一軍でのチームメイトの話③
だが、プロの世界は甘くない。杉森は、元気で魅せるプレースタイルは変わらなかったけれども、打率は二割前後、得点圏に至っては一割台半ばで、肝心の成績は振るわなかった。
とはいえ、新外国人選手が最初の数試合で何本もホームランを打つなど派手なデビューを飾りながら、その後はさっぱりといった具合に、珍しくないどころかよくある光景だ。ましてや高卒のルーキーなのだから、本人が厳しい批判にさらされることにはならなかった。
ところが、問題が噴出する事態になったのである。若手を我慢して使い続けることはままある。にしても、監督が一向に杉森をスタメンから外さないのだ。もう優勝やプレーオフに進める三位以内の可能性がなくなり、消化試合ならば来年を見据えてというので理解できるけれど、まだシーズンの序盤。二軍に落としてもおかしくないところなのに、控えへ降格すらしない状況に、「ちょっと大目に見過ぎだろう。勝つ気があるのか?」という空気が、今まで監督のやり方に不満がなかったメンバーにも生まれて、チーム内に充満していった。
いい歳をした、それもプロの選手たちが、「あいつ一人だけ、打てなくてもずっと試合で起用して、ひいきではないのか?」などと言うのははばかられるが、そうこうしている間にも敗戦が続いて、たとえその後にチームを立て直せたとしても、もう上位に進出するのは手遅れとなってしまっている可能性がある。なので、悠長に構えている場合ではないと判断したのだろう、石黒さんというベテラン選手が、ミーティングで疑問をぶつけた。僕は、元々違和感があったわけだけれど、監督への不信感が高まっていくのを良しとするよりも、チームが好ましい状態になってほしい気持ちのほうが強かったから、そういう心理で推移を見守った。
「こんなことを口にするべきではないのはむろん承知の上で、チームが今大事な時期なので、敢えてうかがいますけれども、杉森をいつまでスタメンで使うお考えなのですか? もちろん必死にプレーしている彼自身は何も悪くありません。しかし、結果が出ていないのは明らかです。その件に限らず、監督に勝利への意欲が薄いように感じるのは、私だけではないと思います。どういうおつもりなのか、お気持ちを聞かせていただきたいのですが?」
それに対して、少しの間の後、表情を変えることなく、仁科さんは僕らに語り始めたのだった。




