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僕と俺との遭遇

「ボス、玄関に冒険者ギルドのグランドマスターの使いという二人の女の子が来てますがどうしますか?」


「グランドマスター?そんなのいましたっけ?」


俺の返事に、秘書を勤めるユリアがナユに尋ねると、今は廃れてしまった冒険者ギルド本部のギルドマスターで、全国の冒険者ギルド全てを統括する存在だと教えてくれた。


「それと、これをボスに渡せば、話しは通るとか言われたんですが、判りますか?」


門番からユリアに渡された小さな棒状の物を受け取った瞬間、俺は椅子から飛び上がった。


「会う!応接室を準備しろ!」


ーーーー

小さなテーブルを挟んで、客側のソファに二人の少女が座り、向かい側の一人用の豪華な椅子には俺が腰をおろした。細かな駆け引きなどは性に合わないらしく、その少女は早速要件を切り出した。


「それでは、グランドマスターからの伝言をお伝えします。『現在、スラムでは、あなたのクランに属する倶楽部の女性達が、貴族の方達との間にもうけた赤子を放置するという事案が発生しております。更に孤児院では、やはり倶楽部の男性達の胤を宿してしまった貴族の婦女子達の赤子が捨てられるという事案も発生しております。クランのオーナーであるあなた様の考えを聞かせてほしい』とのことでした。」


それは始めて聞く内容だった。前世の時にも似たようなことは数多くあったが、疑似恋愛の関係を提供する以上は、それを遊びと割り切れず、誤解して本気になってしまう人間が一定数いることはしかたのないことだと言えた。


「遊びを遊びと割り切れず、本気の関係になってしまい、その結果としてそうなったのなら、それは自己責任と言えるのじゃないか?」


俺の言葉に、その娘は眉尻を上げてテーブルを両手で叩き割った。


「その結果として、スラムで飢え死にしたり、人買いに拉致されて奴隷として売られたり、孤児院から拾われて性奴隷にされたりするのも、子供達の自己責任だと言うのですか!」


そのあまりの激昂ぶりに、俺は少し慌てて、ユリアに諜報担当のナユを呼ぶように伝えた。


壊れたテーブルは、そのカイナと名乗る娘に簡単に片付けられ、その代わりにどこから取り出したのか理解できない少し豪華なテーブルが据えられていた。


おそらくは、収納魔法か空間庫のスキルが使用されたと思うが、幼く見えてもグランドマスターの使いと言えるだけの能力はあると、俺は推察した。


ナユから話しを聞くと、スポンサーを多く引き込むために相手の要望を受け入れたり、売り上げをより伸ばすために行動した結果として、不幸にも妊娠してしまったり、させてしまった倶楽部員が複数存在したことが判明した。


ナユから話しを聞いている間、どこからか取り出した自分で淹れた紅茶を飲んでいた二人を前にして俺は座り直した。


「待たせてしまったな。こちらの管理ミスがあることが判った。できる限りの範囲で援助させて頂き....」


「違う!私が言いたいのはそんなことじゃない!」


再びテーブルが叩き割られた。


「誰もが自分の幸せのために行動した結果としてそうなったなら、仕方のないところもある。でも、彼女や彼らは自分の為に行動してない。貴方のために、貴方の利益を増やすために、貴方に気に入られたい為に行動してしまった。できた子供達に愛情を注げないのは当たり前だ!そんなことがなぜ判らない!どうしてそこまで貴方に入れ込んでしまうのか、少し考えればその原因は明らかだろ!貴方の持っているスキルが原因だ!魅了のスキルのせいだとなぜ判らない!」


俺はショックを受けていた。自分のスキルがバレていたことにも驚いたが、今回の倶楽部員の問題行動の根本に自分のスキルがあったこと、それを指摘されるまで気づかなかったことが恥ずかしかった。


「更に言わせてもらうなら、解決方法も簡単なんだ。貴方がそういう事を止めてくれと言えば、倶楽部の方々は喜んでその言葉に従うだろう。それが貴方という存在だ。カリスマと呼ばれる存在なんだよ。」


後半の部分は、殆ど聞き取れなかったが、俺が間違えたことで、多くの罪のない子供が苦しみ、中には命を失った赤子がいたことは容易に理解できた。


「俺は、どうすれば良いのか判らない....知っているなら教えてくれ。」


思考がグルグル周って纏まらず、頭を抱えてソファに身体を埋めている俺に向かって、その少女がそれまでと口調を変えて言葉を続けた。


「でも、私は貴方を見て少し安心しています。魅了は使い方を誤れば、国を滅ぼすこともあるスキルです。その使い手がその使用と効果に悩んでいる姿は、希望が持てます。貴方を支える人達がそばにいる間は、大きく道を外すことはないと確信します。ねぇ、ユリアさんもそう思うでしょ?」


突然話しを振られたユリアは、自分の名前も既にバレていることにも驚いたが、それはおくびにも出さず答えた。


「当たり前です。私達銀座倶楽部は、全力でヤマハを支えます。それは未来永劫変わることはありません。」


堂々と対応するユリアを見上げると、彼女はウィンクとサムズアップで応じてくれた。


「魅了のスキルを持つ人間は、最終的に他人を全く信じられなくなることが多々あります。自分に良くしてくれる人達が、自分のスキルで魅了されているからそうしてるのか、本心からしてくれているのか判らなくなるからです。貴方にはその心配が無いようで安心しました。」


俺は目の前の少女を年齢相応に見ることを止めた。この世界には見かけは十歳位でも、実年齢は千を超える化け物もいると聞く、この娘はそんな化け物の一人なんだと理解することにすると、不思議とその言葉に耳を傾けることができた。


「で、お前達は俺に何をさせたいんだ?」


その言葉にカイナと呼ばれていた少女はニコッと笑い、それと同時に俺の背筋にゾワッと悪寒が走っていた。


「特に今は何もありません。現在のスラムと教会の孤児院で預かっていた対象児童は全員確保して、元冒険者ギルド本部のエルデの園でお預かりしています。大きくなって自己判断で行動できるようになれば、自由に外へ出す予定ですが、それまでは私達の籠の中で安全に育てていきたいと思っています。ただ、これから産まれてくる子供達については、教会やスラムに連れて行くことなく、私達の所へ連れて来て頂けるよう、そちらの方で周知徹底して頂けますか?それで充分です。」


「資金とか援助は必要ないのか?慈善事業では無いのだろう?」


何十人もの子供を育てていく為には、かなりの資金が必要であると思えた上での問いかけであったが、彼女は平然とした顔で、最も刺激的な言葉で俺に返答を返した。


「ノブレス・オブリージュ、貴方のいた世界での言葉が、今の私達の考え方に一番近いですね。もし、私達のことが気になるなら、一度銀河倶楽部の皆様でお越しください。精一杯おもてなしさせて頂きます。」


そう言って、二人はソファから立ち上がり、扉の方へ向かったが、突然何か思い出したように振り返った。


「忘れていました。これは私からのお土産です。あとで皆さんの感想を聞かせて頂けると嬉しいです。それと、この応接室は、少し寂しいですね。少し置き物も出させて頂きますね。」


テーブルの上にかつて見慣れていたレモンイエローの紙箱が出され、部屋の隅にたくさんの装飾で飾られたツリーが置かれ、俺が啞然としているうちに二人は部屋を出ていった。

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