ホスト倶楽部応接室にて
二人が出ていくと同時に、銀河倶楽部の他のメンバー、エリスとトモカの二人が部屋の中へと入ってきた。
「わぁ、何これ?見たこと木だけど、手触り良くな....これ人工物じゃないの?飾ってあるものも綺麗な箱やら、人形やら、ガラス製のおもちゃなんかまであって、かなり高級そうだよね。どこかの貴族からのプレゼント?あれ?この黒い箱何かしら?」
そう言って、トモカが箱を調べていると、偶然スイッチに触れてしまったらしく、ガラスの飾りが様々な色に輝き始め、突然部屋には音楽が流れ始めた。
「....クリスマス・キャロルまで....いったい何者なんだ....」
「ヤマハは、この歌のことを知っているの?」
「....あぁ、知ってるよ。『もろびとこぞりて』が俺の国での曲名だったが、原題は『Joy To The World,The Lord is Come』、『世界よ喜べ、主が来た』という意味だ。この曲とあの子の存在が一致しないから戸惑っている....あの子は神の使いか何かか?」
と言いながらも、俺はクリスマスツリーから目が離せなかった。あの頃は毎年当たり前のように見ていたのに、随分久しぶりに見たような気がして、胸の奥をギュッと握りしめられたような気がしていた。
「こっちの箱は何かしら?....うわぁ!」
と、涙している俺に気を使って、ナユが箱を開けると、そこには星型のタルト生地にクリームがたっぷりと盛られ、その上に大粒の苺とラズベリー、ブルーベリーがバランスよく綺麗に盛り付けられ、上からパウダーシュガーをこれでもかと振りかけられているケーキがあった。
間違いなく俺達ホストが好んで利用したキル 〇ェ ボンのクリスマスケーキだった。
「みんな、明日は俺に時間をくれないか?元冒険者ギルド本部、エルデの園に乗り込む。」
それを聞いたユリアの顔が真っ青になって叫んだ。
「ヤマハ、それはまずい。あいつは化け物だ。」
「知ってるよ。俺が百人いてもあいつには敵わない。でも放置もできない。あいつは俺の前世と関わりがある。それが何なのかは全く判らないが、聞きたい。もっと話がしたい。」
「戦うってことではないのね。」
「あぁ、俺も命が大事だ。」
「それなら良いわ、私は付いて行く。ヤマハを一人になんかさせない。」
「何一人でカッコつけてんのよ。私達三人も一緒よ。判ってんでしょ。」
そう言って、四人は手を取り合って涙を流しながら笑顔を浮かべていた。こんなことは久しぶりだった。
「さぁ、景気づけに、あいつの持ってきたケーキ食べるか。これはむちゃくちゃ上手いぞ。エリス、最高級の紅茶を淹れてくれ。これはそれでも物足りないかもしれない。」
そして、みんなでそのケーキを食べて、わずか一口で全員が悶絶した。
「ヤバい!やっぱり日本は最高だった。」
涙が止まらず、手も止まらない中で、どうにか俺はそれだけを呟くことができていた。
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「ねぇねぇ、今日も何か美味しいものご馳走してくれるのかな?私はあれから興奮して寝れなかったんだけど。」
「私もよ、あんな美味しいお菓子食べたことなかったもの。イヤでも期待が膨らむわ。」
「ちょっと待ってくれるかな、でもね私達の目の前にあるのは、閑古鳥がこれでもかと鳴いていた元冒険者ギルド本部よ。あんまり期待し過ぎると反動大きいわよ。」
「それもそうよね。でもね、私は銀河倶楽部のメンバーだけで活動できるのは、ホントに久しぶりだから、それが一番嬉しいかもしれない。」
「それは言えたよね。下手したら一年ぶりぐらいじゃない?」
そんな和気藹々とした会話ものんびりとした雰囲気も、建物の扉の前に立ち、ヤマハが玄関ドアをノックする時には綺麗に霧散した。
ドアノッカーを鳴らし、その前に立って待っていると、中から昨日とは違うであろう少女の声が聞こえてきた。
「どちら様でしょうか?」
「先日、こちらのカイナ様とユフィ様がご来訪した際に、ぜひ一度私達パーティで訪問してほしいとのご依頼があり、早速お邪魔した次第です。ヤマハと申します。」
「あっ、伺っております。今開けに参りますので、もう暫くお待ち下さい。」
ガチャっと音がして、開かれた扉の向こう側には、マゼンダ色のクルクル巻き毛に緋色の目をした十歳くらいのメイド服に白いエプロンをつけた女の子が立っており、その後ろには十人ほどの三歳から五歳くらいの子供達が、彼女の後ろから覗き込むようにこちらを観察していた。
「ようこそおいで下さりました。賑やか過ぎて、ご迷惑をおかけすると思いますが、お入りください。」
その言葉に従って中へ入ると、彼女の後ろにいた子供達は蜘蛛の子を散らすように離れていき、柱の陰や家具の後ろから、俺達を観察しているのが判った。
「なんか可愛いわね。」
「ホントよね。孤児だって聞いてたから、失礼だけど、みんな少し汚れてたりしないのかなって思ってたけど、どの子も貴族の子供よりキレイにしてるわよね。」
「髪の毛なんか、私よりもフワフワで良い匂いしてたわよ。」
そんな私達の話しを聞いていたのか、案内してくれていた少女が俺達の疑問に答えてくれた。
「毎日お風呂に入っていますし、ボディソープ、リンスインシャンプーなんかも使い放題ですから、どこの子達よりも綺麗ですよ。」
その説明に俺は即座に反応した。
「待て!今何と言った。ボディソープやリンスインシャンプーが存在するのか?」
「何?ヤマハはそれが何か知っているの?」
「なるほどね、お兄ちゃんが興味を持ったのはそこかぁ。」
そんな俺達のやり取りを見ていた少女が独り言のように呟き、更に言葉を続けた。
「二人に会う前に少し寄って頂いた方が良いと思いますので、トイレに案内しますね。」
「ま、まさか....」
そこで見せられたのは、俺が恋して止まなかった自動洗浄機能付きトイレだった。
「俺、ここに住みたい。いや、お金どれだけ払っても良いから、ここに住みたい。」
「えぇ〜、どういうこと?私達よりもここの子達が気に入っちゃったわけ?ヤマハって、小さな子が趣味の変態だったの?」
「そういうことではないと思いますよ。このトイレが理由だと思います。私が説明しますから、一度使ってみますか?」
四人がここのトイレを一通り使用した後の感想は、ヤマハと全くの同意見だった。




