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転生しておっさんから伯爵令嬢になったら、前世の義息から溺愛されました  作者: 白まゆら


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前世の生い立ち

 こうなったのも元はと言えば、オクモンド様が今日は少しおかしかったからだと俺は考えた。

 アレンに何も言わなかったのも変だし、強引に進めるところもあったし……なんだか、いつもと違っていた。

 その結果がアレンを拗ねさせて、王族の前から消えるという暴挙に走らせた。

 う~ん、これは一方的に何か言われたら、アレンのフォローをしてやらないといけないな。


「……セディは、ヨハンと、知り合いだったんだね」

 アレンが俺の肩に頭を乗せたまま呟いた。

 ギクッと俺の肩が跳ねたのを、奴は見逃さない。

 ゆっくりと頭を上げると、ジッと視線を合わせる。

「あの頃、僕はセディのこと何も知らなかった」

「……俺だって、お前の過去を詮索なんてしなかっただろう」

「そうだね。だから、こういう事態になると動揺する。聞いておけば良かったと」

 アレンはセディと兄上の繋がりに気が付いた。

 俺の態度からバレたのだろうとは思うが、でも……。


「過去のことだろう。今の俺はセリーヌで、国王陛下とは何の関係もない」

 キッパリと言い切ると、アレンは頭を上げてジッと俺を見つめてきた。

「関係ない? 本当に?」

「ああ、今、陛下が幸せならそれでいい。過去をほじくったって、何にもならないぞ」

 俺がニヤッと笑ってそう言うと、アレンは拗ねた目のままボソッと言った。

「セディは王族だったんだね」

「過去をほじくるなって。まあ、そうだな。一応前国王陛下の息子ではあったが、母は戦争で滅ぼされた国の王女だったから冷遇されて、まともに王子としては見られなかったけどな」

 やめろというのに蒸し返すアレンに呆れるが、今更隠すことでもないと、問われるがままに答えた。




 俺の母は、いわゆる戦利品ってやつだ。

 滅ぼした国の姫を攫って己のものにするというのは、よくあること。

 王の側室にされたが国が滅んだ以上、俺たちに後ろ盾はない。

 味方もいない他国で、母がどれほど大変だったかは想像に絶する。


 だがそんな腐った王だからこそ、俺と同じような境遇の者は沢山いた。

 その中の一人が、現在国王陛下である兄上だった。


 俺たちは他の者より似ている部分が多々あった。

 母は天涯孤独の身の上で、亡くなった時期も一緒。

 歳も近く、得意な物や考え方、そして何より王族特有の赤髪にはしばみ色の瞳は、俺たちを兄弟だと示していた。

 兄上は自分の母は平民の侍女で、滅んだとはいえ元王女の俺の母とは身分が違うと言った。

 だから自分と俺とも立場は違うのだと。


 何を言っているのだ⁉

 そんなもの、国が亡んだら何の関係もない。

 それよりも似ているこの髪と目の色を見ろと俺は言った。

 他の兄妹には、これほど赤い髪の子供はいなかった。

 俺と兄上だけ。

 真っ赤な髪は俺たちの絆を現している。

 決して腐った王族の血などではない。


 兄上は、初めて自分の容姿が好きになった、と笑った。




「俺にとって、兄上が特別なのはそういう訳だ。敵だらけの王宮で、お互いに自分たちだけが味方だったのだから、大切に思わないはずがないだろう」

 説明を終えてアレンに視線を向けると、彼は唇を突き出していた。

 え、ちゃんと話したのにまだ拗ねているのか?

 これ以上、どうしろと?


 頬を掻きながら、拗ねているアレンの機嫌をどうにかしなければと口を開くと、声が重なった。

「あーっと、アレン?」

「どうしてそんな人を捨てて、僕を助けに来たの?」

 アレンは初めて会った時の話をしている。

 衝動的に助けてしまった七歳の小さな魔法使い。

 俺はアレンの頭に手を置いた。


「捨てた訳ではないけれど、結果的にはそうなってしまったな。でもあの時の俺は、お前を守るのが一番大切だと思ったんだ。兄上は魔法使いの待遇をどうにかすると言ってくれていたが、俺はそれが待てなかった。俺は小者で、俺の手では国を動かすことなどできなくて、小さなお前を守ることだけで精一杯だったんだ」

 アレンは目を大きく見開いて、俺を凝視した。

「その後も、彼の元に戻ることを選ばなかったのは魔法使いを逃がしたという理由もあったけれど、お前と一緒に居続けることで、本当の意味でお前を守ることができるんじゃないかと思ったんだよ。あの時の俺にはアレン、お前が一番大切だった」

 最後に本音を吐露すると、アレンは俯いてしまった。



 暫く無言でその様子を見ていると、ボソッと呟かれた。

「その小さな僕ですら、最後まで守り切れなかったけれどね」

 うぐっ!

 胸が痛い。

 特大の反論キター!

 容赦なく心を抉る義息子が酷い。


 一年そこらで死んでしまった俺を揶揄するアレン。

 ズキズキと痛む胸を押さえながら涙目になると、アレンは一瞬頬を染めた。

「じょ、冗談だよ」

 横を向いてそう言うが、俺はアレンを見つめたまま視線を逸らさない。

 すると根負けしたようにこちらに振り返り「大丈夫。セディはちゃんと守ってくれたよ」と笑った。

 そう、笑った。

 やっと拗ねるのをやめたかと、ホッとする。

 こいつの拗ねる顔は七歳の頃と重なって可愛いと思うが、やっぱり笑っている顔の方が何倍もいい。

 俺はまたアレンの頭に手を置くと、くしゃくしゃと撫でた。



 そこで部屋の扉の横にある、小さな箱のようなものがチカチカと光った。

 なんだ? と思う俺に、アレンが「来客を知らせるものだよ」と説明してくれた。

「兄かな? 時間が経ってるところをみると、俺たちが消えてから色々と探してくれてたんだろうな」

「……そんなの、すぐにここだってわかるでしょう」

「そうでもないだろう。兄の執務室とか、もしくはコンウェル邸に戻ったとも考えられるじゃないか」

 俺の言葉に、アレンは無言になった。

 アレンとしては、咄嗟のことだったし一番近くで安全な場所として自室を選んだんだろうが、兄たちにそれはわからない。

 非協力的な魔法使いの集まる、連絡のつきにくい魔法塔を後回しにした可能性もある。


 俺はアレンの肩をポンッと叩く。

「話はここまでだな。いきなり消えたのは流石に愚行だった。ちゃんと謝れ。俺も一緒に頭を下げるから」

「僕を呼ばなかった理由を、ちゃんと聞いてから」

 それはまあ、仕方がないか。と俺は頷いた。


 魔法塔の外で待っていた兄とオクモンド様、護衛騎士たちの姿を見つける。

 兄だけではなく、オクモンド様までいるなんて。

 俺はアレンを引っ張って、できるだけ淑女としてはしたなくならない程度に急いで近付いた。

 俺の姿に気付いた兄が、いち早く飛んでくる。


「セリーヌ、無事だったかい? ああ、もう、本当に心配したんだからな」

 ガシッと肩を掴まれて、その勢いにちょっとビビってしまったが、安心させるようにニッコリと笑った。

「突然消えてごめんなさい、お兄様」

「それはセリーヌが悪いんじゃない。そうですよね、アーサー殿」

 兄が隣にいるアレンをジロリと睨みつける。

 その際に俺とアレンの繋いでいた手を、ていっと引き離すのを忘れない。


 兄の後ろにいたオクモンド様が、ずいっとアレンの目の前に立った。

「アーサー、いくら君でも国王陛下の前で消えるのは不敬だ。しかもご令嬢を攫うなんて、どうかしている」

 オクモンド様が眉間に皺を寄せて、アレンを睨みつける。

「ヨハンはそんなことじゃ怒らないよ。怒っているのは君でしょう、オーク?」

 アレンの言葉に、オクモンド様は眉間の皺を深くさせた。


 あれ? これは俺が思っていた以上にヤバい雰囲気かもしれない。

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