冒険者ギルド本部にて2
夕飯を準備して、子供達に食事をさせている間に、三階のギルドマスターのフロアに作成していた客間の二つを、据え付けていた家具を収納して、空間庫に保管していたベッドを六台ずつ配置し、男の子部屋と女の子部屋へと模様替えした。スキルを上げるために作成していた羊毛布団をベッドに広げて就寝の準備を整えると、次には来客用の大浴場にお湯を張り、やはりスキル上げのために作成していた半袖シャツやフェイスタオル、バスタオルを二十枚ずつ入り口の棚に並べ、いくつかの魔石ドライヤーを鏡台の前に並べ、浴室内にはボディソープやリンスインシャンプー、ボディウォッシュ用のスポンジなどを並べて準備を整えた。
支度に漏れがないかを確認してから、食堂に戻ると、子供達は疲れと満腹のせいか少しうつらうつらしている子供達が目についたので、ミレイラにまずは女の子達を入浴させるように伝えると、甥と姪と一緒に僕の家の風呂に入ると駄々をこねていたユーフィリアに、ミレイラがまだお風呂に慣れていないことを理由に、指導係として参加するようにお願いすると、喜んで大浴場へと向かっていった。
「さぁ、ここに残った男の子達は、今から食べたものの片付けをするよ。テーブルに乗っているお皿やお椀を、僕の居る流しへ持ってきてくれるかな?」
「「「はーい!」」」
まだ幼児と言ってよい子供達は、恐る恐る一枚ずつ僕の所へ食器を運んできてくれたが、中には落として割ってしまい、哀しそうに僕を見上げる子も何人かいた。
しかし、その子の見ている前で、時空魔法に属する復元の魔法を使って、割れたお皿を元に戻して上げると、満面の笑顔へと変わり、その魔法に興味を持ってくれた。
「みんなは、こんな魔法を使ってみたいかい?」
その言葉に、声を揃えて返事を返す彼らを見て、掴みはオッケーと納得する僕がいた。
全ての片付けが終わり、みんなでテーブルでお茶をしていると、風呂を終えたミレイラとユーフィリアが降りてきた。
「あれ?みんなは?」
「寝ちゃったわよ。さすがに今日一日の出来事は、おチビちゃん達にはかなりハードだったみたいね。でもさすがにカイナね。あの部屋見てビックリだわ。貴族の子供部屋でもあれ程の部屋は少ないわよ。」
「自分がスキル上げのために手作りしたものを並べただけだよ。そんなに大したものでもないよ。」
平然と答える僕を見て、ユーフィリアは軽くため息をついて首を振った。
「知らぬは本人ばかりなり..か、言い得て妙ね。ミレイラ、あなたも苦労するわね。」
振られたミレイラは、大きく頷いていた。
そして、僕が男の子達を率いて三階へと上り、彼らと一緒にお風呂に入ろうとすると、王子に思いっきりそれを阻止された。
「何故?僕はれっきとした男だよ。これは世間を誤魔化すための偽りの姿だよ。」
何度そう叫んでも受け入れてもらえず、仕方なくボディソープやスポンジ、リンスインシャンプーの使い方を教え、入浴後のドライヤーの使い方や衣服などの説明は、ミレイラとユーフィリアに任せて、僕は屋上の自分の家の風呂に一人寂しく入った。解せん。
男の子達を寝かしつけたあと、ギルドマスターフロアの応接室に、僕とユーフィリア、ミレイラと王子の四人が集まった。
テーブルにはヴェローナストロベリーやロアカーウエハースやロイスチョコレートなどを並べたが、これまでユーフィリアにも提供していなかったので、先程から彼女がお菓子の山に伸ばす手が止まっていなかった。
「おいひぃよぉ。」
「さぁ、ダメな大人は放っておいて、僕達は将来の話をしよう。今回のことと、事前に教会の孤児院に問い合わせていた内容を考慮すると、現在スラムに増えている孤児の子は、街に増えている倶楽部の女性達が、貴族の子供を宿してしまい、自分を優先して育てることを放棄してしまった結果だと言えるし、教会に預けられている子供達は、倶楽部の男性達の子種を宿してしまった貴族の妻や娘が、自分や家の立場を優先して、不祥事を揉み消すために産まれた子供達を手放した結果ということだろうね。」
僕の言葉に真剣に頷く、妹と王子の前で、年齢だけ重ねてしまった一番の年輩の女性が情けない姿を曝していた。
それにやっと気づいたユーフィリアが、姿勢を正して改めて席に着くのを見て、僕は軽く溜め息をついて話しを続けた。
「僕は孤児院の子供達も引き取るべきだと思っている。その血統背景を考えると、その子達は政治に利用されてしまう可能性が否定できないと思う。ある程度の武力を有するバックアップが必要だとすれば、ここで預かることは最善と言えると思うんだけど、どうだろうか?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。ここは冒険者ギルド本部であって、孤児院ではないんだが....」
「ただの一人の冒険者さえ訪れない、職員が僕を除いて一人もいない施設が、冒険者ギルド本部と言えますか?
そろそろ真剣に本部機能を移した方が良いと思います。王都東支部の支部長なら、喜んで引き受けてくれるんじゃないですか?」
「私だってそうしたいけど、冒険者ギルド本部のギルドマスターは、他のギルドマスターと違って、全世界の冒険者ギルドマスターの選挙で選出され、その死亡によって初めて役職から解放されるグランドマスターとしての役割があるんだよ。私が死なない限り、その制約からは開放されない....」
「では、そのグランドマスターとしての役割以外を全て東支部長に任せてしまえば良いじゃないですか、冒険者ギルド本部ギルドマスター代理という仮の役職でも、彼は満足するはずですよ。グランドマスターになるのは選挙以外には無いんですから。」
その言葉に、ユーフィリアは開いた左手の掌を、握った右手の拳でポンと叩いた。
そうか、そんなうまい手があったのかと考えているのが見え見えの表情だった。
「この前、僕があなたに渡した古代竜の魔石でも渡して、東支部を改造するか、新たに建て直して本部らしくしなさいとでも言えば、泣いて喜ぶと思いますよ。」




