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エデルの園応接室にて

「どうしてこうなった?」


僕が応接室に銀座倶楽部のメンバーを迎えると同時に、彼、彼女らの口から飛び出してきたのは、ここに引っ越しさせてほしいという言葉だった。


「事情はあとで聞かせて頂くとして、ご要件をお聞かせ願いますか?」


そう尋ねる僕以外には、この部屋には妹のミレイラが同席していた。


その僕の言葉を待っていたかのように、ヤマハが質問を連発した。


「どうして、ここには俺の暮らしていた世界の物が溢れているんだ。お前は俺と同じ転生者なのか?電気なんて存在しないはずなのに、どうして家電が普通に動いているんだ?お前はいったい何歳なんだ?見かけはガキだが、本当は信じられないほどのババアじゃないのか?ここには俺の暮らしていた世界の物を手に入れる為の手段があるのか?....」


「落ち着いて下さい。全てをお答えしますから。」


あまりの興奮と質問の連発に圧倒されて、僕は一歩引いてしまった。ヤマハも立ち上がろうとするのを、仲間のパーティメンバーに引き止められていた。


「まずは、僕は稀人ではありません。ご期待に沿えなくて申し訳ありません。」


僕のその言葉に、期待が外れたかのように、ヤマハも少し落ち着きを取り戻したようでソファに腰を落ち着けた。


「じゃあ、どうしてお前は俺の世界のことに詳しいんだ。どうして俺の世界の文明の利器を扱うことができるんだ?」


「守秘義務が発生しますが、ここで他言を禁ずる契約を交わして頂けるなら説明させて頂きますが、どうしますか?契約違反はかなりのリスクを背負うことになりますが....」


「俺はもちろん契約する。ただしパーティメンバーは、仲間の意思に委ねたい。それは可能か?」


「可能です。ここで暮らしている子供達も契約済みですから、安全は保証します。」


そう言われたメンバーの反応は、即決即断だった。


「その契約するということが、ここで暮らす前提と言うことよね。絶対に契約するわ。」


「「「私も!」」」


ということで、直ちに魔法契約が施行され、僕は次の説明に入った。


「僕は三年前に、魔の森の奥深くで異世界転移穴(ワープホール)の事象に遭遇しました。目の前に突然この建物の十倍以上もある建築物が出現したのです。この世界には、時に異世界より人や物が転移してきますので、それの大規模な事象と考えた僕は、救助が必要な者がいれば救う必要があると判断し、即座に侵入を決めましたが、内部に生命反応は全く無く、物だけが転移してきたものと考えることができました。僕が侵入した場所には食品が溢れており、このままでは全て腐り処理が必要になると判断し、その建物全てを僕の空間庫に収納しました。この前、ホスト倶楽部に持っていったケーキやツリーもその時に手に入れた物です。」


そこまで静かに聞いたヤマハが絶句した。


「お前さ、それってどこかの巨大商業施設おそらくはデパートか何かだろ。それ丸ごとって、お前の空間庫どのくらいの容量があるんだよ。」


まぁ聞かれるだろうなと思っていた僕は素直に答えることにした。


「おそらくは、無限だと思います。場所を区切れば時間操作も可能です。見て頂いた方が早いと思いますので、少し良いですか?」


そう説明して、僕は立ち上がり壁に三つのドアを出現させた。


「端から順番に開けてみてください。」


言われた銀座倶楽部のユリアさんが、一番近い扉を開くと、そこには真ん中に一本道が通り、右側に水田が、左側に小麦畑が見渡すことのできぬほど広がっていた。


「奥に行けば、その他のいろいろな野菜が栽培されています。ちなみに時間経過は通常で設定していますが、早めれば成長促進させることも可能だと思います。」


そのままユリアさんは固まった。


そしてナユさんが自分の目の前の扉を開けると、そこは見渡す限りの草原で、そこには多くの牛や馬、豚や鶏が自由闊歩していた。


「ここでは、牛からは肉や牛乳を採取し、馬は騎乗用に育成しています。豚は主に肉として利用し、鶏は卵や肉に活用しています。」


その僕の説明に、銀河倶楽部のメンバーは、あんぐりと口を開け、ナユさんは静かに扉を閉めた。


三番目の扉は、ヤマハが開いたが、そこには真っ黒な闇が広がっていた。


「ここだけは痛むと困るので、時間を停止しています。この中で活動するためには、僕に触れている必要があります。そうでなければ入った人間の時間も停止してしまいます。」


そう言って、真っ暗な空間に僕が無数の光球を展開して中を照らすと、そこには多くの食品売場が展開されているのが確認できた。


「....新宿高〇屋、俺がよく利用していたデパートだ....」


今度は僕が驚く番だった。


「ここを御存知なんですか?」


「あぁ、俺が常用していたデパート、大型商業施設だ。間違いない。入ってる店の全てがそうではないが、かなりの店は俺の知っている店だ。その巨大な建築物が消失したなら、半端ないニュースになっていただろうから、俺が死んでから後のことだろうな。実際、俺が通ってた頃には、キル 〇ェ ボンは高〇屋には無かったからな。」


彼は懐かしそうに照らされていた店を見ていたが、ふと思い出したように僕に一つの提案をした。


「俺がお気に入りの弁当屋があるんだが、そこまで連れて行って貰えるだろうか?」


「えぇ、良いですよ。」


そう答えて、僕は彼と手を繋いで食品売り場を歩き、一つのお店から並んでいたお弁当を一つずつ持って帰ってきた。


「まだ温かいな。中にいる時はそんな感じは無かったのに、外に出すと時間が動き出すから、本来の温度に戻るのか。食べて良いか?」


僕が頷くと、彼は弁当の蓋を開けると、何も言葉にすることなく、黙々と涙を流しながら、その弁当を米粒一つ残らず綺麗に食べ終えた。


余韻に浸っているように見えた彼が、名残り惜しそうに残った弁当を見つめているのに気づいた僕は、黙って残った弁当を差し出した。


「良いのか?」


僕は黙って頷くと、かれの手にした弁当が消えた。おそらくは空間庫のスキルを使用したのだと理解した。


その後、ミレイラの淹れてくれたミルクティと提供されたヨック〇ックというお菓子に皆が目を見張り、その余韻に浸りながら応接室に落ち着きが広がったのを見計らって、僕は言葉をかけた。


「皆さん、ここに引っ越してきたいという思いに変わりはありませんか?」


全員が揃って大きく頷いた。

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