレートのほうが、それも全然、タイミング合ってなかっただろ?」

 確かに、杉森はあのホームランまで、スライダーには何度もしていたファウルすら、直球ではできずにバットは空を切るばかりで、ヒットどころかアウトになる打球さえも打てる感じがまったくなかったのだ。だからスタンドまで飛ばした光景に、まるで別の人間が乗り移って行った出来事とでもいったイメージで現実味がなく、茫然としてしまったのである。

「はい」

 うなずいた杉森は答えた。

「やっぱり岸本さんの場合、スライダーのほうが芯で捕らえるのは難しいので、なんとかストレートをたくさん投げてくれるようにしようと考えまして。スライダーに対しては、ポテンヒットがあるかもと思わせるために、どんなに体勢を崩されてもとにかくバットに当てることに集中して、かたやストレートは、もっとこいつは打ち返せないなと判断してもらえるように、あのホームランの前のすべての打席でわざと振り遅れて、三振するようにしたんです」

「え?」

 聞いていたみんなが驚いた。

「だって、それじゃお前、打率が……」

 最後にホームランを放てたから良かったものの、いや、たとえ打てても一試合で一安打だけだと打率は下がってしまいかねない。俺たち他の選手だって、チームのために、ランナーを進める目的で敢えて内野ゴロを狙ったりするときはあるけれども、三打席も四打席も同様のことをするのは、己の打率の降下を考えるとさすがに勘弁という気持ちになるところだが、プロで、しかも何倍ものキャリアがある、相手のピッチャー、そして俺ら味方にも、悟られないくらい迷いなくその自己犠牲的なプレーを実行したということだ。本当に、どえらい新人だ。

 杉森は微笑んで付け足した。

「同じピッチャーに二試合連続で負けるだけでも悔しいのに、そのすべてのイニングで〇点じゃ堪え難いですからね」

 わかっていたが、自分がヒーローになるためではなく、チームが白星を得るのが目的の行動だったとはっきりさせた発言だ。ちょっと前には、監督と一緒で、勝利が第一ではないように語っていたのに。

 まあ、楽しむのと勝つの、どっちが優先ってことじゃなく、両方とも大事って意識なんだろう。あのとき口にしていた通りで、プロはプレーを観てもらってお金をいただくんだから、人々を楽しませる義務がある。そして、お金を払ってくれるファンの方々は勝利を望んでいるのであり、それをつかむべく必死にやる責務も。

 タイトルが獲れるくらいの成績を毎年残す選手を一流とするなら、その二つの責任をともに果たすことができる人が超一流で、まさにこの試合でそれをやってのけたのを考えれば、杉森には超一流であるスーパースターの素質が十分備わっているといったところだろうか。

 俺はそこではっとした。リーダーの選手会長として、チームの雰囲気を変えるのは今だろうと。


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