冒険者ギルド本部にて3
今の建物はグランドマスター個人の所有物であるので、そのままグランドマスターの仕事のみを行う事務所とし、余ったスペースを孤児の面倒を見ることを主体とした慈善活動に使用することに決めたから、本来のギルドの運営は君に任せたと、古代竜の魔石と一緒に東支部の支部長に伝えると、彼は泣いて喜び、事業の足しにと白金貨五百枚ほどを渡してきたらしい。
はっきり言えば、古代竜の魔石の十分の一程度の額であったが、これから事業を運営していくのに、無いよりはあったほうが良いと考えて、彼女はそのまま白金貨を受け取って帰ってきた。
僕はと言えば、教会に出向いてシスターと相談しながら、まだまだ手のかかる三歳位までの子供達を全員引き取ってきた。将来貴族の跡目争いの禍根になりそうな子供は、それ以上の年齢であっても何かと理由をつけて、ギルド本部へ連れ帰って来ることも忘れなかった。
教会側も資金に余裕があるわけでもなく、本来は出家した貴族女性や軽微な犯罪を起こしてしまった貴族の子女を一時的に預かる施設であった為に、最近になって増えてきていた乳幼児の取り扱いには頭を痛めていたらしく、渡りに船の提案だったらしい。
これからも乳幼児が預けられるようなことがあれば引き取る旨の約束を交わして、僕は教会を後にした。
既にギルド本部は、僕のスキルで孤児院仕様にリフォーム済みであったので、受け入れもスムーズに行われ、責任者をミレイラとして、あの時から六ヶ月後になる今日この日に運営がスタートした。
スタッフは、僕とミレイラとユーフィリアの三人だけだったので、あまりにも数が少ないと判断した僕は、神狼のフェンリルに変化のペンダントを渡して人化してもらい、お手伝いしてもらうことにした。結界の外に出るとこの世の理により争いの種が飛んでくると判断したが、この僕の神界と呼ばれる結界を張り巡らしたギルド本部内にいる間は問題ないと考えてのことだった。
人化した彼女は大きな白い耳を生やした可愛い少女の姿をしていた。本来は雌雄同体であるので、少年でも少女でもどちらの姿も取ることができた筈だったが、飼い主?の影響なのか、この姿にはこだわりがあるようだった。
ということで、手伝ってもらう以上は、名前がないと不便だと言うことになって、彼女にも名前をつけることになった。
名無し、権兵衛、ナマエナドナイ、ノーネームなどの僕が提案した名前は全て却下され、ミレイラの提案したリルという名前に決まった。解せん。飼い主は僕のはずなのに。
リルは僕とミレイラの、腹違いの妹という設定となった。それを見ていた王女が泣いて羨ましがったのは御愛嬌だ。
ちなみに王子の正式名は、そのままだとスパイに発見されやすいと考え、ユーフィリアの父の名前、現エルフ皇国皇帝のダルフェルトより性を貰い、これまでのケイスラットの愛称がケインだったことから、ケインフェルトと改め、王女の名前は、正式名のメアリアの愛称メアとフィリアから取ってメアフィリアと変更した。その名前でギルドカードを発行したから、その素性を疑われることはないと思うが、ハーフエルフは成長するにつれて、エルフの特徴が強く表出してくることがあるため、将来的には二人にも変化のペンダントが必要になるかもしれなかった。
その後に鑑定してみると、これまでは職業欄に元エングリス王国王族と表示されていたものが、エルフ皇国皇族と変更されており、僕は慌てて鑑定偽造の指輪を二人に渡した。
建物内に僕達四人の他には、ケインとメフィの他に二十名の孤児を抱えることになったが、いつまでも元冒険者ギルド本部と呼ぶのもおかしな話なので、ユーフィリアに名前をつけてもらうことにした。
すると、これまではまともな名前を一つも提供することのできなかったユーフィリアが、『エルデの園』などという小洒落た名称を提案してきた。
よくよく事情を確認すると、エルフは元々神の子と言い伝えられており、神界にいる時に暮らしていた場所がエルデと呼ばれていたらしかった。それを聞いて、ユーフィリアのオリジナルでないことが判り、名付け親失格仲間が減らなかったことに僕はホッとしていた。
残っている問題は、今後新たに誕生してくる倶楽部絡みの孤児達のことであったが、これは一度あちら側のトップと話し合う必要があると結論付けられて、後日に僕とユーフィリアの二人で話し合いに出かけることになった。
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というわけで、僕とユーフィリアの二人は、今現在、クラン『ホスト倶楽部』の本部の前に立っています。
「凄いおっきなビルだね。僕らの建物の倍はあるんじゃないの?」
「問題は、相手のトップに話しを聞いてもらえるかどうかだと思うが、奴とは縁もゆかりも無いからな。」
ユーフィリアは、そう言っていたが、僕には勝算があった。この前に喫茶ホメダから鑑定した結果から、彼は稀人であり、異世界から来た人間だと判明したのだが、彼の名前『ヒロシ・ヤマハ』という名前は、あの遺跡で見かけた雑誌に登場する人間達の名前に通ずるものであり、同郷の可能性さえあった。これが切っ掛けになるのではないかと、僕は確信していた。
「こんばんは、元冒険者ギルド本部から、グランドマスターのお使いでやってきたカイナとユーフィリアという者ですが、どなたか御在宅ですか?」
玄関の扉の所で大声を張り上げると、凄く身体の大きい金属鎧を身に着けた男が出てきた。
「オーナーとのアポイントはお有りですか?」
当然、そんなものなど無かったが、僕は堂々とこう答えた。
「これを見せて頂ければ、必ず会ってもらえるはずだと指示を受けております。」
その言葉と同時に、ポーチからボールペンと言われるノック式の筆記具を取り出し、彼に渡した。
それを不思議そうに受け取った彼は、僕らにここで待つように言って扉の奥へと戻っていき、少し時間が経ってから再び扉が開かれ、僕らは中に入るように言われた。




