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担当スカウトの話②

 自分はたいしたことなかったが、野球部は強豪だった、僕の高校生時にいたのだ。プロのスカウトに散々ドラフト会議で指名するようなことを口にされながら、名前を呼ばれないで、この世の終わりのように激しく落ち込んでしまった仲間が。すごく善い奴だったし、あれから何年も経つけれど、思いだすたびに、自分や身内が当事者だったというくらいに気が滅入る。僕がこの仕事に就いた理由は単純に野球が好きだからだが、あいつや僕が受けたようなつらさを味わう後輩を一人でも減らしたいというのが心の奥底にあったからこそ、他にも関わりを持てる職業はあるなかで、スカウトを選んだんじゃないかと考えるときがある。

 かといって、獲るか未定の選手に対して徹底的に距離をとって気づかれないようにしたら、もしドラフトの直前で指名すると決まって声をかけるなんてことになった場合、入団するか、もっと言うと、プロ野球界に身を投じるかどうかという人生の一大事を、判断する時間がわずかになってしまって、それもまたかわいそうなので、今のような振る舞いを僕はよくしている。

 球団の人からは「お前の存在が向こうに伝わるなら同じだって」と言われる。スカウトがちょっと観にきただけで、ほとんど何もしていないのに、もう指名されるものだと解釈するコは珍しくない、だから、他チームも注目しているかもしれないのだし、熱意があるところを見せるためにも、少しでも気になったら積極的にアプローチしろということなのだが、あの仲間のひどく落胆した光景が目に焼きついている僕は、やはり安易に期待させる行動をとる気にはなれない。指名されると早とちりするコに関しては致し方ないだろう。もう成人かそれに近い年齢なのだ。周りに判断力がある大人もいるはずだし、そこまで面倒は見れない。中途半端であっても、遠目から眺める今のスタンスは、少なくとも当面は続けると思う。

 肝心の杉森くんはというと、ホームランのすぐ後にケガを負ってベンチに下がり、そのまま一度もグラウンドに戻ってくることはなく、チームも次の二回戦で姿を消した。自分がスカウトであるのは置いておいて、彼が大会を通じてとてつもない結果を残すんじゃないか、ぜひ見届けたいというワクワクした気持ちもあったので、非常に残念だったけれども、何よりも彼をうちが獲得する、「最低の」と頭につけていいだろう、条件である、ドラフトの上位指名候補になっている投手からホームランを打つこと、は実現できなかったわけだ。そういうピッチャーと対戦して抑えられたのならしょうがないと諦められるに違いないが、歯がゆいことこの上ない結末である。

 しかし、もしかしたら密かにどこかのスカウトがマークして、高く評価していた可能性もあるので、あくまで推測だが、これで他の球団が彼を指名することはない。一回戦のホームランは素晴らしかったし、目にしていたら衝撃を受けただろうけれど、うち同様に上の人はシビアなもので、あれのみでゴーサインを出してくれるとは考えられない。むしろチャンスなのだ。僕はとにかく彼は良い、獲得すべきだと、この仕事を始めて最もというくらい、上層部にひたすら訴えた。

 でも、駄目だった。僕が年配で実績を積んだスカウトだったら、いや、なってから短くても、あいつの言うことは聞き入れる必要があると思わせるだけの働きぶりができていたらよかったんだ、と落胆した。

 ところが——。


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