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魔法塔の魔法使い

 長兄と次兄、アレンと共に会場に近付くと、大きな物音と共に大勢の悲鳴が聞こえてきた。

 だが廊下には人の気配はなく、会場内の扉は全て閉まっている。

 俺たちは外に回り、窓から中の様子を探る。


 幾つか窓が割られており、そこから会場内の声が聞こえてきた。

「いやあー、あなた、あなたぁー」

「お願い、助けて」

「金ならいくらでもやるから、ここから出してくれ」

「嫌よ、触らないで」

 泣き声に紛れながら、懇願する声も聞こえる。


 窓から覗き込むと、中央にある前国王が贅を尽くして作った大きなシャンデリアが、地面に落ちて粉々に割れていた。

 幸い、その下に人はいなかったようで、シャンデリアに潰されている人はいなかった。

 けれどその周辺には、この場にそぐわない下卑た男たちが剣やナイフのような武器を手に、貴族たちを後方に集め包囲していた。


 数でいえば貴族の方が圧倒的に多いだろう。

 だが、戦闘に縁のない貴族たちでは何の力にもなれない。

 それところが蹲り泣き叫んで簡単に人質となり、果敢に狼藉者を相手にしていた騎士たちの足枷になっていた。

 あっという間に一か所に集められた騎士たちが男たちの指示の元、剣を放り出す。

 無抵抗の騎士が暴行され、貴族の前に放り出される。

 悲鳴が上がる中、ゲラゲラと下品な笑い声をあげる男たち。

 惨劇が繰り返される後方から、視線を前方へと向ける。



 王座があった場所に、王族が囲い込まれていた。

 オクモンド様が家族を背に庇っている。

 王族を守ろうと騎士が四人、男たちと睨み合いながらもどうにか剣を構えていた。

 いざとなったら後方の貴族の安否よりも、王族の命を優先して戦わなければいけない。


 じりじりと距離を詰める男たちに、緊張が走る。

 そこに不潔な男たちを掻き分けて、明らかに周囲の男たちとは違う出で立ちの男が王族たちの前に進み出た。

「ああ、煩いですね。申し訳ありませんが、あまり騒がないでくれます? 国王陛下とお話ができないではありませんか」

 しらっとそんなことを言って眼鏡をクイッと上げる男は、俺の見知った奴。

 〔闇夜の蛇尾〕のお頭がそこに居た。


「お前たちは何者だ? 何故こんなことをする?」

「嫌ですね。私たちの正体なんて、もうご存知でしょう⁉ 何故こんなことをするか? そんなもの、今のこの国を憂いているからに決まっているではありませんか」

「憂いている? 戦争をやめて平和になったこの国の、何を心配する必要がある?」

「心配しかありませんね。戦争をやめて奴隷である魔法使いの言いなりになる国王を、誰が尊敬するというのですか?」

「魔法使いは奴隷ではない!」

「奴隷でなければ、道具とでも言いましょうか? あれらは、ただの兵器。戦争兵器だったはずです」

「ふざけるな! そんな考えがこの国を疲弊させていたのが、わからないのか?」

「わかりませんね。私は潤っていた。貴方が国王になる前は、私は裕福な貴族の一員で、全てを手にしていたのです。それを貴方と魔法使いが奪った。貴方は平和という甘い言葉を餌に国民を操ったのです」


 どうやらお頭は、元貴族だったようだ。

 どうりで現在の怪しい貴族の姿絵を探しても、見つからなったはずだ。

 見落とした訳ではなかったことに少しだけホッとする。

 しかし、国王陛下と奴の話を聞いていると奴は旧王族派で、昔はかなり甘い汁を吸って生きていたようだ。

 それがあの終戦で没落でもしたのか貴族ではなくなり、その恨みで今回のことを引き起こした。

 するとこの騒動の首謀者は、お頭ということか?

 ……それは、なんだか釈然としない。

 通常より警備の厳しい宴が開かれている王宮で、これほどの人数が踏み込み騒ぎを起こすとは、いくら奴が元貴族であったとしても独断で、できるだろうか?

 協力者が他にいるのでは?

 俺は会場内にいる奴の子分を、一人ずつ見ていった。


 七・八十人はいるであろう盗賊が、貴族に刃物を向けている。

 あの森でかなりの数の盗賊を捕らえたというのに、まだこんなにも仲間がいたなんて……。

 〔闇夜の蛇尾〕の組織力には恐れ入る。


 そこでふと、違和感に気付く。

 屈強な男たちが尊大な態度をとっている中、小柄な人物が三人ほど仲間に肩を組まれているのだ。

 そしてその小柄な人物は全員、身を縮めて震えているように見える。

 まるで彼らも捕らえられているかのような姿に、眉を寄せる。

 ジッとその姿を見つめていると、小柄な人物が汚いズタボロのマントの中に杖を持っているのが見えた。

 ハッとして他の小柄な二人も見ると、彼らもまたマントの中に杖を隠し持っている。


 通常の魔法使いは杖などなくても詠唱で魔法が使える。

 杖を持っているのは、王侯貴族に改良された魔法使いだ。

 その昔、一般の民を魔法使いへと変えるための研究が行われていた。

 魔法使いを人体実験し、その魔力の源を調べつくした。

 その結果、その者の中にある魔力を最大限まで引き上げるための道具が作られた。

 それが今、目の前の彼らが持つ杖であったのだが、あれは魔力を奪いきるもので、そのまま使い続けたら命まで奪い尽くされる。



 俺は隣にいるアレンに視線を向けた。

「アレン、あの三人、魔法使いだよね?」

「そうだね。盗賊の仲間、というよりは無理矢理従わされているようだ」

 やはりアレンは、彼らが改良された魔法使いだということに気が付いていた。

「あれほど奴隷だ、道具だと言っているのだから仲間であるはずはないな。けれど彼らに何をさせたのだろう?」

 隣で俺たちの会話を聞いていた長兄が、疑問を口に乗せる。


「多分、侵入する際に気付かれないよう協力させたんじゃないかな。後はあの、無駄にデカいシャンデリアを落としたのも、そうだと思う」

 シャンデリアはともかくとして、誰にも侵入を気付かせない魔法となると、かなりの魔力が必要だろう。

 アレンでも音が響くまでこの騒動に気付かなかったのだから、それは相当なものだ。

 三人いるとはいえ、あの小柄な体で大丈夫なのかと心配になる。


「じゃあ、厳重な城に入り込めたのも彼らの仕業なのかな?」

「それは、どうかな?」

「ん?」


 俺の疑問に、今度は首を傾げるアレン。

 アレンの説明では、気配を消すのは以前、魔物の森で使った術式を応用して盗賊全員を包むようにかければ広範囲で、しかもかなりの魔力を消耗するが可能だということ。

 けれど王宮には、魔法塔の魔法使いが結界を張っている。

 気配を消すだけでは、結界は突破できない。

 一部分でも、誰かが内部から結界を壊すしかないのだ。

 怪しまれずに城に自由に出入りできる人物が……。


「待ってください。それって、内部に盗賊の侵入を手引きした者がいるってことですか?」

「そうとしか考えられないね」

 次兄の焦りに、冷静に答えるアレン。

 先ほど俺も考えた協力者の存在。

 〔闇夜の蛇尾〕は、主に貴族の依頼を引き受けている。

 貴族の協力者がいても、おかしくはないか。


 俺はアレンの耳元にそっと囁く。

「アレン、俺の剣をくれないか」

「あまり使ってほしくはないんだけど……」

「丸腰よりはいいだろう?」

 一瞬、嫌そうな顔をしたアレンだが、何かあるかわからない今の状況で丸腰は危ないと判断したようで、溜息を吐きながらも姿を消した。

 いきなり転移魔法を使ったアレンに驚く兄二人に俺から説明をして、すぐに戻って来たアレンから兄二人にも剣が渡される。

 久しぶりに握ったセディの剣は、セリーヌの体にはやはり大きいが、振り回せないこともない。

 俺はギュッと剣を握りしめた。


 同じように剣を握りしめた次兄が提案する。

「貴族が人質にとられている以上、何人騎士が駆け付けてもこの状況が覆ることはないでしょう。アーサー殿、魔法使いを招集できますか?」

「何人いる?」

「怪我人もいるようなので、、集まるだけ集めてくれると助かります」

「わかった」

 アレンが何かを呟くと、突然目の前に十人の魔法使いが現れた。

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