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王妃との攻防

 俺をお花畑と言い、アレンを玩具扱いし、クロムを人体実験の道具にして、ヨハン兄上やオクモンド様を裏切り、エリザベート様を洗脳しながら、旧王族派を利用して、国を意のままに操った王妃様。

 多くの人の人生を狂わせたことに我慢できなくて、真正面から啖呵を切った俺に、周囲は静まり返る。

 最早、何の話をしているかわからなくなってきた俺は、とにかく王妃様は俺からアレンを奪う敵として認識した。

 剣を構えて戦闘態勢に入る俺に、王妃様は汚らわしい者を見る目になる。


「やはり外見がどうであれ中身が一緒なら、野蛮人は野蛮人といったところかしら。昔から貴方のその自由奔放なところ、大嫌いでしたわ」

「ありがとう。俺はそんな自分を気に入っているよ。それにあんたに嫌われたって別にいい。だって俺もあんたが大嫌いだから」

「何ですって⁉」

「自分が嫌いと言うのはいいけど、言われるのは嫌なんだ? でも自由奔放はお互い様だろう。これほど勝手なことをしておいて。それにどうして自分だけは嫌われないと思っているの? あんた、かなり醜いよ」

 本心をズバズバ言うと、王妃様は真っ赤な顔で目を吊り上げる。


 けれど、すぐにふうーっと息を吐くと、引きつる口角を無理矢理上げた。

「フ、フフ、ほらね。貴方の本性なんてそんなものよ。どんなにキレイ事を言っていても、貴方自身が差別しているじゃない。醜いだなんて、よくも言えたわね。王族の血を引く者だからって子爵出のわたくしを馬鹿にしている」

「ああ、そうだった。子爵家の出だったね。そんなことはどうでもいいよ。俺はあんたの心根が醜いと言っている。言っておくけど人類みな平等でも好き嫌いはあるんだよ。俺はあんたが大嫌いというだけ。そんな嫌いなあんたに大事なアレンは渡さない」

 来るなら来いというように、剣を構えなおす俺に王妃様の眼はますます吊り上がった。



「スフェラン侯爵、彼らを呼びなさい!」

 突然、王妃様がスフェラン侯爵の名を呼んだ。

 だが王妃様に騙されていたことを知った侯爵は、座り込んだまま震えるだけだった。

「……使えないわね。ローラ」

 侯爵を見限った王妃様は、父親に寄り添っていた娘の名前を呼ぶ。

 ビクッと肩を揺らしたローラ様は、オズオズと侯爵のポケットから笛を取り出し、震える口でそれを吹いた。


 ――音はしなかった。

 だが次の瞬間、五人の魔法使いが目の前に現れた。

 王妃様を庇うように囲んだ魔法使いは、それぞれ杖を持っている。

 身なりはボロボロのマントを羽織っていて、先ほど盗賊たちと一緒に居た魔法使いと同じだ。

 彼らはどうやら王妃様に飼われ、クロムと同じように人体実験された被害者たちのようだ。


 彼らを見て、長兄と次兄も同じことを考えたのだろう。

 俺たちは被害者たちに守られている加害者を睨みつける。

 ニヤリと口角を上げた王妃様が俺を見た。

「この者たちは失敗作なの。能力を上げるために色々といじくってあげたのに、成功したのはクロムだけ。仕方がないから補助道具として杖を持たせているのよ。これだけでも、ここにいる全員を倒す力はあるわ」

 得意げに話す王妃様の横で、彼らの眼は虚ろだ。

 失敗作と言われた彼らは、クロムと同じように人体にも影響が出ているのかもしれない。

 体がワナワナと震えだす。

 本当に、ロクでもない王妃様だ。


「貴方とのおしゃべりも、ここまでにしましょうか。そろそろクロムがアーサーを捕まえて、ここに連れてくる頃でしょう」

 王妃様がサッと手を上げると、一斉に魔法使いたちが俺に杖を向けた。

「これで本当にさよならよ、セドリック様」

「「セリーヌ!」」

 長兄と次兄が俺に向かって走り出す。

 だけどその前に、杖から無数の光が発せられる。

 俺は咄嗟に剣を顔の前にかざした。


 バシュ!


 一瞬の発光後、俺に向かって飛んできたはずの光が霧散していた。

 その上、目の前には五人の魔法使い。

 魔法塔の魔法使いだ。

 ハッと気が付いて王妃様の前に居た魔法使いを見ると、それぞれがクタリと全身から力を失っている。

 それを一人ずつ魔法塔の魔法使いが支えていたのだ。

 どうやら王妃様の魔法使いは全員、気を失っているようだ。


「来てくれたの?」

 そう訊ねる俺に向かって、先ほどの美女が口角を上げた。

「貴方にもしものことがあったら、長に殺されるからね。ずっと見ていたけど、貴方無茶し過ぎ。どこで飛び出せばいいのか、ハラハラしたわ」

 心配してくれた美女に、俺は満面の笑みを向けた。

「ありがとう。助かった」

 すると美女は大きく目を開くと、ポッと頬を染めた。

「やだ、この子、可愛い」


 どうやら俺の笑顔は美女のツボにはまったようだ。

 俺はスマイルゼロ円でニッコニッコと笑顔を振りまき、魔法塔の魔法使いにお礼を言う。

「皆もありがとう。この子たちも助けてくれて、本当に助かった。悪いのはこのおばさんだけだから、さっさとふん捕まえようか」

 俺の言葉に、全員の眼が王妃様に注がれる。


 突然の展開に、己の勝利を確信していた王妃様が怒りに震えだす。

「魔法塔の魔法使い……。今の攻撃は、この会場が消し炭になるほどの威力があったはず。それを、どうやって止めたというの?」

「あんなの朝飯前、と言いたいところだけど、流石に一人では太刀打ちできないから、五人で別の場所に飛ばさせてもらったよ。今頃はどこかの山が消し飛んでいるかも? 後は、残りの五人で一人ずつ眠らせて、次の攻撃ができないようにした。連係プレイだね」

 王妃様の疑問に、顔を隠したまま小さな魔法使いがお道化るように説明した。

 悔しそうに唇を噛みしめる王妃様に、美女がずいっと前に出る。

「あんた、この国の王妃だったよね⁉ よくも会場に残っている全員を殺そうとしたね。ここにはあんたの家族もいるのに」

 そう言った美女の眼には、王族たちの姿が映る。


 険しい顔の国王陛下に、気絶したエリザベート様を抱えたオクモンド様、年少のオリファス様を抱きしめたオリアドル様。それぞれが今まさに自分たちを殺そうとした母親を見る。

「……攻撃はお前たちに向かって放ったもの。わたくしの後ろにいる者たちには影響はないわ」

「だったらこちらにいる貴族たちは死んでもいいっていうことなんだ。凄い、王妃様だね」

「ごちゃごちゃと煩いわね! 騎士たちよ、何をしているの? 早くこの者たちを捕まえなさい。わたくしに無礼を働いた上に、害そうとしているのよ」


 美女の言葉に、逆上した王妃様が騎士たちに命令する。

 だが誰一人、動こうとはしない。

 それもそうだろう。

 たった今、王妃様の口から長年にわたる国王陛下への裏切りを告白され、会場内にいる者を殺害しようとしたのだ。

 攻撃した方向には、残っている貴族の他に騎士たちもいる。

 自分たちを殺そうとした王妃様の命令など、誰が従うというのだ。

 それに騎士が忠誠を誓うのは国王陛下なのだ。

 主である国王陛下を差し置いて、王妃の言いなりになど決してならない。


 王妃様は微動だにしない騎士を見限り、今度は残っている盗賊たちに命令する。

「お金は報酬の倍払うわ、この者たちを捕まえなさい!」

「どこからそんな金を出す気だ?」

 するとそれまでジッと成り行きを見守っていた国王陛下が、王妃様を見据えていた。

 それは今まで見たことのない、深く暗い目をしたヨハン兄上だった。

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