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協力者の正体

 アレンの召喚に応じたのは十人の魔法使い。

 いきなり目の前に大勢の人間が現れたのだ。思わず叫びそうになったが、ここは敵地の真っただ中。いくら会場内が騒がしいと言っても、もしもこちらの声が聞こえたら一発アウトだ。

 アレンに慣れているとはいえ、不意を喰らえば声も出る。俺は必死で叫び声を飲み込んだ。

 長兄と次兄も同じようで口元を押さえている。

 そんな俺たちを見て、アレンが首を傾げた。

「防音魔法、かけてるけど」

 そう言うのは先に言えー!



 改めて見た魔法使いは全員、黒いローブに身を包み男か女かもわからなかった。

「とりあえずこれ以上呼んでも邪魔になるから、五人は貴族たちを守らせて、三人は騎士の解放、後の二人は僕と一緒に王族の救出。それでいい?」

 サラリとそう言うアレンに、次兄は目を開く。


「この騒動を、それだけの人数で収めることができるのですか?」

「一応、精鋭を集めた」

「あちらにも魔法使いがいるのでしょう。大丈夫ですか?」

 集まるだけ集めてくれと言った次兄に対して、アレンが招集したのはたったの十人。

 何度も確認する次兄の言葉には、不信感が募っていた。


 それに気が付いた一人の魔法使いが、目深に被っていたフードを取り去る。

「あのさあ、うちらの長が決めたことになんか文句がある訳?」

 俺はその素顔に、唖然とする。

 波打つ金髪に黒い肌の美女だったのだ。


「……この国の者、では、ないのか?」

 同じく唖然とする次兄がそう言うと、美女は露骨に顔を歪めた。

「魔法塔に集められた魔法使いは、長が自ら拾って来た者たちだよ。違う国の魔法使いだっているさ」

「……知らなかった」

「入居者に関しては僕に権限があるとはいえ、一応ヨハンの許可は得ているよ」

 第一王子の側近ともあろう者が王宮内に他国の者が住んでいたことを知らなかったと、どうやらショックを受けたようだ。


「だからあれほど魔法塔の情報を、もう少し詳しくもらうようにと、何度もオクモンド様に進言していたのに……」

 ブツブツと独り言を言い出す次兄に、美女がくわっと怒り出す。

「ちょっとあんた、さっきから何なのさ? あたしが居るのがそんなに気に食わない訳?」

「い、いや、違う。そういう訳ではないが一応、王族が住む王宮内に他国の者が住んでいるのならそれは把握しておかないと、私たちも立場上、問題が……」

 しどろもどろに答える次兄。


 美女が次兄の胸倉を掴みそうになったところで、長兄が二人の間に入った。

「すまない。こいつは第一王子の身を守る立場にあるから、どうしても周囲に気を配る必要があるんだ。弟に代わって謝罪する。ルドルフ、もう戦争は終わったんだ。他国の者が居ようとも、それを国王陛下が認めているのなら何の問題もない。外交のために訪れる者もいるし、何より自国の者であってもこのような騒動を起こすのだ。見た目で判断するな」

 次兄を庇いながらも宥める長兄。

 次兄は素直に「すみませんでした」と頭を下げた。


「あんた話がわかるね~。貴族にしたら珍しい」

 美女が機嫌よく口笛を吹く。

「俺は他国の者と仕事をすることもあるからな。王都の貴族とは考えが違う。それよりもアーサーが精鋭と言うくらいだ。君たちを頼ってもいいだろうか?」

 長兄に訊ねられた魔法使いたちは、全員コクリと頷いた。


「長が本気を出したら一人で終わらせてしまうだろうけど人質もいるようだし、できるだけ穏便に済ませたいなら俺たちを使った方がいい」

「だね。長がやったら部屋中がスッキリ綺麗になっちゃう」

「敵も味方も一網打尽」

「流石にそれは不味いだろう。王族もいることだし」

「いらない王族もいるんじゃない?」

「だから長にはいるかいらないかの分別はできないって。長が本気で必要だと思っている人間はいないんだから」

「いるよ。僕の婚約者、セリーヌ。僕の命よりも大事な人」

「!」


 いつの間にかワイワイとじゃれ合う魔法使いに唖然としていると、突然アレンが肩を抱き寄せ、俺の名前を口にした。

 魔法使いたちが一斉にこちらを向く。

 目深く被ったフードで表情はわからないが、明らかに驚いている様子だ。



「え? セリーヌって? え?」

「そういえば、サンが長が婚約したって言ってたけど、まさかこの子が?」

「あれって、冗談じゃなかったのか? 普通に可愛いんだけど」

「ええ、なんで? 長って女の子に、いや、人に興味があったの?」

「いや、待て待て待て。そんなことよりも……」

 困惑している魔法使いを押しのけて、一人の魔法使いがアレンに訊ねる。

「彼女だけは、ちゃんと区別ができるんですか? 他の人とは違うと?」

「もしもセリーヌに嫌な思いをさせたら、殺すよ」

 ニッコリと微笑みながら答えたアレンに、魔法使いたちが固まった。


「こーら、アレン。冗談でも殺すとか言わない。えっと、セリーヌ・コンウェルです。改めて、よろしくお願いします」

 そんな空気を壊すように俺は肩を組むアレンの頭をペシリと叩いて、魔法使いたちに挨拶をした。

 今はこんなことしてる場合じゃないんだけど、初対面だしアレンの仲間だし今から盗賊を捕らえるのに世話になるんだし挨拶は大事だしと、俺は目いっぱい愛想良く笑う。

 だがそんな俺に、魔法使いたちはめっちゃ引いていた。

 後ろの茂みに何人かめり込むぐらい……。


「う、嘘。今、長の頭を殴った⁉」

「え、長がキレない? どうして?」

「殺すと言った長の言葉を冗談にしてる?」

 ビクビクと震えながらそんなことを話す魔法使いたちを見て、俺はアレンにジト目を向ける。


「アレン、普段どんな態度をとっているの?」

「別に。いつもと一緒だよ」

「私の前とは違うよね?」

「当たり前でしょう。セリーヌとそれ以外の人が同じはずない」

「いや、同じにして。怖いから」

「……努力はする」

 そう言って、そっぽを向くアレンに溜息を吐く。

 そんな俺たちの姿にも、魔法使いたちは驚いている。

 本当に俺の知らないアレンはどんな奴なんだろう? 

 聞くのがちょっとだけ、怖い。



「話を元に戻してもいいかな? とりあえずこの現状を回避しないといけない。アーサーの言った通り分担して動くとして、まずは国王陛下と王族の身の安全を……」

 長兄が話がそれたと無理矢理戻して、これからの対策を話し合おうとした瞬間、会場の大扉が開かれた。

 そこに現れたのは数人の盗賊たちと、エリザベート様。

 そしてスフェラン侯爵に、娘のローラ・スフェランだった。


 怪しい奴らの姿絵を見せられた時、お茶会に誘ってきた親と娘の姿絵を見せられたので、その時の二人だと記憶していた俺は、すぐに身元がわかった。

 ツカツカと王族たちの元に歩いて来る彼女たちは、盗賊に囲まれているというのに誰一人として怯えてはいなかった。

 その姿に王族たちの眉間に皺が寄る。

 エリザベート様たちは、彼らに連行されて無理矢理連れて来られたのではない。

 堂々と盗賊たちを従えて入って来たのだ。


「エリザ、その姿はどういうことか説明しろ!」

「スフェラン侯爵、君たちは一体……」

 オクモンド様がいち早く現状に気が付き、エリザベート様を怒鳴る。

 そうして国王陛下がエリザベート様と一緒にいる侯爵に目を剥く。

 王妃様と弟王子様たちは言葉も出ないようだ。

「どうもこうも、お兄様が悪いのよ。私を部屋に閉じ込めるから。あのまま会場に私が残っていたら、こんな風に無理矢理この者たちが乱入することはなかったのに」

 肩をすくめるエリザベート様に、オクモンド様の眉間の皺が深くなる。


 そんなオクモンド様を見ながら口角を上げるエリザベート様に、〔闇夜の蛇尾〕の協力者が彼女だったことを漠然と理解した。

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