表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/48

一軍でのチームメイトの話②

 ファームで彼の昇格がちょっとした物議を醸していたなんてことは、耳にしていたとしても、一軍の面々は詳しくは知らなかった。このままズルズル黒星が増えていきそうな苦境を打開するために手を打つべしというので、たとえ高卒の一年目だろうが、いや、カンフル剤と考えればそれくらいフレッシュな奴のほうが良いから、むしろ最善の策と言えるほどに、この出場選手登録に関してはまともな対応だ。誰も「なぜあいつなんだ?」とはならなかった。

 監督にはやたらと若手を使いたがる人と、レギュラーを筆頭に一軍のメンバーをほとんど変えない人がいる。うちの前の監督は後者で、それでもなお這い上がるだけの力がある新人は何年もの間出ていなかった。その、久しぶりの一年目の選手による一軍への昇格、プラス高卒、さらに育成からの人材、ということで、開幕前の騒ぎは例外的な出来事なので別として、ファンやメディア等の人気や注目が低い我が球団であっても、けっこう話題を集めたのである。

 高い関心や期待のなかの一軍帯同初日、もちろん僕も「こいつはどんなもんかな」と興味を強くしていたのだが、六回に先発ピッチャーの代打で出場を果たした杉森のプレーは、見事だった。

 レフト前に初打席でのプロ初安打を記録して、大きいガッツポーズで喜ぶと、次のバッターの一球目に、アウトになったものの、ヘッドスライディングでの盗塁を敢行。そのまま交代させられずについた三塁の守備でも、取れないのが確実なファウルにでも果敢に飛びつくなど、元気のないチームを盛り上げようというのがひしひしと伝わる動きをやり続けたのだ。

「お前、やるなあ」

 試合中のベンチで、僕は杉森に初めて声をかけた。

「チームに活気を与えるプレーを、ずっとさ。すげえよ」

 杉森は、グラウンドと別人かと思わせるくらい、そこでは低姿勢で冷静に、言葉を返した。

「ありがとうございます。一軍に上げてもらえたのは、そういう部分の期待もあったと思いますので」

 その通りだ。首脳陣はもちろんだが、目にしている他の人間たちも同様に、新人らしいハツラツさを求めてしまう。しかし、初出場の緊張や、年上の先輩たちへの遠慮や萎縮などで、普通はできない。それが、最後には観客による名前の連呼が収まらなかったことが物語っているけれど、チームナンバーワンの選手がケガか何かでしばらく実戦から離れていての復帰戦で、誰しもがその男を観にきた、というような雰囲気にまで球場をしたのだから、本当にすごい。気合いがありつつ、それでいて時折笑顔を見せたりと、楽しんでいるのもよくわかった。マジで高卒の新人で最初の一軍での試合なのかと、特に選手はみんな思っただろう。

 結果、誰もが納得するかたちで、次の試合から一番サードでのスタメン入りとなったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ