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美形が揃うと訳がわからない

 翌日、約束通りマダムリンドールがドレスを持って訪れた。

 この国のデビュタントの衣装は、男性も女性も白と決まっている。

 それぞれが工夫の凝らしたデザインで、独創性をアピールするために奮闘するのだ。


 セリーヌは小柄で華奢だからプリンセスラインのような上からボリュームのあるドレスも可愛いのだが、より幼いイメージになりやすいので、今回はシンプルにAラインドレスをお願いした。

 密かにスタイルをよく見せ、脚長効果がでるかもと期待してのことだった。

 シングルストラップを服の前から首の後ろに回して結んだホルターネックで上半身はスッキリと。

 スカート部分は美しいレースをふんだんに使って、繊細に仕上げてもらった。

 お披露目されたドレスの想像以上に素晴らしい出来に、興奮する。


 着させてもらって、ちょうど手直しの話が終わったところで、兄が屋敷に戻って来た。

 なんだか屋敷が少しだけ騒がしい気がするけれど、兄一人だよな? と首を傾げていると、扉を開けた兄の後ろにありえない人物が立っていた。

 第一王子オクモンド様と王宮魔法使いのアーサー様だ。

 何故この二人がここに? と困惑していると、兄が俺に抱きついてきた。


「セリーヌ、なんて可愛いんだ。白のドレスがこんなにも似合う子を初めて見た。もうもう可愛過ぎて、箱に閉じ込めておきたいほどだ」

「監禁ですか? それは嫌です。それよりもご挨拶させてください」

 スリスリスリと兄が高速で頬を摺り寄せるので、手で顔を押しやり後ろの高貴な二人に視線を送る。

 兄はアッという顔をしていたが、まさかこれほどキラキラした生き物を忘れていた訳ではあるまいな。

 苦笑する第一王子に、相変わらず無表情でジッと俺を見つめる美神に、俺はへらりと引きつった笑いを向けた。



 城ではあまり気にならなかったが、怜悧な美形と精悍な美形、人外離れした美形が三人揃うと一般の屋敷ではキラキラしすぎて、目が痛くなるものだ。

 貴族の美形など見慣れているはずのマダムリンドールとお針子たちまで、目をパチパチと瞬いている。

 壁に控えていたゲーテとアクネは、目を瞑っているようだ。


 そんな周囲を一瞥して、俺はカーテシーをとる。

「殿下、王宮魔法使い様、ようこそいらっしゃいました」

「ああ、セリーヌ嬢、衣装合わせ中にすまないね。だが、とても美しい。良く似合っているよ」

 流石オクモンド様は王子様だ。

 社交辞令がとても身に付いている。

 まあ、頬がうっすらと赤いので本心で褒められたのだと思うことにする。

 俺は「ありがとうございます」と微笑んで、美神を見る。

 彼はボーっと俺を見つめていたが、一言だけ「可愛い」と呟いた。

 うむ、無表情ではあるが誉め言葉が言えただけ、良しとしよう。


「こちらはマダムリンドール。このドレスのデザイナー様です」

 俺が先客のマダムリンドールを紹介すると、彼らは挨拶を交わした。

「ルドルフが妹の晴れ姿をいち早く見るのだと息巻いていたので、思わず付いて来てしまったんだ。だけど、来てよかったよ。目の保養になった。これはデビュタントが楽しみだね」

「マダムリンドールのおかげです」

「滅相もございません。お嬢様が本当にお美しいからですわ。このように可憐なお嬢様の大切な日のドレスを作らせてもらえるなんて、デザイナー冥利に尽きますわ」

 第一王子の社交辞令に、マダムリンドールまでオホホと社交辞令で返す。

 そりゃあ、俺だってセリーヌちゃんは超絶美少女だとは思うが、この美男三人の前では流石に霞む。

 思わず口角を上げながらも半眼になりかけるが、兄が隣でうんうんと高速で首を縦に振っているので、視線を逸らすだけにとどめた。


「装飾品も、もう全て用意しているのかな?」

「もちろんです。抜かりはありません。私の眼の色に合わせたサファイアの髪飾りとイヤリングを用意しています。ネックレスはホルターネックでは邪魔になるので諦めましたが」

 第一王子が装飾品の有無を訊いてきたけれど、兄が鼻息荒く答える。

 自分に落ち度はないと誇示しているのだな。

 俺は笑顔をそのまま保つ。

 すると第一王子がニヤリと笑った。

「それは残念。まだ用意する物があれば私がプレゼントしようと思ったのに」

 は?

 第一王子が婚約者でもない俺のデビュタントに、装飾品をプレゼント?

 それはどういう意味だと驚いた顔で見つめると、彼はニコリと微笑んだ。

 周囲も呆然とこちらを見ていたが、俺は王子の顔でハッと気が付いた。


「いくら私がお兄様の妹だからといって、殿下がそのようなことをなされたら周囲は勘違いされますよ。お兄様への労いは、お兄様へお願いします」

 いつも側近として頑張っている兄への労いに、妹である俺にプレゼントしようと考えたのかもしれないが、そういうものは本人へ渡してほしい。

 男へのプレゼントを考えるのが面倒だからといって、妹で簡単に代用するのはやめてくれ。

 そう言うと第一王子はポカンとしたが、兄やマダムリンドールはそういうことかと苦笑した。

 美神は相変わらずの無表情である。

 だが、つつつと近寄って来て俺を見つめると「僕も何か用意する?」と訊いてきた。

 いや、いらないし。

 王子にもちゃんと断っていたの、聞いてなかったのか?



 とりあえず俺は、いつまでもデビュタントのドレスを着ている訳にもいかないので着替えることにした。

 兄に頼んで第一王子と美神は応接室に移動してもらう。

 アクネやお針子たちに手伝ってもらいながらドレスを脱いで、マダムリンドールと今後の話をして、彼女たちが帰宅した後、俺は兄たちがいる応接室へとアクネを連れて向かった。

 そこには談笑している兄と第一王子。

 美神は一人、ボーっと窓から外を眺めていた。


「遅くなり、申し訳ありませんでした」

 俺が一言詫びを述べると、王子が「勝手に来たのはこちらだから気にしないで」と気さくに言う。

 確かにな、と思いはするものの流石に口にはしない。

 俺が兄の隣に腰かけると、美神が自分の座っているソファを自分事、魔法で浮かせて俺の隣に移動させた。

 俺と兄、王子はそんな美神の行動に首を傾げたが、アクネはそんな魔法を見たのは初めてだったので、かなり驚いた顔をしていた。


「王宮魔法使い様、私に何かご用ですか?」

「アーサー」

「はい?」

「アーサーって呼んで」


 何故か美神に名前呼びを強要された。

 えっと、と困って兄を見上げると、兄は驚き過ぎて固まっていた。

 同じく驚いた表情をしていた第一王子だったが、すぐに我に返ると美神に訊ねた。

「どうした、アーサー? 君が名前呼びを強請るなんて珍しいな。私が名前を呼んだ時だって、とても嫌そうな顔をしていたのに」

「これ……セリーヌは、いい。許す」

 また俺のことを、これって言いそうになったな。

 しかもセリーヌって、これ呼ばわりじゃなかったら呼び捨てかよ。


 ジト目を向けると、美神はコテンと首を傾げた。

 そして俺の頬にそっと触れた。

 はい~?

 何してんの、こいつ?

 一昨日始めてあった独身の女性に、何勝手に触れてんだ?

 笑顔のまま、ぺいっとその手を振り払う。

 すると、反対の手で同じように頬に触れた。

 もう一度、ぺいっと振り払った。

 そして反対の手が、またもや頬に触れる。

 そして、ぺいっ!

 これを何度も繰り返していると、兄が隣で叫んだ。


「アーサー殿、一体何をしてらっしゃるのですか? セリーヌは貴方の婚約者でも何でもないのですよ」

 兄は俺と美神の間に割り込み、美神の手を掴んだ。

 コテンと首を傾げる美神は不思議そうに答えた。

「ルドルフの妹」

「そうです。私の妹です。貴方とは関係ない」

「大丈夫。気にしない」

「こちらが気にします。ていうか、何言ってるんですか? 意味がわかりません」

 美神と兄の会話が成立していない。

 蚊帳の外に置かれていた第一王子を見ると、彼はまだポカンとしている。


 ハッと気を取り直した第一王子が、慌てて兄と美神の争いに口を挟む。

「アーサー、本当にどうした? 先ほどから君の行動はおかしいよ。君はそんな風に、他人との距離を詰めるような奴ではなかっただろう」

「セリーヌは、いい。特別」

 何故か美神にとって俺は、特別な存在になっていたらしい。

 いや、何故?

 俺が何をした?

 肩を治してもらったのは俺の方だぞ?


 美神の発言が理解できなくて俺が眉間に皺を寄せていると、第一王子が少し揶揄うように言った。

「なんだい、それは? まるで一目惚れでもしたかのようだね」

 その言葉に、兄が悲鳴を上げる。

「やめてください。セリーヌはまだデビュタント前ですよ。いくら純真無垢で可憐な美少女でも、まだ子供です。そのようないやらしい目で見ないでください!」

「いや、一目惚れはいやらしくないと思うけど。え、まさか、本当にそうなのか?」

 兄の言葉に否定はするものの、第一王子はまさかと美神を見つめた。

「一目惚れはない」

 ――言い切りやがった。

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