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その日の晩餐2

「確かに最初のうちは、キミの言うように高ランクの依頼はウチに来ることが多かった。でもね、高価な魔道具やポーション、魔剣や上質な刀剣を所持したCランク冒険者レベルの多人数の集団なら、Aランクのパーティがやっと相手できるドラゴンでも討伐することは可能なんだよ....そうすると、どうなると思う。」


言わずとも理解して貰えたことを悟った彼女は、辛かった過去を思い出すように、少し怒りを押し殺しながら説明を続けてくれた。


「低ランクの依頼がないから、新人や若手の冒険者は顔を出さない、高ランクの依頼も無くなったから、仕事の無くなったベテランもこのギルド本部にいる必要はない。しかも、更に悪いことに仕事を失ったベテラン達を、ホスト倶楽部や貴族倶楽部のオーナーは、店の警備を目的としたスタッフとしてスカウトしたんだよ。生命のリスクもない、美人に囲まれた環境は、ベテラン達にも魅力だったらしくてね、数人を残してそれを受け入れてしまった。残った冒険者もその世話をしていたスタッフも仕事を求めて王都を去ったり、支部へと移動していき、残ったのは、本部長の私とこの建物だけになってしまった。ここ数年、この建物を訪れるのはキミのような世間知らずの地方から出てきた冒険者と、借金取り、ぐらいかな。」


ユメフィリアは、そう言って寂しそうに笑った。


「上位ランクの冒険者の認定は、本部で行うんじゃないんですか?」


「三年前から、支部長達が依頼の実績もないのにランクの認定だけ本部で行うのはおかしいと言い出してね、私は全く反論できなかったよ。それ以後はブーストされた集団での戦闘であっても、高ランクな魔物を倒したという実績の積み重ねを理由に、彼ら達は次々とランクが上がり、今ではあれらの倶楽部にはかなりの数のAランク冒険者が所属してるんじゃないかな。」


「ギルドの会合とかはどうしてるんですか?」


「私の代わりに、本部長代理として東支部長が出席しているよ。私には日程さえ伝えられていない。」


余りにも寂しそうなユメフィリアさんの表情に、僕は何かお祝いごとがあった時に食べようと思っていたチョコレートパフェを保管庫から取り出し、少し長めのスプーンを添えて、そっと彼女の前に置いた。


それに気づいたユメフィリアさんは、見たこともないデザートに目を丸くして僕を見つめた。


「これは僕をギルド本部職員に採用してくれたお礼です。これまで僕が食べてきたデザートでもトップクラスの美味しさです。是非味わってみて下さい。」


そう言われた彼女は、おそるおそるそれを手に取り、スプーンでクリームを掬うと口に入れた。


「ウッ!」


そのまま、彼女は先程と同じような頭の痛くなる失敗を繰り返さないよう気をつけながら、ゆっくりと涙を流しながら完食した。


ーーーー

「明日からの勤務は、先ずは私の居住フロアの改修工事(リフォーム)になるからその時の格好はどうでも良いけど、何か足りないものがあって外に出る時は、これを着用してほしいな。」


そう言って、先程下から持ってきた制服を提示した。それは、黒を基調としてレースを多用した、少しクラシック調の裾がふんわり開いたワンピースで白いエプロンがセットになっており、それを後ろでリボンのように結ぶ仕様となっていた。それはどう見ても、とても若い女の子が喜んで着用するようなデザインだった。


「こ、これは?」


「これはね、ハーフリングの女性の為に準備してあった制服なんだけど、現実には対象になるような女の子がいなくてね、お蔵入りしていたものなんだ。でもね、きっとカイト君にはね、この服がとても良く似合うと思うんだ。」


そう言われて僕は、もう一度自分の姿を思い返してみた。


身長百四十センチ、長い蒼銀の混じった細くて長いストレートの白い髪、色白の肌に、ツンと尖った小さな鼻と、薄いピンク色の小さな口、蒼と金色のオッドアイ....


これ以上似合う女の子はいないんじゃないかと思うくらいにぴったりな存在であることに気づき、僕はガックリと肩を下ろした。


「仕方ありませんね。納得して受け入れます。」


制服と一緒に渡された名札に、名前を刻むことになったが、カイトでは辺境の冒険者に気づかれる可能性があると判断した僕は、女性としてもおかしくないであろうカイナという名前を刻んだ。


さっそく来てみてと急かされた僕は部屋へと戻り、居間へと戻ってくると、感動したユメフィリアが、両手を合わせてポロポロ涙を流し始めた。そして、ポケットから白いレースの付いた黒いカチューシャを取り出した。


「良かったら、このカチューシャも付けてみてくれる?」


僕は全てを諦めて、それを手に取り着用した。


すると、彼女の頬は長い耳まで紅潮し、僕を潤んだ目で見つめ続けた。


「ユメフィリアさん、感動しているところ申し訳ないのですが、ここまでしたのですから、歓楽街に視察に行きませんか?」


「えっ?でも、例えユメヤの姿になっても、ギルマスの私は身バレしてしまうわよ。」


僕はマジックポーチの中から、一つの指輪を取り出した。


「これを身につけてみてください。」


言われるままにユメフィリアが、その指輪を右手中指に嵌めるとその全身が虹色に輝き、その輝きが収まった後には、百六十センチ程の背で、長いストレートのプラチナブロンド髪を持った、翡翠色の目をした、十八歳くらいのスラリとした女性が立っていた。


そして、彼女は自分の姿を確認するやいなや、急いで部屋を飛び出し階段を駆け降りていった。


小一時間ほどの時間が過ぎ、もう今日は行かないのかなと僕が考えていると、玄関がバタンと開け放たれ、僕とお揃いの制服とユフィと書かれた名札を付けたユメフィリアさんが立っており、驚きで固まる僕の左手を掴むと、そのまま階段へと連れて行かれた。

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