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転生しておっさんから伯爵令嬢になったら、前世の義息から溺愛されました  作者: 白まゆら


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ここはどこでしょう?

「セリーヌ嬢、無事でよかった。この者の報告は信憑性のないもので、誰も信じてはいないから気にしないでくれ。それよりもセリーヌ嬢の身に何もなくて安心した」

 俺が虚偽の報告をした侍女にジト目を向けていると、オクモンド様が俺の無事を喜んでくれた。

 ああ、もう本当に良い人だ。

 求婚やエリザベート様の所為で避けたくなることに、罪悪感を抱いてしまう。


 それから俺は、先ほどの騒動の成り行きを説明した。

 一応、エリザベート様が俺に対して話した内容は伏せておく。

 それがきっかけだったとはいえ、アレンを引き取るからオクモンド様の求婚を受け入れろと言われていたなんて、ちょっと言いたくなかった。

 話を聞き終わるとオクモンド様は改めて、騎士に青年たちを城に連行するよう命じた。

 そこで聞き取りをして、処罰を決めるのだろう。


「エリザ、お前の勝手な行動がこのようなことを引き起こしたのだ。ちゃんとセリーヌ嬢に謝罪しなさい」

 オクモンド様がそっぽを向いていたエリザベート様に苦言を呈した。

 エリザベート様とのやり取りは隠したというのに、元凶は彼女だと言い当てるオクモンド様はなかなか鋭い。

 だがエリザベート様はキョトンとした顔をした。


「何故? 私は何もしていないわ。問題を起こしたのはセリーヌ様でしょう。連れ出したことを言っているのなら、生理現象だもの。文句を言われても困ってしまうわ」

「そんなことを言っているのではない。騎士を嫌がりセリーヌ嬢を無理矢理、護衛代わりに連れて行ったことが問題だと言っているんだ」

「だからそれは、女性騎士が側に居なかったんだから仕方がないじゃない」

「それなら事前に配置を調べておけ。それにガブガブと飲み過ぎたお前が悪い」

「だってここは埃っぽくて、喉が渇くんだもの。そんな文句はサーカスの団長に言ってよ」

「だから、そういうことを言ってるんじゃないと、何度言えばわかるんだ⁉」


 可哀想に。

 オクモンド様の言葉は、一切エリザベート様には届かなかった。



 とりあえず先ほどの青年たちは騎士に任せて、俺たちは続きの芸を見ることにした。

 招待された王族が途中で帰っては、サーカス団に不備があったと思われかねない。

 何の問題もなかったと示すためにも、オクモンド様たちは最後まで残ることになったのだ。

 だから俺たちも、最後まで一緒にいることにした。

 次兄は俺の体を気遣い、先に帰ってもいいと言ったのだが、俺自身がサーカスを最後まで見たかった。

 途中見られなかった分も、今度こそはちゃんと見てやると勢い込む。


 休憩が終わり再び開演したので先ほどの席に戻ると、エリザベート様がアレンの腕を引っ張っている。

 こそこそと話しているようだが、アレンは知らん顔。

 そのうちに舞台が始まり、エリザベート様は諦めたようだった。

 その様子を少し気にしながらも、俺は舞台に釘付けになる。


 先ほどと同様、仮面の道化師によるパフォーマンスで始まり、すぐに体の柔らかい男女によるバランス芸やアクロバットが披露された。

 そしてハラハラドキドキした後は、可愛らしい犬の芸でほっこりする。

 その後、大きな檻が用意されて舞台の雰囲気はガラッと変わった。

 大きな猛獣が出て来て、微かな悲鳴が上がる。

 魔獣かと勘違いするほど大きな四つ足の猛獣に、獣使いの男が鎖を持ったまま声をかけている。

「ただいまから獣による火の輪くぐりをお披露目いたします」

 大きな火のついた輪っかが舞台に運び込まれ、周囲は静まり返る。


 そうして今まさに猛獣が動き出そうとした瞬間、テントの出入り口である幕が上がり一人の男が飛び込んできた。

「嫌だ。俺はそんな所にはいかないぞ。助けてくれ」

 先ほどボコった青年の一人である。

 遠目なのにどうしてわかったかと言うと、だって顔が腫れているからね。

 彼は何を思ったのか舞台にある檻の扉を開けると、そのまま中に入ってしまった。


「グルルルル」

 扉を閉めてホッと一息つく青年の耳に猛獣の唸り声が聞こえたのは、獣使いである男の「逃げろ」という叫び声と同時であった。

「ひっ!」

 後退した男は、腰を抜かしたようでその場に座り込む。

 獣使いの男が必死で猛獣の鎖を引っ張るが、興奮した猛獣に力で叶うはずもない。

 手の中にある鞭を叩きつけるが、猛獣の眼には突如乱入してきた男の姿しかない。

 ブンッと勢いよく首を振る猛獣に振り回された鎖は、それを手にしている男ごと勢いよく天井に宙返る。

 勢いついたまま、獣使いの男は地面に叩きつけられた。

「ぐわっ!」

 運悪く男の足が火の輪に当たり倒れると、ポツポツと火が周囲に燃え移る。


「ひいいぃぃ、助けて!」

 檻に入った青年は、その場から逃げ去ろうと、檻の扉を開けた。

 途端に猛獣と火が檻の外へと飛び出そうとする。

 その場は大惨事になる。

 我先にと逃げ惑う人々と、猛獣を止めようと檻に集まる団員と火を消そうと水を汲みに行く団員。

 騎士が王族であるオクモンド様とエリザベート様を逃そうと駆け付けるが、オクモンド様はその手を振り払い、アレンに命令する。


「アーサー、火を消せ。猛獣を止めるんだ!」

「一度に言わないで」

 アレンはテントから飛び出し檻の付近へと魔法をかける。

 長兄と次兄も観客を逃すため、外へと飛び出した。

 俺も何かできないかと飛び出そうとして……後ろから何者かに布で口を塞がれた。


 そのまま意識が遠のく。


 ふと、先ほど虚言を吐いた侍女と目が合った気がしたが、多分気のせいだろう……。



「どうした、セディ。そんな所で何をしている?」

「兄上……いえ、別に」

「その頬はどうした⁉ 腫れているじゃないか。誰かに殴られたのか?」

「いえ、違います。俺が不甲斐ないから……」

「……とりあえず冷やそう。そのままでは顔が変わってしまう」


「どうだい? 水を少しだけだけど冷やすことなら私も魔法が使えるんだ。布に濡らしたから、これで頬を押さえると気持ちがいいだろう?」

「……うん」

「この腫れの原因を教えてくれる?」

「……どうして俺には、できないことが多いんだろう?」

「また、誰かを庇ったのか?」

「俺より小さい年齢の魔法使いが虐められていたんだ。やめろと言ったら殴られた。俺が気を失っている間に、その魔法使いは連れ去られてしまった」


「異母兄たちか。それは、セディは何も悪くない。相手が悪かったんだ」

「相手が悪いって何? 理不尽な暴力に耐えなければならない理由はないだろう?」

「セディ……。俺たちは平民よりは力はあるが、貴族よりは弱い立場にある。王族だが、貴族よりも低い王族なんだ」

「ヨハン兄上、そんなことはどうでもいいんだよ。そうじゃなくて、どうして魔法が使えるだけで迫害されないといけないの? それだけで彼らは人じゃない物として扱われるの? 僕は彼らが素晴らしいと思うのに、周囲は彼らを認めない。その意味がわからないんだ」

「セディ……」

「誰も彼もが平等に、なんて綺麗事を言うつもりはないよ。それぞれに役目があることはわかっているつもり。だけど不条理な扱いは納得できない。そして自分が無力だということが、とてつもなく辛いんだ」


 そう、俺は無力だ。

 何もなしえない。

 俺は何のために生まれてきたのだろう?

 せめて、たった一人でも救えることができたなら、俺は……。




 ぼんやりと目を開ける。

 塵芥がたまった硬くて冷たい床が頬に当たる。

 ゆっくりと顔を動かすが、少ししか動かない。

 離れた場所に木箱が重ねられている。

 破れたソファに欠けたテーブル、壊れた椅子が何脚か転がっている。

 窓は、かなり高い位置に二つ。扉は、離れた距離に一つだけあるようだ。


 ここは、どこだろう?

 俺は………………………………。


 そこで意識がハッキリした。

 そうだ、俺はサーカス場から拉致られたのだ。

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