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スーパースターな男  作者: 柿井優嬉


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所属チームの監督の話①

 プロ野球の選手はほとんどが、幼い頃はエースで四番といったチームで最高の存在だった。

 私もそうだ。だから、本人には自覚がなかったり、そんなふうに自分はならないと思ったりするのだけれど、過信やうぬぼれが生じやすい。私はアマチュア時代にチーム内で圧倒的なナンバーワン選手ではなかったものの、やはり周囲から一目置かれるくらいではあって、高校生でありながらドラフトの三巡目というかなり高い順位で指名を受けると、何の根拠もなく「新人王も十分狙えるし、いずれはベストナインやタイトルを獲ってやる」などと、入団前には考えていた。

 ところが、足を踏み入れたプロ野球界というところは、私なんかが活躍するなんて到底不可能な、超人たちの集う場所だったのである。自分に向かってきてデッドボールだと思った球が、ベースの手前で急激に曲がって外角ギリギリでストライクになる、そんなすさまじい変化球を投げるピッチャーが、何年間も一軍に上がれなかったりしているのだ。入団してすぐに、知らず知らずのうちに高くなっていた私の鼻は、ものの見事に折られたのだった。

 もちろん、せっかく入ることができた夢の舞台、簡単に諦めなどせず、自分にできる最大限の努力はしたが、一流のプレーヤーになるのは無理だと判断した。というか、せざるを得なかったわけだけれども、守備や走塁といった黒子的な役割に活路を見いだすことにした。また述べるが、プロになる選手は大概が過去はチームのトップだったのだ。元から下手で代走や守備固めをやるのとは精神的な部分でまったく違う。口には出さずとも、そんな役回りだったらと、球団に強く求められて、お金だって一般の社会から見たらとんでもない額をもらえるとしても、プライドが許さずに、引退を選択する選手も稀ではないはずだ。

 私にもそういう気持ちがないことはなかったが、野球界から身を引いて、自分に何ができるのだという不安が大きかった。野球以外に人並み以上のもの、例えば運転免許を除けば資格は一つもないし、組織内や客相手にうまくやっていけるほど社交的でもないし、今はプロに入る前からセカンドキャリアを意識しているコも少なくないのだろうけれども、時代的に、それに私はメンタルがそんなに強くないために「野球で大成できなかったら」を考えたくないので徹底的に頭から排除していたという面があって、準備も心構えも全然できておらず、他の道でどうやったら食べていけるのかがさっぱりわからなかったのである。

 これで生きていくと決断できるくらいだから、守備や走塁は得意であり、助かった。とはいえ、それらもプロのレベルからしたらそこそこといった具合だった。ゆえに死に物狂いで頑張ったし、どうすれば上達するかという研究もものすごく行った。その苦労や勉強で手に入れた数々のノウハウによって、引退してもコーチとしてこの世界に残ることができたのだ。

 だが、まさか、監督でお声がかかるとは夢にも思わなかった。私の前に務められていた越谷さんがおそらく球団が想定していたよりも早く辞めることになり、次に据えることを考えていた釜田くんの二軍で指導経験を積ませるという予定を変えたくなかったのだろう。引退した元選手は腐るくらいいるのだから、他にも候補がいないわけではなかったはずだけれども、そのチームのOBで「この人がやるのだろうな」とすぐに思い浮かぶほど現役時代の実績がずば抜けた者はいなかったし、自分で言うのもなんだが頭が切れるイメージに加え、駄目だったらすぐに解任しても支障がない立場の人間というのも決め手となって、私が選ばれたのであろう。

「自分なんかが監督なんて」という気持ちはあったが、それよりも「自分なんかが監督の要請を断ってはいけない」という考えのほうが上回った。それに監督は、自分が思い描く野球を現実にできる、とても魅力的なポジションだ。もう二度とできない可能性が高いのもあって、腹を決めて受諾した私は、それまで以上に野球というスポーツに関する情報を集め、どうすれば勝てるかを分析し、過去に監督をなさった方が著された書籍を読みまくった。

 しかし、その役職は知識を積み重ねればそれに比例して結果が出るというものではない。ときにはセオリーから外れた起用や作戦も行う、勘も大事で、両方の能力が必要となってくるのだ。

 どうやら私はそういう感性の部分も恵まれていたようで、務めた二年間ともにリーグ優勝を果たすことができた。それも、他チームと競ってギリギリというのではなく、余裕があるくらいのゲーム差での制覇である。

 といっても、私自身の心の中には余裕などひとかけらもなかった。やはり精神的に強くなく、監督なんて身分不相応な仕事を与えてもらったのだから結果を残さなければならないという使命感で、常にプレッシャーがのしかかっていたのだ。また、その緊張を、弱みを見せると勝敗に響きかねないと、他のチームのみならず、率いている自軍の選手やコーチ、それにファンやマスコミなど、誰に対しても悟られまいとしていたものだから、さらにストレスがかかる。胃薬が手放せなくなったし、白髪や抜け毛が増えたという記憶がある。

 そうして、ある日、自宅に帰ると、幼かった娘が私を見る眼がおかしいことに気がついた。


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