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転生しておっさんから伯爵令嬢になったら、前世の義息から溺愛されました  作者: 白まゆら


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新たな目標

「まさかエリザが、旧王族派の思考を持っていたとは思いもよらなかった。甘やかしていた所為で自己主張の強い性格とは思っていたが、イザヴェリ嬢など他の令嬢に負けない強さも必要だと看過していた。父上や私の思いは、エリザには届いていなかったのだな」


 先ほどまで喚いていたエリザベート様は、騎士により執務室から引きずり出されて自室に閉じ込められた。

 理解できない状況に大暴れしていたが、最終的にはアレンの魔法で眠らされ運ばれたのだ。

 ただ暴れている際にエリザベート様が漏らした言葉が気になる。

 俺は落ち込んで項垂れるオクモンド様には悪いが、そのことを話題にした。


「エリザベート様が仰っていた『貴方の好きにはさせないわ。最強の手札を私は持っているのだから』というのは、どういう意味でしょうか?」

 最強の手札。

 言葉からしたら強い味方がいると捉えられるが、王族であるエリザベート様以上の強い存在などいるはずがない。

 まさか娘に甘い国王陛下が味方だとでも言っているのか、と首を傾げる俺に兄二人やアレンも考え込むが、溜息を吐いたオクモンド様が「苦し紛れに喚いただけで深い意味はないだろう」と言ったので、その話はそれきりになった。



「エリザベート様の出現で話がそれてしまいましたが、どうだい、セリーヌ? お頭に似た人物はいたかな?」

「今のところは、それらしい人物はいないようです」

 俺は今まで目を通した姿絵を端に避ける。

 その一番上にある姿絵を、長兄が指差した。

「これは、お前にサーカス場で絡んできた男の親だ」

「え?」

「これとこれと、そうだな、ここら辺にあるのが、あの事件に関わっていた子供たちの親だな」

 そういえば後の事件が濃すぎて阿保坊たちのこと、すっかり忘れていた。


「彼らは、どういう処罰になったのですか?」

 俺が姿絵から顔を上げると、オクモンド様の許可を得た次兄が答えてくれた。

「実は余罪が出てきてね。まだ取り調べ中だよ」

「余罪? やはり同じようなことを何度もしていたんですね」

 俺が眉を寄せると、次兄がコクリと頷いた。


「ああ、お供と二人きりの令嬢を見つけては故意に離れさせ、一人になったところで連れ去ったり金を巻き上げたりしていたようだ。本人たちは遊びのつもりだったようだが、被害者の中にはその後、自殺した令嬢もいる。簡単には片付けられない。その親たちがバトラード公爵の配下にあったのも気になる」

 奴らの手慣れた行動には余罪があるかもと思っていたが、やはり日常的に行っていたらしい。

 その上、バトラード公爵と因縁があるとわかったら、簡単に処罰を決める訳にはいかないだろう。


「彼らの親は何か言ってきていますか?」

「バトラード公爵同様、子供を庇うような直訴ばかりしている。煩いので当主も牢に閉じ込めている」

 オクモンド様が眉間に皺を寄せて答えてくれたが、彼にしては珍しく荒々しい対策を取っていたようだ。

「国王陛下は何と?」

 俺はふと、ヨハン兄上を思い出す。

 良い国にしようとせっかくここまで平和を築いてきたというのに、このようなところで残った旧王族派が事件を起こし、またもや処罰していかなければならない事態を彼はどう考えているのか?

 反発する貴族を懐に入れながらも上手くやっていただろうに、俺の所為で色々とブチ壊しになったのだ。

 恨まれていたら、どうしよう……。


「国王陛下も君の問題には、いたく憤慨している。目を逸らしていた結果がこうなのかと、自分を責めて一度は落ち込んでいらっしゃったが、今は徹底的に片付ける気だ。そのこともあって、セリーヌ嬢のデビュタントは必ず何かが起こるだろうと危惧されている。私的には、延期にしたい気持ちも大きいのだが……」

 オクモンド様が陛下の気持ちを代弁しながら、自分の素直な気持ちも吐露する。

「あの、私が欠席することで問題が回避できるなら、そうしますけど……」

 俺は元々デビュタントにはそれほど興味はなかったから、欠席していいのならすると口にする。


 だが、それには次兄が溜息を吐く。

「確かに今起こっている問題はセリーヌが関係しているが、デビュタントでも同じように君の所為で問題が起きるとは決まっていない。それなのにセリーヌだけを欠席させる訳にはいかないだろう。この国の法律では余程のことがない限り強制参加なのだから」

 それにデビュタントの宴に出ないと大人として認められないので、社交や結婚する時に面倒くさい手続きが必要になるよ、と次兄に論破される。


「正直、今年は見送って来年改めて出席するという手もあるのだが、それってなんか悔しくないか?」

 次兄の説明の後、長兄が目を細めてそんなことを言う。

「巻き込まれたのはセリーヌ、お前の方だ。それなのにお前が逃げ隠れするのはおかしいだろう」

 確かに長兄の言う通りかもしれない。

 王都に来てからの俺は、ずっと巻き込まれている。

 俺から何かをした覚えは一つもない。

 周囲が勝手に因縁をつけてきて、こんな結果になったのだ。


「それに宴自体を延期にすれば、関係のない令息令嬢に迷惑がかかる。彼らは一日でも早く社交にも出たいだろうし、結婚相手も見つけたいだろう。何かが起きるとしたって、それが何かわからない以上、延期をしても意味がないだろう」

 オクモンド様の言葉に俺は頷いた。

 延期は無理、俺が欠席するのは話が違う。

 そうなると、ちゃんとデビュタントを無事に終えることこそが大事だということか。


「わかりました。今まで以上に気を引き締めます。それで無事にデビュタントを終えた暁には、闇夜の蛇尾を一網打尽にして依頼主を引っ張り出します」

 俺が拳を握りしめると、皆は目を丸くした。


「……いや、セリーヌ。お前にそこまでのことは望んでいない。犯罪者のことはオクモンド様にお任せしろ」

「わかっています。ですが、お頭の顔を知っているのは私だけ。依頼主は私に怨恨がある人物。ならば私が一役買った方が事件解決の近道になるのでは?」

 長兄の言葉に俺は頷きながらも、フンスと鼻息荒く答える。

「それに、その依頼主が何故私を狙うのかはわかりませんが、そういう思考の持ち主なら私がいなくなっても今度はターゲットを変えて同じことを繰り返すでしょう。闇夜の蛇尾も同じです。ここでしっかりと決着をつけておかないと、王都は大変なことになりますよ」

 俺の決意に、皆はポカーンと口を開けている。


 すると、エリザベート様の件依頼、大人しく話を聞いていたアレンがプハッと吹き出した。

「流石セリーヌ。君のその思考を変えるのは無理そうだ。わかったよ。僕が全面的に援護する」

 アレンの賛同を得た俺は、よっしゃーっと内心で拳を握った。

「ハハ、確かにこうなったセリーヌは誰にも止められないな。わかった。決着つくまで俺も王都にいることにしよう」

 長兄が苦笑しながらも、最後まで協力してくれることを約束してくれた。


「あ、兄上まで何を言っているんですか? そんな、セリーヌを危険にさらすような真似、できる訳ないじゃないですか⁉」

 慌てふためく次兄の肩に、長兄がポンッと手を置く。

「それじゃあ、今のセリーヌをお前が止められると言うのか? できるのなら是非頼みたい」

 その言葉に、次兄が俺をチラリと振り返る。

 自信満々に頷く俺の顔を見て、項垂れた。


「……無理です」

「そうだろう。ならばセリーヌを危険から極力遠ざけるためにも手伝うしかないと思うのだが」

「……そうですね。私も協力します」

 項垂れながらも、次兄がゆっくりと頷いた。

 それを見た俺は拳を高く掲げる。

「流石、私の兄上たち! 立派な騎士道精神です!」

「いや……騎士道とかは関係なく、うにゃむにゃ……。そうだね、貴族として王都を守らなければいけないね、ハハハ」

 次兄の力なき笑顔に、俺はキラキラの笑顔を送った。


 俺たちのやり取りを呆然と見ていたオクモンド様は「え、どゆこと?」と呟いていたが、次兄に「すみません。コンウェル家の猛進姫には誰も逆らえないのです」と謝罪され、長兄に「お互い妹には苦労しますね」と労われて、複雑な表情をされていた。


 ふと気が付くと、アレンに背中から抱き着かれている。

「ちゃんと守るけど、危ないことだけはしないでよ」

 そう言ったアレンの頭を、俺はゆっくりと撫でてやる。

「わかってる。王都に来てからのいざこざ、ちゃんと清算してやろうな」

「……やっぱり、わかってない」

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