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歴史に残る魔法使い

 王妃様の告白はどれも信じられないものばかりで、聞いている者は青ざめるしかなかった。

 その中でも一番信じられないことが、終戦の元になった魔法使いの話。

 戦地全てを灰にして回り、兄上と平和を約束した魔法使い。

 生まれ変わったことに気付いた俺は、ずっとそれがアレンなのではないかと疑っていた。

 違ったことにホッとしたと同時に、今その滅茶苦茶な力を持つ魔法使いとアレンは戦っている。

 アレンが絶対勝者だと信じていた俺は、一気に青ざめる。


 無事か、アレン⁉


 思わず駆け出しそうになった俺の手を、王妃様がグッと掴んだ。

「やはりお優しいセドリック様は姿形が変わっても、中身は変わらないのね。自分の身よりも魔法使いを優先する。男が惚れる男だったセドリック様が、こんな可愛い女の子になったのだもの。オークが惚れるのも無理ないわね」

 いきなり母親の表情をする王妃様に、目を奪われる。

 今の今まで人を利用してきた悪行を告白していた悪魔のような王妃様が、優しい聖母のような表情をするのだ。

 クロムもそうだったが、この変わりようは一体何なんだ?

 名前を呼ばれたオクモンド様は、先ほどまで怒りをあらわにしていたのが一転、泣きそうな表情になる。

 第三者の俺でも葛藤が凄いのに、親子であるオクモンド様には辛い状況だろう。


 アレンのことは気になるが、今どこで戦っているかもわからない最強の魔法使い同士の戦いを俺がどうこうできる訳でもないと、俺はアレンの無事を信じて目の前にいる王妃様から話の続きを聞き出すことにした。

「クロム、があの全てを灰にした魔法使いだとして、それが何で俺のためなんですか?」

 すると王妃様は察しが悪いわねと呆れながらも説明した。


「だから、貴方を殺した魔法使いと一緒なのよ。あの子も貴方に助けられた魔法使いなの。ずっと貴方に恩義を感じていたのね。ヨハシュトと同じように貴方が王族に殺されたことを話したら、プツッと何かが切れたみたい。そのまま姿を眩ませたかと思うと戦地を灰にして回り始めたわ」

 それがクロムの復讐方法だったのだと王妃様は告げた。

 俺が死んだことでアレンが暴走したのだと思っていたが、それがアレンではなくともやはり俺の所為でもたらされた悲劇であったことに変わりなかった。


 唇を噛み締める俺に、王妃様は愉悦に顔を緩め話しを続けた。

「けれど、たまに貴方を探しに城へ戻ってくるの。魂が抜けたように王宮をフラフラ歩くものだから、わたくしが匿ったわ。誰かに見つかったら大変ですものね。その時に少しだけ話をしたわ。セドリック様の話をね。わたくしクロムを応援したわ。全てを無にするのも面白いと思ったから。国内外に何もなくなれば戦争も平和も差別も平等も、何もありはしないもの。ヨハシュトの愛したセドリック様の妄想も、何もかもなくなればいい。そう思っていたのに、ヨハシュトはクロムに会いに行ってしまった」


 俺の手を掴んでいる手に、力がこもる。

「ヨハシュトはクロムに聞いたわ。どうすればお前は止まるのかと。その頃には戦争をする国もなくなっていたからね。ある意味いい潮時だったのかもしれない。ヨハシュトの言葉を聞いたクロムは、ふとセドリック様の言葉を思い出したみたい。だから言ったの。魔法使いの待遇を考えろと。その場に居た二人はセドリック様の思想を、実現しようと約束したわ。まるで自分たちの思想のように話しながら。でもあれって……」

 突然、グワッと俺の顔に顔を近付けてくる。


 ギョロリと睨まれた俺は、咄嗟のことに身動きができなかった。

 その瞳のまま、王妃様は口を開いた。

「セドリック様の思想なのよ」


 セディの死を知って、一人の男は王族を皆殺しにして、もう一人は戦地を全て灰にした。

 その二人が手を取り合う。

 差別のない平和な国にすると、未来の約束をして。


 それは全て俺の思想。

 セディの思想そのままに。


「どうしてわたくしが、夫の心を捕らえて離さない男の思想を実現しなくてはいけないの? わたくしは、そんなことをするために王妃になった訳ではないわ」

 ふんっと俺の手を乱暴に離す。

 俺は放り出された手をそのままに、王妃様を睨みつけた。


「だから公では国王陛下と仲の良い従順な王妃を演じて、裏では旧王族派を操って混乱させていたのですか?」

 俺の質問に、王妃様は半眼になる。

「どうしたって反対意見は出るものよ。それをまとめる意味でも反王族派が必要なの。その証拠にヨハシュトも、バトラード公爵にある程度好き勝手やらせることで国をまとめていたわ。彼だって公爵の地位にいた人間よ。全くの無能という訳ではないの」

「そうかもしれないけれど、その所為でいつまでも魔法使いの地位は上がらず、苦しんでいる人もいたはずです」

 俺がたまらず声を上げると、王妃様は持っていた扇を俺に投げつけた。

 長兄と次兄の声が重なる。

「「セリーヌ!」」

 その二人の行動を遮るように、王妃様は叫んだ。


「だから、お花畑は黙っていなさい! 貴方の思想はただの妄想。皆仲良くなんて国はどこにもないのよ。政にも携わったことのない王子が妄想吐き散らかして、人を巻き込んでんじゃないわよ。いい? 貴方は自覚しないといけないわ。貴方の妄想で、死ななくていい人間が死んだ。戦地を灰にしたのは貴方なのよ!」


 王妃様の言葉に俺は固まる。

 俺が……戦地を灰にして……関係のない人まで……殺した。


「待ってください! 先ほどからセドリックって、一体何なんですか⁉ セリーヌは私たちの妹です。王宮の問題とは関係ない!」

 ここで長兄がたまらず叫んだ。

「訳のわからない濡れ衣を着せる気ですか? セリーヌが王都に来たのは今回が初めてなのに」

 次兄も我慢できないと言う風に叫ぶ。

 だけど……ごめん、二人共。

 俺はそっと二人から離れる。

「セリーヌ?」

 二人がポカンと俺を見る。

 俺はへったくそな笑顔を向けると、二人に真実を告げる。


「今まで黙っててごめんなさい。私は国王陛下の弟、セドリック・フォーカス公爵の生まれ変わりなんです。彼の記憶が私の中にはある」

「は? 何を馬鹿なことを……」

「本当なんです。セディとして死ぬ際、アレンが私の魂を死んだ赤ん坊に入れたんです。だけどセディの記憶を取り戻したのは王都に来てから。領地では一切知らずに、セリーヌとして育ちました」

 俺の説明に次兄は口をあんぐりと開けたままで、長兄は俺をジッと見据えた。


「まあ、セドリック様が生きていたのはアーサーの力だったのね。やはりあの子は手放せない。エリザが懐柔できなかったのは、痛いわね」

 隣からそんなふざけた言葉が聞こえてきた。

 俺はジロリと声の主を睨む。

「あら、怖い顔。可愛い顔が台無しよ。ねえ、この際セドリック様の記憶があっても構わないわ。貴方わたくしに協力しない? アーサーを手に入れたいの」

 散々セディをお花畑だ何だと罵っておいて、今度は協力しろと言う。

 それもアレンを利用するために。


 先ほどからの告発を聞いていると、エリザベート様はかなり王妃様に洗脳されていたみたいだ。

 アレンに異常な執着を見せたのも、王妃様が欲しがっていたから。

 エリザベート様の数々の言葉は、この女に刷り込まれたのだろう。

 我が子までも利用する王妃様に反吐が出る。


 俺は半眼のまま、王妃様に問う。

「手に入れてどうする気ですか? 昔みたいに利用する気? 戦争の道具に戻す気ですか?」

「ホホホ、嫌だわ。そんなどうでもいい使い方なんてするものですか。あの子の力はクロムと互角。ああ、違うわ。クロムは魔力が増えるよう、ちょっといじくっているからね。その所為で情状不安定なのよ。ちゃんと話ができない時もあるの。その点アーサーは天然でしょう。命令を即座に理解して行動する玩具が欲しかったのよね」


 俺は王妃様の前に、足をダンッと踏み出した。

「ふっざけんな! クロムの力は人体実験したものだってのかよ。その所為で情状不安定って、あんな風にしたのはお前じゃないか。それにアレンを玩具だと⁉ ああ、ああ、もうあったまきた! お花畑大いに結構! 戦地を灰にして罪のない命を奪ったのは俺だよ。俺はそれを心に刻み込んで、くだらねえ妄想を吐いてやる。人類みな平等! 誰が何と言おうとアレンは絶対に渡さない。アレは未来永劫、俺のだ!」

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