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転生しておっさんから伯爵令嬢になったら、前世の義息から溺愛されました  作者: 白まゆら


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ルドルフ・コンウェル ⑤

 とうとうセリーヌが、デビュタントを迎える。

 王都の宴に出席するために、私の元へ来るのだ。

 だが王都に来られるようになった理由の一つは、それだけではない。

 長年、身を案じて領地からほとんど出さなかった彼女を、デビュタントがあるからといえ許可がおりたのは、ひとえにバーナードの手柄だ。


 どこからともなく優秀な影を手に入れたのである。

 その者は先の戦争で生き残った魔法使い。

 通常、人前に姿も現さないのでセリーヌの護衛にはピッタリだと、スカウトしたそうだ。


 優秀だが気難しい彼は当初、兄上の頼みとはいえ小娘の護衛などと渋い顔をしていたそうだが、セリーヌを遠くから見て何故か二つ返事で了承したそうだ。

 まさか惚れたのか⁉ と兄上は疑ったそうだが、どうやらそうではないらしい。

 魔法使い曰く、セリーヌには普通の人とは違う不思議な気があるそうで、それが何なのか興味が湧いたとのこと。

 どういう意味だ? と訊いてもそれ以上のことは何も言わずに、彼女が領地にいない間は必ず守ると約束してくれたので、今回の王都行きに踏み切ったそうだ。


 そして私は、一年前から滞在期間を延ばしてくれるようにセリーヌに頼んでいた。

 せっかくなのだし王都を案内してあげたいというのは建前で、少しでも長く一緒に暮らしたかったのだ。

 最初セリーヌは渋っていたが、私がデビュタントのドレスを二年前から王都で人気のデザイナーに頼んでいることを知って、受け入れてくれた。

 情に脆く律義なセリーヌは、私の気持ちを汲んでくれたのだろう。

 それでもせいぜい一か月ほどの滞在だろうと思っていた私は、三か月前には王都へ向かうとの返事をもらった時には、嬉し過ぎて少し浮かれてしまった。

 オクモンド様の前で小躍りをするという失態を犯してしまったが、彼は驚きながらも許してくれたので、気にしないことにした。


 ああ、それよりもセリーヌだ。

 私はセリーヌがこちらに来てくれる日を、指折り数えて待つ。

 そして同時に頼れる優しい兄として精一杯、彼女を守ろうと心に誓った。



 王都に来た途端、セリーヌが馬鹿どもに絡まれた。

 あのイザヴェリ・バトラード公爵令嬢率いる、軽薄で傲慢な令嬢の群れだ。

 奴らは何もせず毎日毎日、宝石、ドレス、菓子に男と漁り散らしている。

 宝石、ドレスを親に強請り、菓子と男を食い散らかしているのである。

 少しでも見目の良い男が現れると、それが普段自分たちが差別している平民であろうが魔法使いであろうが関係なく媚びを売り、ものにするのだ。

 そしてそれが貴族ならばそのままゲット。平民、魔法使いならポイ捨てである。

 節操のないその姿に辟易する。


 そんな奴らが、こともあろうに純粋な私の可愛いセリーヌにワインをかけ、傷付けようとしたのだ。

 かろうじてオクモンド様が間に合ったから良かったものの、セリーヌに何かあれば私は自分自身を許せなかったであろう。

 私が少しでも早く会いたいと無理を言って王宮に来てもらった所為だと思うと、とてつもなく辛い。


 ただ、その時にも影がいたはずだが、奴は動かなかったのかと、後に兄上に訊ねたところ、あれくらいなら問題ないだろうと判断したとのことだった。

 影曰く、大人しくやられるセリーヌではない。放っておけば確実に怪我を負っていたのは令嬢たちの方。

 セリーヌが強いと判断した上での言葉なのだろうが、それでも怪我を負わせればセリーヌに責任問題が問われるだろうし、ギリギリまで我慢させるのは可哀想だ。

 やはり影が動くべきだったと私が言うと、彼の存在は極力気付かれない方がいいだろうと言われた。

 影の存在を知られれば、セリーヌなら不快に思い確実に拒否するはずだ。

 そうなったら本当にまずい状況の時に何もできなくなると言う。

 なんだか言い訳っぽい気もするが、私はとりあえず納得することにした。

 王都に来る道中、何もなかったのはひとえに裏で影が動いてくれていたのも事実だったから。


 だがその後もイザヴェリは妙な動きをしていて、なかなかセリーヌを自由にしてあげられない。

 しかもオクモンド様が何かにつけて一緒に行動したがるし、何よりあのアーサー殿がセリーヌに求婚したのである。

 アーサー殿とは二年ほど前に、やっと名前で呼び合う仲になったのだが、それでも魔法塔から出る頻度は少なく、顔を突き合わせるのも一月に二・三回程度だ。

 そんな彼が急激な押しで、あっという間にセリーヌとの仲を深めたのである。

 私は唖然とするしかなかった。


 一体どういうことなのだ?

 何故いきなり距離が縮まった?

 どう考えてもわからない状況に、私の気持ちは焦る。

 けれど私はセリーヌの兄として、しっかりとした態度を取らないといけない。

 決して私欲に翻弄されないように、この目で見極めないと……。

 私は暫く様子を見ることにした。



 アーサー殿のスキンシップは激しい。

 あれが本当に、あの感情のない人形だったアーサー・レントオールなのだろうか?

 セリーヌも最初こそ抵抗していたものの、今ではアーサー殿がくっつくのを普通に受け入れている。

 しかも、いつの間にか愛称呼びまでしている。

 その流れで、私はあんなに一線を置いていたオクモンド様をオークと愛称呼びする羽目になっていた。

 主従関係の何たるかを理解できない娘ではないはずなのに、そんなものは関係ないと一笑する勢いで、気が付けば了承させられていた。

 だがその後、オークと呼ぶたびに嬉しそうにしている彼の姿を見ていると、私がこだわっていたことこそ、何だったのかと思うようになる。

 セリーヌの思い付きの行動は功を奏することが多く、このこともまた、彼女の魅力の一つとして私の心に残った。


 愛称呼びが定着して以降、ますますアーサー殿と親しくなるセリーヌ。

 一緒に出掛けた時など、プレゼント交換までする始末。

 だが、優しいあの子は私とオークにも用意してくれていた。

 オークとお揃いになっていることは、正直微妙な気分だったが……。


 バトラード公爵家の一件が片付いた時には、その功労者であるアーサー殿に、感謝しないでもなかった。

 邪魔されて一緒に居られない私とオークの代わりに、始終あの子に張り付いて守ってくれていたのだから。

 彼がセリーヌに対して本気だということは、疑いようのない事実。

 けれどだからといって、素直に認めることなどできはしない。



 私は父上が判断してセリーヌが了承しない限り、兄として邪魔するつもりでいた。

 けれど、そうこうしている間にオークまでセリーヌに好意を示してきた。

 正直、素直に告白できるオークに嫉妬してしまったのは内緒だ。

 羨ましい、私も自分の気持ちを素直に言えたなら……。

 いや、私は兄だ。

 そう決めたのは私自身なのだ。

 嫉妬心など抱くのも間違っている。


 それに彼に関しては、ハッキリとセリーヌ自身が断っている。

 そうだよな。王族は駄目だよな。

 私はオークには悪いが、内心ホッとしていた。

 だが同時に、ここまでハッキリと自分の意思が言えるセリーヌが、どうしてアーサー殿には何も言わないのか、疑問に感じる。

 聞きたくはないが、婚約してもいいならいいと、嫌なら嫌と答えていたのが今までのセリーヌであろう。

 それなのに、これほど話を引き延ばすのはセリーヌらしくない。



 突然来たバーナード兄上が、いつの間にかアーサー殿と仲良くなっている。

 兄上は私に確認しながらも、アーサー殿を認めている感じだ。

 理由はセリーヌの態度だろう。

 嫌がっていないのが、わかってしまうのだ。

 だからこそ、私も歯痒い。


 その上、陛下まで妙にセリーヌを気にしている。

 ありえない状況に、私の気持ちはどんどんと沈んでいく。

 どうすればいいのだろう?

 どうすればセリーヌを守ってあげられるのだろうか?

 私は兄として、このままセリーヌを……守れるのだろうか……。

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