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アフタヌーンティスタンド

僕が一通りの説明を終えた頃には、太陽がかなり高く昇っており、少し暑くなってきていたので、僕らは居間へと移動して、更に話を続けることになった。


アフタヌーンティースタンドに、たくさんの小ぶりのケーキや、クッキー、ゼリーなどのデザートを並べ、大きめに焼いたパンの中をくり抜き、中に小さなサンドイッチを並べたものを、テーブルの真ん中に置いた。


その隣にはフルーツの皮を向きを切り揃えたものを並べ、飲み物には温かい紅茶と冷たいアイスティを並べて支度を終えると、第二部の報告会が始まった。


「このサンドイッチは、見た目も素晴らしいし、ハムと魚かな?チーズとこれはなんだろうねぇ、こんなの食べたことないなぁ、むちゃくちゃ美味しいねぇ。」


「このサンドイッチも、例の建物で見つけた雑誌の絵を参考にしてるんですよ。」


「なぁ〜にぃ!」


僕のコピー能力に感心していたユメフィリアが、何か閃いたように上目遣いで僕をジロっと見たことで、どうやら僕の隠している秘密に気づかれたとを推察して、追求される前に自ら明かすことにした。


僕は前髪を右手で持ち上げて、両眼がユメフィリアにしっかり確認できるようにすると、隠蔽の魔法を解いた。


「やはり魔眼か!この色と輝きは鑑定眼に似ているが、より深い蒼色をしている......正体を教えてくれても良いかい?」


「僕の蒼い右眼は、仰られたように鑑定の能力を持っていますが、解析の神眼という鑑定眼の一つ上の魔眼です。鑑定するだけでなくそれを分析してそのものの本質を識ることのできる眼です。そして....」


「....そして?もしかして左眼も魔眼なのかい?」


「はい....この金色の眼は、未来視の能力を持っています。そして、右眼で解析して、未来視を併用しながら対象の再現を試みると、その結果を錬成する前に知ることができるんです。錬成の失敗は殆どありませんので、材料や時間を無駄にすることがなくなります。」


「では、このサンドイッチもそうやって作ったのかな?」


「いえ、それらは殆ど右眼だけで解決可能です。何がどのように使用されているかとかが簡単に判りますし、その素材の調理過程も容易に理解することができますので。この程度ならば実物さえあれば、どんなものでも再現できます。」


その言葉を聞いたユメフィリアは、呆気にとられたように口をあんぐりと開けたまま固まっていた。


「ただ、この建物にあった物は、その殆どが電気というもので動きます。この電気というものを生み出すことがなかなか難しいんです。」


「電気?それはいったいどういう物なんだい?」


聞いたこともない言葉に、興味津々という表情で尋ねたが、彼女がこの時の判断が誤りであったことに気づくのにあまり時間は必要としなかった。


「電気はこちらの世界で言えば、一番近いのは雷魔法だと思います。雷撃を絶えず一定のレベルで流し続けることができれば、似たような結果は得られると思うのですが、そんなに甘くはないようです。」


雷魔法の使い手が非常に少ないことを考えると、もし魔法を電気に変えることができたとしても、それを安定的に供給するなど不可能だと考えるのは当然のことだった。


「この建物の存在した世界には、魔法が存在せず、魔素そのものさえ存在していない可能性が高いです。本だけをまとめた階層で見つけた書物に魔法について触れたものもありましたが、どれも誤った概念ばかりを述べており、娯楽雑誌に描かれている魔法は、その構成が余りにも幼稚なものばかりでした。おそらくあちらの世界では、魔法は架空の存在として扱われていたようです。」


口の中が乾いたのか、ユメフィリアはアイスティを一気に飲み干し、お皿に盛られた果物を幾つか口にすると大きな溜め息をついた。


僕は魔道具に再現したミキサーを保管庫から取り出すと、そこに氷と果物といくらかの砂糖を加えて撹拌して、自分の棚から取り出したバカラという名前のグラスに注いだ。


身体を乗り出すように見つめていた彼女にも、細かな細工が施されたグラスに同じものを注いで差し出した。


「多分、フローズンドリンクと呼ばれている飲み物だと思うのですが、正式名称は不明です。でも、美味しくて冷たいんで、僕は気に入ってます。」


おそるおそるグラスに口をつけたユメフィリアは、よほど気に入ったのか一気に飲み干してしまった。


「あっ、そんなに急に飲んじゃうと、頭が....」


僕がその言葉を言い終わらぬ前に、彼女は頭を抱えて蹲ってしまった。


「冷たいものを急に大量に取ると、頭が痛くなるらしいです。」


「それも見つけた書物から得た知識かい?」


「えぇ、他にも人間や動物、虫や植物から自然現象に至るまで、ありとあらゆるものの原理が解析されていましたから、面白くて一気にそれらを読み終えた後は、僕の元素魔法や回復魔法への理解がかなり深まり、それぞれの魔法の位階が数段上昇しましたから、書かれていることに間違いはなかったのだと思います。


「それ程か....」


疲れ切った顔のユメフィリアは、重くなった身体を思いっきり椅子に預けながら、その視線は宙に向いていた。その上の空の彼女の注意が戻るように、僕は実例をあげて説明を続けることにして、彼女の前に水を入れた金属製のグラスを置いた。


「ここに容れてある水は、熱を加えるとどうなりますか?」


こいつ何を言ってるんだ、バカにしているのか?というような顔をしながら、それでも律儀に答えを返してくれた。


「加熱した場所から、気体に変わって空へと消えていくんだろ。」


「そうです。では冷やすとどうなりますか?」


「今度は液体を維持することができずに固まって氷になるんだろ。キミは私をバカにしているのか?」


少し眉を上げて怒り始めた彼女に、僕は更に説明を続けた。


「じゃあ、どうして液体になったり固体になったりするのでしょうか?」


「熱いから湯気になり、冷たいから氷になる。自然を観察していても当たり前のことだろ。」


「どうして熱かったら湯気になり、冷たかったら氷になるのか説明できますか?」


「それが自然の摂理だろ。」


もはや怒鳴り声に近い彼女の言葉にも、僕は冷静に説明を続けた。


「彼らは、その自然の摂理を究明していったのです。」


「それは神への冒涜ではないのか?」


「もし、神がそれを望まないのであれば、鑑定眼とか解析眼を人に与えることはなかったと思います。」


僕の言葉に、ユメフィリアさんは黙り込んでしまった。


「説明を続けますね。世の中の物質は原子とか分子という、目には見えないほど小さな物質が集合してできているらしいです。簡単に判りやすく説明すると、それらがエネルギーを持つことで、動き回ったり引っ付いたりすると説明されていました。では、何も無いように見えるこの空気の中にも見えないほど小さな水があると考えると、そのエネルギーを奪ってあげれば、それらは固まって液体の水になるはずです。」


そう言って僕が魔力を操作すると、目の前に一メートル程の大きさの水球が出現し、それは僕が魔力を止めるまでその大きさをどんどん増していき、最終的には径三十メートル程の水球になり宙に浮かんだ。


ユメフィリアさんは、あまりの大きさに呆けた顔を見せたが、僕がその水球から更にエネルギーを奪って氷の塊に変えた時点で、腰を抜かしたように座り込んでしまった。


「僕はこれだけの水球を生み出すのに、精々ウォーターボール一回分の魔力しか使用していません。原理を識るということは、魔力を無駄なく使えることに繋がり、同じ魔力であってもこれだけの差が生まれると言うことです。」


ユメフィリアさんは、僕の説明を聞いて絶句したまま固まっていた。


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