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転生しておっさんから伯爵令嬢になったら、前世の義息から溺愛されました  作者: 白まゆら


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お出かけ日和

「え、本当に街へ連れて行ってくれるのですか?」

「ああ。バトラード公爵家で第一王子がもう少しで怪我を負いそうになるほどの暴動が起きたということは、城内でも想像以上に問題視されてね。バトラード公爵を罰金だけで許すのかと議論が起きている。もちろん公爵は反論しているが、彼をよく思わない勢力がこの際、彼の力をそごうと奮闘しているんだ。今はそんな状態だから、傍若無人なイザヴェリ嬢も流石に屋敷から出てきていない。観光するなら今がいい機会だと思うよ」

 夕食時に、兄が満面の笑みでそう言った。



 バトラード公爵は旧王族派の思想そのものだから、今の王家の在り方とは真っ向から対立している。そんな彼の茶会で、多数の貴族が王子を取り囲んだ。

 いくら興奮した若者が押し寄せただけだといっても、見ようによっては公爵が反対派の王族を害そうとしたと捉えられても不思議ではない。

 その証拠に暴動が起きていた間、彼らは隅に避けて傍観していた。

 それは参加していた高位貴族の若者たちが証言している。


 どちらかというと公爵は、オクモンド様を害そうとするより娘と婚姻させて操ろうとしていた。

 オクモンド様は第一王子。

 順当にいけば次期国王だ。

 今の国王陛下の考えを変えるよりは次期国王を手中に収め、いずれ内部から国を動かす方が良いと考えていたのだろう。


 だから暴動を傍観していたのも、本当にオクモンド様に怪我を負わせようとしていたのではなく、あくまで目障りな俺を男たちに手渡すために邪魔したと考えられる。

 そしてあわよくばオクモンド様が軽傷なり気を失うなりしたら、それこそイザヴェリと二人きりにして既成事実を作ろうとしたのかもしれない。

 アレンや兄もその巻き添えだ。

 二人にも自分の息のかかった令嬢をあてがえば、現在の国王亡き後、自分の天下だと考えてもおかしくはない。

 まあ、俺の想像だけどな。


 どちらにせよ、バトラード公爵の当初の思惑とは違った形になっただろう。

 反対派の意見が通れば確実に、公爵の立場は際どいものになる。

 そのような状態でイザヴェリが俺に害を加えれば、即刻バトラード公爵家は窮地に立たされる。

 まあ要するに、今の俺は安全だということだ。


 しかし現国王、彼は本当に頑張っているのだな。

 オクモンド様を見ていると、一緒にいた頃の彼を思い出す。

 今も頑張っている彼に俺は何もできないが、遠くから彼の奮闘を応援しよう。



 俺が目を瞑って、そんなことを考えていると、兄が「それで、どうする?」と声をかけてきた。

「ちょうど明日、休みなんだけど、行くかい?」

「ええ、もちろん。楽しみですわ、お兄様」

 俺がニッコリと微笑むと、兄はふにゃあ~っと笑み崩れた。

 もうすでに街へはアレンに連れて行ってもらっているが、それは秘密なので現状これが初めてのお出かけとする。

 バトラード公爵家のお茶会、あれは戦闘だ。お出かけではない。

 貴族である兄のエスコートなら、アレンとはまた別の視点で楽しめるだろうと、嬉しくなる。


「じゃあ、明日は二人でデートだね」

「そうですね」

 もちろんアクネも護衛も連れて行くし、兄妹なのだからデートとは言わないが、まあ兄がそう思って喜んでくれているのなら、それでいい。

 やっと外出禁止令が解除されて二人でニコニコしていると、周りで見ていた使用人たちもニコニコしていた。

 俺がこの屋敷に来た途端、イザヴェリたちに目を付けられたから使用人にも緊張した日々を過ごさせていた。

 普段、城で仕事をこなす兄がいるだけの静かな屋敷に俺という台風が来た所為で、騒がしくて心苦しくあったのだが、これでやっとピリピリした雰囲気から解放されるだろう。

 うん、コンウェル伯爵家にもやっと平和が訪れた。




 昨日の約束通り、、本日朝食を済ませた俺と兄は仲良く出かけようと玄関を開けた。

 すると外門から、まさかの王家の馬車が向かってきていた。

 は? と目を丸くする俺たちに、その馬車は目の前で止まった。

 馬車の扉を開けた中にはもちろん、オクモンド様とアレン。

「やあ」と裕福な商家の息子風な衣装に身を包んだ二人は、手招きをする。


「私たちも同行しよう」

「嫌です」


 オクモンド様の言葉に、兄が速攻で拒否する。

「まあ、そう言うな、ルドルフ」

 オクモンド様は兄が断るであろうことを察知していたようで、怒ることなく苦笑しながら落ち着かせようとする。

 けれど興奮しきった兄は聞く耳を持たない。

「嫌ですったら嫌です。やっとセリーヌとデートができるというのに、何が悲しくてお二人を同行させないといけないのですか?」

「セリーヌ嬢と以前約束したからね。外出禁止令が解除されたら私も街へ連れて行くと」

「だからって、なんでわざわざ私とのデートの日に?」

「嫌なら別の日でも構わないぞ。けれど私とセリーヌ嬢が二人きりで街へ行くのは、許せるのかい?」

「駄目に決まっているではないですか」

「そうだろう。だからルドルフが一緒の日に合わせて来たのだ」

 オクモンド様の言葉に、それまで嫌だ駄目だと言い続けていた兄はグッと言葉を詰まらせた。


 どうやらオクモンド様は以前、俺との約束(一方的なもので俺は了承していなかったが)それを律義に守ろうとして、本日この場に現れたみたいだ。

「ルドルフが嬉々として休みを取っていたから、イザヴェリ嬢のいない今を狙ったのだなと想像がついたからな」

「……それならば、せめて前触れでもくださればいいのに」

「え、そんなことをすればルドルフはセリーヌ嬢に知らせずに、さっさと出かけてしまうだろう⁉」

 オクモンド様はいつも前触れをせずにいきなり現れるので、おっさんの記憶を持つ俺でも流石にどうかと思っていたが、どうやら事前に察知させれば兄が逃げると予想しての行動だったらしい。

 そして兄の態度から、それは的を射ていたようだ。

 兄はう~っとオクモンド様を睨んでいた。

 王族にその目は如何なものかとゲーテ他使用人があおざめていたが、これも二人の信頼度があってこそだろう。


 そんな二人のやり取りの横で、アレンが俺を手招きする。

「セリーヌ、おはよう。軽装も可愛いね。僕の横においで」

「おはよう、アレン。けど軽装で王家の馬車に乗るのはどうかな? 全然お忍びになっていないんだけど、こちらで用意していた馬車に乗らない?」

 本日の俺の衣装は水色の小花模様のワンピースで、町娘をイメージしている。

 同行すると言っている三人もシャツとベストといった軽装だし、そんな姿の四人が王家の紋章がある豪華な馬車に乗り合わせているのは、違和感しかない。


「僕はセリーヌと一緒なら何でもいいよ」

 ニコリと微笑んだアレンは、王家の馬車から降りて来た。

「ローブ脱いだんだ。心もとなくない?」

「あんまり関係ないかな」

「じゃあ、お茶会でも脱げばよかったのに」

「あれは、わざと。牽制だよ。オークの護衛として魔法使いがいるというね」

「その割にはあんまり牽制にならなかったね」

「旧王族派は、魔法使いを舐めているからね。自分に向けて魔法が使われるとは思っていないんだ」

「ああ、なるほど。それで魔法を使われて簡単に驚いていたのか」


 俺とアレンは兄とオクモンド様を置いて二人で話しながら、当初伯爵家で用意しておいた家紋のない質素な馬車に乗り込んだ。

「ああ、セリーヌ。置いて行かないで」

 すでに俺が馬車に乗り込んでいることに気が付いた兄が、慌てて追ってくる。

 俺は王家の馬車に取り残されているオクモンド様に、視線を向けた。

「オクモンド様もこちらにどうぞ。その馬車ではお忍びに不向きかと」

「ああ、そうだね。そちらに移ろう」


 乗り込んできた二人に、護衛はどうするかと訊ねる。

「伯爵家の護衛は、もう一台の馬車に私の侍女と共に来てもらうのですが、王家の護衛の方はどうしましょうか?」

 オクモンド様についてきた護衛の騎士たちは、馬で来ているのでそちらでついてくるようだが、問題は街中だ。

 オクモンド様とアレンは商家風の装いだが、護衛はキッチリとした騎士の姿だ。

 人目を引くのは確実だろう。


 しかもいくら装いを崩したところで、この三人の美貌。

 どう考えても忍べない。

 物凄くミスマッチで、普通に街を堪能できるのか不安になる。

 先ほどアレンに認識阻害の魔法をかけるかと訊いたが、複数の者にその魔法を知られるのは嫌だと言われた。

 確かにオクモンド様と兄だけではなく、ここにいる護衛やアクネ、伯爵家の使用人にまで知られるのは得策ではない。

 まあ、そうだよなと俺は頷いたが、そうするともう忍ばずに行くかと開き直る。

 だって、もう気遣うのも疲れた。

 別に俺は兄と二人きりで出かけたい訳じゃないから、二人がついてくるのは一向にかまわないのだけど、それなら問題はないようにしてくれと願うだけである。

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